買収の予算が1億円以下の案件は、数としては多くあります。ただし規模が大きい案件と同じ進め方では、思っていたものと違う結果になることがあります。
小さい案件では、資料が少なく、社長への依存が強く、整っていない部分が多いのが普通です。本稿では、この前提で何を確かめるかを整理します。
探すときの経路
小規模な案件は、仲介会社だけでなくいくつかの経路から出てきます。
M&Aの仲介会社。規模の下限を設けている会社もあるため、扱っているかを確かめます。
マッチングのサイト。数は多いものの、情報の確かさは案件によって差があります。
金融機関や士業からの紹介。地域の情報を持っています。
事業の関係先。取引先や同業からの話が出てくることがあります。
どの経路でも、最初に出てくる情報は少なく、会社名も分かりません。検討に入るかどうかは限られた情報で判断することになります。
経路によって、出てくる案件の性質が変わります。仲介会社から出る案件は資料が整っていることが多く、関係先からの話は資料がない代わりに事業の中身がよく分かります。複数の経路を並行して見ておくと、比べる材料が増えます。
資料が少ない前提で見る
規模の小さい会社では、整った資料が少ないのが普通です。取引先別の売上がない、契約書がない、従業員の一覧が古い——どれもよくあります。
ここで「資料が揃っていないから危ない」と判断すると、ほとんどの案件が検討の対象から外れます。
見るべきは、資料がないことで何が確かめられないのかです。取引先別の売上がなければ、売上の偏りが分かりません。それが分からないリスクを、価格や条件でどう扱うかという話になります。
必要な資料は、聞き取って作ってもらう形も取れます。社長の頭の中にある情報を書き出す作業で、数週間かかることがあります。
社長への依存を測る
小規模な会社では、社長が営業も現場も経理も見ていることがあります。買ったあとに社長が抜けると、何が止まるのかを確かめます。
確かめる項目は、取引先との関係が社長個人のものか、価格の決定を社長がしているか、現場の判断を社長がしているか、仕入先との交渉を社長がしているか。
依存が強い場合、引き継ぎの期間を長く取る必要があります。半年では足りず、一年から二年かかることもあります。社長が残る意思があるかを早めに確かめます。
自分が常駐して引き継ぐのか、人を送るのか。送る人がいないなら、社長に残ってもらう前提で条件を組みます。
依存の度合いは、社長に一日の動きを聞くと見えてきます。朝から晩まで何をしているのか。その一つずつについて、代わりができる人がいるかを確かめます。
価格以外にかかる費用
予算を考えるとき、株式の対価だけでは足りません。ほかにかかる費用があります。
DDの費用。規模が小さくても、財務と法務を見てもらえば費用が発生します。範囲を絞る判断が必要になります。
仲介の手数料。会社によって基準が違うため、検討の初期に確かめます。
買ったあとに必要な資金。運転資金、設備の更新、未払いの精算。買った直後に資金が必要になる案件は少なくありません。
許認可の再申請や名義変更の費用。業種によっては手続きが必要です。
これらを含めた総額で予算を見ます。対価に予算の全額を充てると、買ったあとに動けなくなります。
簿外のものを確かめる
規模の小さい会社では、決算書に出ていない項目が残っていることがあります。
未払いの残業代。勤怠の記録が残っていない会社では、金額の見積もりが難しくなります。
社会保険の未加入。加入すべき人が加入していないと、遡って負担が生じることがあります。
社長個人と会社の資産の混在。会社の名義の車を家族が使っている、社長の自宅が会社の名義になっている、といった形です。
役員への貸付金。回収できない前提のものが資産に計上されていることがあります。
これらは金額に置き換えて、価格か補償で処理します。見つけたから降りるのではなく、条件に織り込む形が実務的です。
資金の調達
予算1億円以下の買収では、自己資金と借入を組み合わせる形が多くなります。
金融機関は、買収そのものに対する融資と、買ったあとの運転資金を分けて見ます。両方の相談を同時に進めます。
事業承継やM&Aに関する補助金の制度があり、要件に当たれば費用の一部に充てられることがあります。公募の時期と要件は年度によって変わるため、その年度の要領を確かめてください。
また、買収の資金に保証を求められることがあります。個人として保証を引き受けるかどうかは、事前に家族と相談しておく事柄です。
買ったあとの負担を見込む
小規模な案件では、買ったあとにやることが多くなります。
管理体制の整備。帳簿の付け方、勤怠の記録、契約書の作成。整っていない部分を整える作業です。
人の手当て。社長が抜けた分を埋める人が必要です。自分が入るのか、採用するのか。
取引先への説明。小規模な会社では、取引先が社長を信頼して取引していることが多くあります。関係を引き継ぐ作業に時間がかかります。
これらは費用にも時間にもなります。買収の検討の段階で、買ったあとの半年の計画まで考えておくと、予算の全体像が見えます。
なお、ここに書いたのは一般的な整理です。個別の判断は会社の事情によって変わりますので、税務・法務の点は税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。
半年の計画が書けない案件は、まだ検討の材料が足りていないと考えたほうがよいです。
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