貸借対照表に大きな在庫がある会社では、デューデリジェンスでその中身が必ず確認されます。帳簿に載っている金額で評価されるとは限りません。何が見られ、何ができるのかを整理します。
買い手は「売れる在庫か」を見る
在庫は資産として計上されていますが、売れて初めて現金になります。買い手が見ているのは、帳簿の金額ではなく「この在庫は本当に売れるのか」です。
判断の材料になるのは、回転期間(在庫が何か月分の売上に相当するか)と、滞留の状況(いつから動いていないか)です。
同業他社と比べて回転が著しく遅ければ、売れない在庫が混ざっていると見られます。そこから減額の交渉が始まります。
滞留在庫と不良在庫
実務では、年数で区切って並べることが多くあります。1年以内、1〜2年、2年以上、といった形です。
2年以上動いていない在庫は、通常の価格では売れないものとして扱われます。業種によっては、半年動かなければ怪しいと見られることもあります。
会計上、収益性が低下した棚卸資産については簿価を切り下げる処理が求められます。この処理をしていない会社では、簿価と実態が離れます。離れた分が、そのまま価格の交渉材料になります。
実地棚卸をしているか
もっとも基本的な確認が、実際に数えているかです。
決算のときだけ棚卸をしている、あるいは帳簿在庫をそのまま計上している会社は珍しくありません。買い手は、実地棚卸の記録(いつ、誰が、どう数えたか)を求めます。
記録がなければ、買い手は自ら数えることを求めるか、保守的な見積もりで評価します。クロージング直前に立会棚卸を行うという条件が付くこともあります。数えられて困る状態にしておかないことが、準備の基本です。
評価方法の違いも見られる
棚卸資産の評価方法には、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法などがあります。どの方法を採用しているかで、金額が変わります。
とくに最終仕入原価法は簡便な方法で、仕入価格が大きく変動する局面では実態から離れやすくなります。原材料価格が上がっている時期には、在庫が過大に評価されることがあります。
買い手は、採用している方法と、その方法が継続して適用されているかを確認します。期によって方法が変わっている場合は、理由を説明できるようにしてください。
業種ごとの論点
製造業では、原材料・仕掛品・製品の区分と、仕掛品の評価(どこまで工数を乗せているか)が論点になります。
卸・小売では、季節性と型落ちです。アパレルや食品では、時期を過ぎた在庫の価値が急速に落ちます。
建設・工事では、未成工事支出金の中身です。工事が本当に進んでいるのか、採算はどうかが問われます。
いずれも業種の常識で見られます。自社の水準が同業と比べてどうかを、先に把握しておいてください。
在庫が担保になっている場合
金融機関からの借入で、在庫に譲渡担保が設定されていることがあります。動産譲渡登記がされている場合もあります。
この場合、在庫は自由に処分できません。譲渡にあたっては金融機関との調整が必要で、担保の解除か、借入の承継かを決めることになります。買い手にとっては、引き継ぐ負担の一部です。
登記の有無は、動産譲渡登記事項概要ファイルで確認できます。自社が何を担保に入れているかを把握していない会社は実際にあります。案件に入る前に、金融機関との取引条件を一覧にしておいてください。
譲渡前にできる整理
第一に、年数別の一覧を作ること。何がいつから動いていないのかを、自分で把握します。
第二に、処分できるものは処分すること。ただし、決算期末の直前にまとめて処分すると、その期の利益が大きく振れます。時期は税理士と相談してください。
第三に、実地棚卸の記録を残すこと。年1回でも、記録があれば説明ができます。
これらは案件が始まる前からできる作業です。月次決算の整備と併せて進めると効率的です。
在庫が多いこと自体は悪くない
誤解のないように申し上げます。在庫が多いこと自体が減点ではありません。
納期を短くするために在庫を持つ、値上がり前にまとめて仕入れる、といった判断には合理性があります。説明できる在庫は、事業上の強みとして評価されることもあります。
問題になるのは、なぜその量があるのかを説明できない場合です。「気づいたら溜まっていた」という状態が、もっとも評価を下げます。
交渉でどう扱われるか
デューデリジェンスで滞留在庫が見つかった場合、扱いは主に三つです。
価格からの減額。もっとも直接的です。表明保証と補償。譲渡後に判明した分を補償する形。クロージング時の調整。実地棚卸の結果で価格を精算する形。
売り手として避けたいのは、把握していない状態で指摘されることです。自分で数えて、自分で説明できていれば、交渉になります。数えていなければ、相手の見積もりを受け入れることになります。