譲渡対価が契約日に全額入金されるとは限りません。買い手の資金調達の都合で分割になることもあれば、譲渡後の業績に応じて追加の対価が決まる設計になることもあります。このとき気になるのが、手数料はどの金額で計算され、いつ支払うのかです。まだ受け取っていない対価の分まで先に支払うことになれば、手取りの計画は崩れます。本稿では、対価が一度に入らない場合の手数料の考え方を整理します。

対価が一度に入らない形は、なぜ生まれるのか

まず前提として、こうした設計は例外的なものではありません。主に次の事情から生まれます。

  • 価格の開きを埋めるため——売り手と買い手で将来の見通しが違うとき、確定分と業績連動分に分けて折り合う
  • 買い手の資金の都合——一度に全額を用意できず、複数回に分ける
  • 引継ぎの担保——社長の残留期間や取引先の継続を条件に、後半の対価を設定する
  • 表明保証への備え——対価の一部を一定期間留保し、問題が出なければ支払う

いずれも売り手にとって不利とは限りません。確定分だけで合意するより総額が大きくなることもあります。ただし「受け取れるかどうかが後で決まる部分がある」という点は共通しており、手数料の計算をそこに合わせておかないと、負担だけが先に来ます。設計そのものの考え方は「アーンアウト条項とは」で扱っています。

手数料はどの金額を基準に計算されるのか

基準の取り方には三通りあります。契約書に明記されていないことも多いため、先に確認すべき点です。

基準の取り方計算に使う金額売り手にとっての意味
確定分のみ契約時に金額が確定している対価負担が受領と対応する。後で対価が増えたら、その時点で追加計算
上限額を含む総額業績連動分が満額出た場合の金額受け取れるか分からない部分にも手数料がかかる
現実の受領額実際に入金された金額の累計最も実態に合うが、精算の手間が続く

問題が起きやすいのは二番目です。たとえば確定対価2億円、業績連動分が最大1億円という設計で、総額3億円を基準に計算されると、1億円が一円も支払われなかった場合でも、その分の手数料を負担したことになります。移動総資産方式では負債総額も加わりますので、影響はさらに大きくなります。

実務としては、確定分で計算し、追加の対価が確定した時点で差額を精算するという整理が、売り手・仲介の双方にとって説明の付く形です。どの整理を採るにせよ、契約書の報酬条項に「対価が変動した場合の取扱い」が書かれているかを確認してください。譲渡価格が動いた場合の一般的な扱いは「譲渡価格が下がったら手数料はどうなるか」で整理しています。

後から対価が増えた・減ったときの精算

精算のルールは、増えたときと減ったときの両方を見てください。片方しか書かれていない契約は、その時点で売り手に不利です。

場面確認する点
業績連動分が支払われた追加で手数料が発生するか。料率は当初の段階を引き継ぐか、再計算か
業績連動分が支払われなかったすでに支払った手数料のうち、対応する部分が返還されるか
分割の途中で買い手が支払えなくなった未回収分に対応する手数料の扱い。回収の支援は業務範囲に含まれるか
留保分が減額された表明保証違反で対価が減ったとき、基準額も減額されるか

とくに三番目は見落とされがちです。分割払いの残額が回収できなかった場合、手数料は支払済み、対価は未回収という状態が起こり得ます。買い手の信用力を確認する、担保や保証を付ける、分割期間を短くするといった手当ては契約交渉の段階でしかできません。

税務上も、対価をいつの時点で収入として計上するかという論点があります。受け取る時期と課税の時期がずれることもありますので、「アーンアウト対価の税務」を参考にしつつ、具体的な申告の扱いは顧問税理士にご確認ください

入金と支払いの時間差をどう埋めるか

基準額の話とは別に、支払期日の問題があります。手数料の発生時点が最終契約の締結やクロージングであっても、対価の一部が数年後にしか入らないのであれば、支払期日をどう置くかで資金繰りは変わります。

整理の方法としては、次のようなものがあります。

  • 受領連動——対価の入金に合わせて手数料も分割で支払う
  • 確定分先行——確定対価に対応する分をクロージング時に支払い、残りは確定時に精算する
  • 支払期日の後ろ倒し——発生時点は動かさず、支払期日を入金後に設定する

いずれも仲介契約に署名する前であれば話し合える論点です。対価の設計は交渉が進んでから固まりますが、「分割や業績連動になる可能性がある」という段階で相談しておけば、条項の書き方で吸収できます。分割での支払いそのものについては「M&A手数料は分割で払えるのか」もご覧ください。

なお、当社の中間金は成功報酬額の10%で、基本合意の時点でお支払いいただきます。中間金は成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。対価が変動する設計の場合、中間金の算定根拠となる成功報酬額をどの見込みで置くかも、あわせてご確認いただいています。

契約前に確認しておくこと

対価が一度に入らない可能性があるなら、仲介契約の前に次の五点を確認してください。

  • 基準額に含める対価の範囲——確定分のみか、上限額を含むか、受領額か
  • 増額時の追加計算——料率の段階は引き継ぐか、全体で再計算するか
  • 減額時の返還——対価が予定を下回ったとき、手数料は精算されるか
  • 支払期日——入金の前か後か。受領に連動させられるか
  • 未回収になった場合——回収の支援は業務に含まれるか。手数料の扱いはどうなるか

これらはすべて「起きてから」では交渉できません。反対に、契約前であれば文言の追加で足りることがほとんどです。なお、対価の設計自体を手数料の都合で決めるのは順序が逆です。まず受け取り方として納得できる形を決め、その形に合う手数料の定め方を選んでください。

当社は成功報酬型で、基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額、最低額は2,000万円(税別)です。対価が分割・業績連動になる見込みが出た段階で、入金と支払いの時期を一枚の表にしてご確認いただいています

よくあるご質問

A.契約書に精算の定めがあるかどうかで決まります。確定分のみを基準に計算し、追加対価が確定した時点で差額を精算する整理であれば、受け取っていない対価に手数料がかかることはありません。上限額を含む総額で計算する契約の場合は、減額時の返還条項があるかを必ず確認してください。定めがなければ、契約前に明記を求めるのが自然です。
A.契約の定め次第ですが、手数料を支払済みで対価が未回収という状態は起こり得ます。防ぐための手当ては契約交渉の段階でしかできません。買い手の信用力の確認、担保や保証の設定、分割期間を短くする、未回収分に対応する手数料の精算条項を入れる、といった方法があります。具体的な条項は弁護士にもご確認ください。
A.仲介契約に署名する前であれば、話し合える論点です。対価の受領に連動した分割、確定分を先行して支払う整理、支払期日の後ろ倒しなどの方法があります。対価の設計が固まる前でも、分割や業績連動の可能性がある段階で相談しておけば、条項の書き方で吸収できます。
A.受け取る時期と課税の時期がずれる場合があり、契約の内容によって扱いが変わります。当社から一般的な考え方はご説明できますが、実際の申告については顧問税理士または所轄の税務署にご確認ください。手取りの計画を立てるうえでは、手数料の支払時期と納税の時期を同じ表に並べて確認することをお勧めします。

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受け取り方が決まる前に、支払い方も決めておけます。

対価が分割・業績連動になる場合の手数料の計算と支払時期を、一枚の表にしてご説明します。ご相談の段階で費用は発生しません。
フォームは24時間受け付けており、2営業日以内にご返信します。メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら