後継者がいないとき、「たたむか、譲るか」という二択で悩まれる方は多くいらっしゃいます。このとき「仲介手数料がかかるから譲渡は高い」と考えるのは、比べ方として正しくありません。廃業にも費用は出ますし、何より会社の資産を処分価額でしか換金できません。比べるべきは、かかる費用ではなく最後に手元に残る金額です。本稿では、両方を同じ紙の上に並べるための項目と手順を整理します。
比べるのは「かかる費用」ではなく「残る金額」
費用だけを見ると、廃業のほうが安く見えることがあります。しかし判断に使うべき数字は、次の式です。
手元に残る金額 = 受け取る金額 − 出ていく金額 − 税金
廃業の場合、受け取る金額は「資産を処分して得られる金額」です。譲渡の場合は「譲渡対価」です。ここに決定的な差が出ます。廃業では、事業として続いているからこそ価値のあるものが金額にならないからです。
- 取引先との関係、常連客、長年の信用
- 従業員の技能と、組織として動ける体制
- 許認可、加盟資格、登録
- 機械や車両——中古市場の処分価額は、帳簿価額を大きく下回ることが多い
- 在庫——業種によってはほとんど値が付かない
譲渡であれば、これらは価格に反映され得ます。反対に、譲渡では仲介手数料や専門家費用が出ます。どちらが有利かは会社ごとに違うので、自社の数字で並べる以外に確かめる方法はありません。廃業とM&Aの選択そのものについては「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか」でも扱っています。
廃業に伴って出ていくもの
廃業は「店を閉めて終わり」ではありません。解散から清算結了までの手続きと、事業を止めることに伴う支出があります。金額は会社の規模・業種・立地で大きく変わりますので、項目を洗い出して、それぞれ見積もりを取ってください。
| 項目 | 性質 | 確認先 |
|---|---|---|
| 解散・清算人の登記、清算結了の登記 | 登録免許税と司法書士への報酬 | 司法書士 |
| 官報公告 | 債権者保護手続きのための掲載費 | 官報販売所 |
| 清算事務・申告 | 解散事業年度と清算中の申告、財産目録の作成 | 顧問税理士 |
| 原状回復・設備撤去 | 賃借物件の返還、機械の搬出、廃棄物の処理 | 工事業者・処理業者 |
| 在庫・機械の処分 | 売却できれば収入、できなければ処分費用 | 買取業者 |
| 従業員の退職金・解雇予告手当 | 就業規則と労働基準法に基づく支払い | 社会保険労務士 |
| リース・賃貸借の中途解約 | 違約金や残債の一括精算が生じ得る | 契約書の条項 |
| 借入金の一括返済 | 返済原資が足りるか。経営者保証の扱い | 取引金融機関 |
このうち見積もりが大きくぶれるのは、原状回復と設備撤去、そして従業員への支払いです。とくに賃借物件のスケルトン返しや、産業廃棄物の処理が絡む場合、想定を上回ることがあります。廃業と倒産の違いや、手続きの流れは「廃業と倒産は何が違うのか」をご覧ください。
譲渡に伴って出ていくもの
譲渡の側も同じように洗い出します。こちらは項目が少なく、見積もりを取りやすいのが特徴です。
| 項目 | 性質 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 成功報酬と中間金。契約前に試算できる |
| 専門家費用 | 契約書の確認、税務の相談。必要に応じて |
| 登記・証明書などの実費 | 役員変更登記、印鑑証明、謄本など |
| 株式の集約・整理 | 名義株や分散株がある場合の買取資金と手続き費用 |
| 譲渡益への課税 | 株式譲渡益は20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計) |
当社の基準で計算例を示します。株式価値3億円・負債総額2億円の会社であれば、基準額は5億円、レーマン方式の計算額は2,500万円です。このうち基本合意の時点で中間金として250万円(成功報酬額の10%)、成約時に残りの2,250万円をお支払いいただきます。中間金は成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
ここで大切なのは、この2,500万円と比べる相手は「廃業の費用」ではなく「廃業した場合に受け取れない3億円」であるという点です。仲介手数料以外の費用の全体像は「M&Aで仲介手数料以外にかかる費用」で整理しています。
同じ紙の上に並べる
洗い出しが終わったら、次の形で一枚にまとめます。空欄は自社の数字で埋めてください。金額の大小ではなく、いちばん下の行だけを比べます。
| 項目 | たたむ場合 | 譲る場合 |
|---|---|---|
| 受け取る金額 | 資産の処分で回収できる額 | 譲渡対価(+役員退職金) |
| 出ていく費用 | 登記・公告・撤去・処分・退職金など | 仲介手数料・専門家費用・実費 |
| 借入金の返済 | 原則として一括で清算 | 会社に残るか、買い手が引き継ぐか |
| 税金 | 清算に伴う課税。残余財産の分配にかかる課税 | 株式譲渡益20.315% |
| かかる期間 | 解散から清算結了まで | 相手探しから成約まで |
| 手元に残る金額 |
税金の扱いは両者でまったく違い、会社に残った財産をどう受け取るかによって税率も変わります。この部分は一般論では埋められませんので、顧問税理士に自社の数字で試算してもらってください。手取りの考え方は「手取りはいくらになるか」でも扱っています。
また、金額以外の行も忘れないでください。従業員の雇用が残るかどうか、取引先への供給が続くかどうかは、金額の欄には表れませんが、多くの経営者にとって実際の判断を左右します。
先に決めるほど、どちらの選択肢も広い
最後に、時間の話をします。この比較は早く始めるほど有利です。理由は単純で、どちらの選択肢も会社に体力があるうちのほうが条件が良いからです。
- 譲渡は、業績が落ちてからでは価格も相手の数も減る
- 廃業も、資金に余裕があるうちでなければ費用を払いきれない
- 従業員や取引先への説明は、いずれの場合も準備の時間が要る
- 許認可や賃貸借の期限、設備の更新時期が判断を縛ることがある
反対に、決められないまま数年が過ぎると、選べたはずの選択肢が減っていきます。売上が落ち、主要な従業員が抜け、設備が古くなってからでは、譲渡の条件は厳しくなり、廃業の原資も細ります。
当社では、譲渡を前提としないご相談も承っています。決算書をお預かりできれば、譲渡した場合の対価の考え方と、当社の手数料の見込みをお伝えできますので、廃業の見積もりと並べてご判断いただけます。相談料・着手金・月額報酬はいただきません。「まだ決めていない」段階でご相談いただくほうが、選べる幅は広く残ります。
よくあるご質問
Free Consultation
たたむ場合と譲る場合、同じ紙で比べてみませんか。
決算書をお預かりできれば、譲渡した場合の対価の考え方と手数料の見込みをお伝えします。ご相談の段階で費用は発生しません。
フォームは24時間受け付けており、2営業日以内にご返信します。メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。