旅行業は、登録制度によって業務範囲が明確に区切られている業種です。どの種別で登録しているかによって、扱える商品も、必要な資産要件も変わります。この構造を押さえたうえで、いまの業界の状況を公表資料から整理します。
数字で見る旅行業界の現在地
観光庁「各都道府県の旅行業者・旅行業者代理業者・旅行サービス手配業者数一覧表」(令和8年4月1日現在)によると、登録状況は次のとおりです。
| 区分 | 登録者数 |
|---|---|
| 第1種旅行業 | 599者 |
| 第2種旅行業 | 3,224者 |
| 第3種旅行業 | 5,081者 |
| 地域限定旅行業 | 870者 |
| 旅行業者代理業 | 450者 |
| 旅行サービス手配業 | 3,901者 |
| 合計 | 14,125者(うち旅行業者は9,774者) |
構成を見ると、第3種と第2種で旅行業者の8割以上を占めます。第1種は599者と限られており、そのうち324者が東京に集中しています(同一覧表)。募集型企画旅行を海外まで含めて扱える第1種は、体制と資産の要件が重く、地方では数が限られるという実態が数字に表れています。
登録種別という、この業界の骨格
旅行業法では、登録行政庁が種別によって分かれています。観光庁の案内によれば、第1種旅行業は観光庁長官の登録、第1種以外(第2種・第3種・地域限定)は都道府県が登録を担当します。
この種別は、単なる区分ではありません。募集型企画旅行を国内外で実施できるか、国内のみか、営業所の周辺に限られるか——扱える商品の範囲がここで決まります。加えて、種別に応じた基準資産額と営業保証金(または旅行業協会への弁済業務保証金分担金)が求められます。
また、旅行業を営む営業所ごとに旅行業務取扱管理者を選任することが求められています。総合・国内・地域限定の各区分があり、取り扱う業務に応じた資格者の配置が前提です。この点は、後述する事業承継の場面で必ず論点になります。
登録の要件、基準資産額、営業保証金、旅行業務取扱管理者の選任に関する取扱いは、種別や個別の事情によって異なります。実行にあたっては必ず観光庁・所管の都道府県および専門家にご確認ください。
需要の回復と、その中身の変化
旅行需要そのものは明確に回復しています。日本政府観光局(JNTO)の推計値によると、2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万3,600人で、前年(3,687万148人)を15.8%上回り、過去最高を更新しました。観光庁のインバウンド消費動向調査の速報値では、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,559億円とされています。
宿泊の受け皿も増えています。厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」によると、令和6年度末現在の旅館業の施設数は98,338施設で、前年度に比べ4,863施設(5.2%)増加しました。内訳では簡易宿所営業が44,901施設(7.1%増)と伸びが大きく、宿泊形態の多様化が数字にも表れています。
もっとも、旅行業者にとって需要の回復がそのまま業績の回復を意味するとは限りません。個人が直接予約する比率が高まれば、旅行業者を介さない流れが増えるからです。この業界で問われているのは、需要の総量ではなく「どこで介在価値を出すか」だといえます。
経営環境の変化|人が動く事業だからこその課題
旅行業の経営環境について、公表資料から読み取れる論点と、実務上よく伺う課題を整理すると次のようになります。
- 取扱形態の偏り——募集型企画旅行、受注型企画旅行(団体・修学旅行など)、手配旅行のいずれが主力かで、収益の安定度が大きく異なります。学校・企業・自治体との継続的な取引は、売上が読めるという意味で評価されやすい領域です。
- 人材——旅行業務取扱管理者の有資格者、そして添乗・手配の実務を担える人材の確保。感染症の影響で離職した人材が戻っていないという声は各地で伺います。
- デジタル対応——予約システム、決済、そして旅行サービス手配業者との連携。システム投資の負担は小規模事業者ほど重くなります。
- 手配業の増加——旅行サービス手配業(ランドオペレーター)の登録は3,901者に達しており、訪日需要の受け皿としての役割が広がっています。
事業承継の観点|登録・営業保証金・人材
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。旅行業は個人の力量と人脈で支えられている面が大きく、経営者ご自身が主要な取引先を握っているケースが目立ちます。
承継やM&Aを検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 登録の扱い——株式譲渡であれば法人が存続するため登録は一般に維持されますが、事業譲渡では譲受側が自ら登録を受けていることが前提となるのが通常です。役員変更に伴う届出の要否も確認が必要です。
- 基準資産額——種別ごとに求められる基準資産額を満たしているか。譲渡に伴う資本構成の変更が、この要件に影響しないかを確認します。
- 営業保証金・弁済業務保証金分担金——供託の状況、旅行業協会への加入の有無と、承継後の取扱い。
- 旅行業務取扱管理者——誰が有資格者で、譲渡後も在籍する見込みがあるか。経営者ご本人が兼ねている場合は、体制の再構築が交渉の前提になります。
- 前受金と旅行前の未催行分——受注済みで未催行の旅行がどれだけあるか、前受金の管理状況。承継のタイミング設計に直結します。
- 取引先との関係——学校・企業・自治体との契約や慣行、宿泊施設・交通事業者との仕入関係。属人的な関係がどこまで法人に帰属しているかは、買い手が慎重に見る点です。
宿泊施設をあわせて運営されている場合は「ホテル・旅館のM&A」、登録・許認可のスキーム別の扱いは「M&Aで許認可はどうなるか」もあわせてご覧ください。
まとめ|登録と信用が生きているうちに
旅行業は、登録という制度上の資格と、長年の取引で積み上げた信用の二つで成り立っています。どちらも、事業を止めてしまえば急速に失われるものです。募集を止め、有資格者が退職し、登録の維持が難しくなってからでは、引き継げるものが減っていきます。
訪日需要が過去最高を更新し、旅行業者の登録数も一定の水準を保っているいまは、事業の価値を評価してもらいやすい局面です。続けるにせよ、誰かに託すにせよ、まずは自社の取扱形態と取引先の構成を整理することから始めていただければと思います。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、旅行業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。登録種別や有資格者の確認を含む初期の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。