税理士は、中小企業の経営に最も近い専門職です。決算と申告だけでなく、資金繰り、事業承継、そしてM&Aの相談まで、経営者が最初に声をかける相手であることが多いでしょう。その税理士業界がいまどんな状況にあるのかを、公表資料から整理します。
数字で見る税理士業界の現在地
日本税理士会連合会の公表によると、令和8年8月末日現在の税理士登録者数は82,343人です。税理士法人の届出数は5,330件で、うち主たる事務所が3,167件となっています。
比較の材料として、日本公認会計士協会の会員数調(2024年12月31日現在)では公認会計士が36,696人、監査法人が288です。中小企業の会計・税務を日常的に支えているのは、人数の面から見ても税理士が中心であることがわかります。
税理士法人の数が5,000件を超えていることも、この業界の変化を示す数字です。かつては個人事務所が中心でしたが、法人化によって複数の有資格者で運営し、事務所の継続性を確保する形が広がってきました。承継という観点では、この違いは小さくありません。
地域分布|会員数はどこに集まっているか
同じ日本税理士会連合会の公表では、税理士会別の登録者数も示されています。上位を見ると、東京税理士会が24,786人(税理士法人1,586件)、近畿税理士会が15,580人(同929件)、関東信越税理士会が7,703人(同524件)です(令和8年8月末日現在)。
東京と近畿の二つで全体の約半数を占める計算になり、大都市圏への集中がはっきりしています。地方では、一人の税理士が広い地域の関与先を担当しているケースも多く、その方が引退されれば、地域の中小企業が拠り所を失うことになりかねません。
この構造は、地方の税理士事務所の存在価値を裏づけると同時に、承継の緊急度が地域によって異なることも示しています。
制度対応が業務量を押し上げた数年
この数年、税理士事務所の業務量を押し上げてきたのは制度対応です。
- 適格請求書等保存方式(インボイス制度)——2023年10月1日に開始しました(国税庁)。登録の要否の判断、取引先への説明、経理処理の見直しなど、関与先ごとに個別の対応が必要になりました。
- 電子帳簿保存法——電子取引データの電子保存への対応が求められ、関与先の証憑管理の見直しを支援する場面が増えました(国税庁)。
- 電子申告の浸透——法人税・消費税・所得税の申告手続きの電子化が進み、事務所側のシステム対応も不可欠になっています。
これらは、事務所にとって新たな関与の機会でもありました。一方で、報酬に反映しきれないまま業務量だけが増えた、という声も少なくありません。制度が変わるたびに説明と対応が必要になる構造は、今後も続くと見るべきでしょう。
なお、事業承継に関わる税制については、法人版事業承継税制の特例措置において、特例承継計画の提出期限が2027年3月31日から2027年9月30日に延長され、適用期限は2027年12月31日とされています。関与先の承継を支援する立場では、この期限管理も重要な業務になります。
経営環境の変化|報酬と人手のはさみ撃ち
税理士事務所の経営は、報酬と人手の両面から圧力を受けています。
報酬面では、長年据え置かれた顧問料が珍しくありません。関与先の業績や規模が変わっても契約を見直してこなかった結果、業務量に見合わない報酬になっている——という状況は各地で伺います。制度対応で業務が増えても、そのぶんを請求できていないケースも同様です。
人手の面では、職員の採用難が続いています。記帳から決算まで任せられる職員を育てるには時間がかかり、育った人材が独立や転職で抜ければ、担当していた関与先の対応が滞ります。受託可能件数は職員数で決まりますから、採用ができなければ事務所は成長できません。
この二つが同時にかかると、所長ご自身が実務を抱え込むことになります。多くの事務所で、所長の稼働が事務所の上限を決めているのが実情ではないでしょうか。
事務所承継の観点|顧問先・職員・法人化
帝国データバンクの2025年調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。関与先に承継を勧める立場でありながら、ご自身の事務所の承継が決まっていない——そうしたご相談は少なくありません。
事務所の承継を検討する際に整理しておきたい論点は次のとおりです。
- 関与先の構成——件数、業種、規模、月額顧問料と決算料の水準、契約年数。上位数社への依存度も見られます。
- 業務の内訳——記帳代行の割合、給与計算や社会保険手続きの受託、相続・資産税の取扱い実績。付加価値の高い業務の比率は評価に影響します。
- 職員体制——在籍数、担当先の割り振り、有資格者・科目合格者の人数、平均勤続年数。
- 所長の関与度——所長が直接担当している関与先の割合。承継後の継続性を左右します。
- 形態——個人事務所か税理士法人か。法人であれば持分の移転という形が取りやすく、個人事務所では関与先ごとの契約の切替えという手続きが必要になります。
- システムと過年度データ——使用ソフト、データの保管状況、電子申告の利用環境。統合作業の手間に直結します。
税理士事務所・税理士法人の承継は、税理士法および各税理士会の規則に沿って進める必要があります。守秘義務の取扱いを含め、具体的な進め方については所属される税理士会および専門家に必ずご確認ください。
事務所の譲渡における関与先と職員の引継ぎについては「税理士事務所・会計事務所のM&A」、関与先の承継を支援する際の税制については「事業承継税制とは」もあわせてご覧ください。
まとめ|関与先との関係が生きているうちに
税理士業界は、登録者数が8万人を超え、税理士法人という組織形態も定着してきました。一方で、大都市圏への集中と、所長個人に依存した小規模事務所の承継という課題は残ったままです。
関与先が続き、職員が在籍しているうちであれば、事務所の機能を引き継ぐ道はあります。関与先が減り、職員が離れてからでは、その道は狭まります。関与先の経営者に「早めに考えましょう」とお伝えしている、その言葉をご自身にも向けていただければと思います。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、士業事務所を含む中小企業・事業体の承継のご相談を承っています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。