店舗や事務所を借りている会社の貸借対照表には、敷金・保証金が資産として残っています。金額が大きいこともありますが、全額が返ってくるとは限りません。買い手がどう見るかを整理します。
資産に計上されているが、現金ではない
敷金・保証金は、賃貸借契約を結ぶ際に差し入れたお金です。退去時に返還されるという前提で、資産に計上されています。
ところが実際には、返ってこない部分があります。契約で「保証金の◯%は償却する」と定められている場合、その分は最初から戻りません。加えて、原状回復の費用が差し引かれます。
買い手は、簿価のうち実際に回収できる見込みがいくらかを見ます。差額は資産の評価減として扱われます。
償却の定めを確認する
まず契約書で、償却(敷引き)の定めがあるかを確認してください。
「保証金のうち20%を償却する」「契約時に2か月分を償却」といった定めが一般的です。この分は返還されないため、本来は費用として処理されているはずです。
計上したまま資産に残している会社では、その分が過大計上になります。デューデリジェンスで指摘される典型例です。会計処理が正しいかを税理士に確認してください。
原状回復義務を見積もる
退去時には原状回復が必要です。これは将来の負担であり、敷金から差し引かれるか、別途請求されます。
飲食店や工場のように内装・設備の造作が大きい物件では、原状回復費用が敷金を超えることもあります。その場合、資産どころか負債です。
買い手は、契約書の原状回復条項と、実際の造作の状況を見ます。「スケルトン渡し」の定めがあるかどうかが分かれ目です。金額の見当がつかない場合は、内装業者に概算を出してもらっておくと説明ができます。
賃貸人の承諾が要るか
事業譲渡や会社分割で賃貸借契約を移す場合、賃貸人の承諾が必要です。承諾が得られなければ、その物件は使えません。
株式譲渡では会社が変わらないため原則として承諾は不要ですが、チェンジオブコントロール条項が入っていれば通知や承諾が要ります。
あわせて確認したいのが、承諾料(名義変更料)の有無です。賃貸借契約の地位移転にあたり、賃料の1か月分程度を求められることがあります。誰が負担するのかを、契約の段階で決めておいてください。
複数店舗がある場合
店舗が多い会社では、物件ごとに条件が違うのが普通です。敷金の額、償却の割合、原状回復の範囲、契約期間、更新料。
実務では、物件一覧表を作ります。所在地、契約日、期間、賃料、敷金・保証金、償却の定め、原状回復条項、COC条項、連帯保証人の有無。
この表は、デューデリジェンスで必ず求められます。先に作っておけば、調査が短く済みます。作る過程で、忘れていた条件に気づくこともあります。
社長個人が連帯保証しているか
店舗や事務所の賃貸借で、社長個人が連帯保証人になっていることがあります。
譲渡後も保証が残れば、経営に関与しなくなった後の債務を負い続けることになります。これは必ず整理してください。
実務では、買い手側の代表者に差し替えてもらうか、保証会社に切り替えます。賃貸人の同意が要るため、クロージングまでに完了するよう、早めに動いてください。最終契約の条件に入れておくのが確実です。
更新料と保証金の積み増し
契約の更新時に、更新料が必要な物件があります。賃料の1か月分程度が一般的ですが、地域や物件によって扱いが違います。
また、保証金の積み増しを求められることがあります。賃料が改定された場合に、保証金を賃料の一定か月分に揃える、という定めです。譲渡後に更新時期が来る物件では、買い手にとって想定外の支出になります。
物件一覧表には、次回の更新時期と更新料の有無も入れてください。クロージングの直後に更新が来る物件があれば、その負担を誰が持つのかが交渉の対象になります。
譲渡前にできること
第一に、契約書を全部集めること。見当たらない物件があれば、賃貸人に写しを依頼します。
第二に、一覧表を作ること。上に挙げた項目を埋めていきます。
第三に、回収見込みを自分で見積もること。償却分を引き、原状回復の概算を引いて、実際に戻る額を出します。簿価との差が大きければ、会計処理の見直しを検討してください。
いずれも案件が始まる前からできます。月次決算の整備と併せて進めてください。
金額は小さくても、論点は残る
敷金・保証金は、他の資産に比べれば金額が小さいことが多くあります。それでも確認が要る理由は、契約の状態が見えるからです。
契約書が揃っていない、条件を把握していない、個人保証が残っている。これらは敷金の金額以上に、会社の管理水準として見られます。
逆に、一覧表が整っていれば、それだけで印象が変わります。小さな資産の整理が、全体の信用につながる——実務でよく起きることです。