廃業を決めても、そこで終わりではありません。設備、車両、不動産、在庫、売掛金。残ったものをどう現金に換えるかで、最後に手元に残る金額は大きく変わります。そして、処分を始める前に一度だけ確かめておきたいことがあります。
処分を始める前に、一度だけ確かめること
設備を売り、在庫を投げ売りし、人を解雇してしまった後では、もう事業としての価値は残りません。事業がまだ動いているうちなら、事業ごと引き継ぎたいという相手が見つかることがあります。
顧客との取引関係、熟練した従業員、地域での信用、許認可。これらはバラバラに売れば値がつきませんが、まとまって動いている状態なら価値になります。
「うちのような小さな会社を買う人はいない」とおっしゃる方は多いのですが、同業の後継者不足は深刻で、人と取引先ごと引き受けたいという需要は確かにあります。処分に着手する前に一度だけ、事業として引き継げないかを確かめてください。この順番を逆にすると、取り返しがつきません。
不動産 — もっとも金額が動く
工場、倉庫、店舗、社宅。会社名義の不動産は、廃業時にもっとも金額の大きい資産になることが多くあります。
注意したいのは、売却益に法人税が課されることです。簿価が低い土地を持つ会社では、帳簿上の利益が大きく出ます。繰越欠損金があれば相殺できますが、期限があるため、処分の時期によって税額が変わります。
また、抵当権が設定されている場合は、金融機関との調整が先に来ます。売却代金で完済できるのか、不足するならどうするのか。処分の順番を決める前に、金融機関に相談してください。
設備・車両 — 値がつくものとつかないもの
機械設備は、業種によって流通の有無が大きく異なります。汎用性のある工作機械や建設機械、トラックは中古市場があり、相応の値がつきます。一方、自社の工程に合わせて特注した設備は、解体・搬出の費用のほうが上回ることも珍しくありません。
実務では、同業者への直接の売却がもっとも高く売れる傾向があります。使い方を知っている相手だからです。廃業を公にする前に、付き合いのある同業者に声をかけられるかどうかを検討してください。
リース物件は所有権が自社にないため、売却できません。残リース料の一括精算が必要になることが多く、これは資産ではなく支出として見込んでおく必要があります。
在庫・売掛金 — 時間との勝負
在庫は、廃業を公表した瞬間から値が下がります。「もう畳むのだから」と買い叩かれるためです。可能であれば、公表の前に通常の取引として売り切ることを考えます。
売掛金も同様です。廃業の情報が出ると、回収が急に難しくなることがあります。支払いを遅らせても困らないと判断されるためです。回収の見込みが立たない先については、早い段階で条件を詰めておきます。
逆に、買掛金や未払金は最後まで残ります。資金繰りの順番を間違えると、最後に支払えないものが出てきます。入りと出の順番を一枚の表にしてから動くことをお勧めします。
解散・清算の手続きと費用
会社を畳むには、株主総会の特別決議による解散、清算人の選任と登記、債権者への公告と催告、財産の換価と債務の弁済、残余財産の分配、清算結了の登記という手順を踏みます。
この過程で、登記費用、官報公告費用、専門家への報酬といった費用が発生します。廃業にもお金がかかるという点は、意外に知られていません。
また、解散の日と清算結了の日でそれぞれ税務申告が必要になります。従業員がいる場合は、解雇予告や離職票の発行といった労務の手続きも重なります。廃業とM&Aの比較も併せてご覧ください。
従業員への責任を、最後まで果たす
資産の話の前に、従業員の処遇があります。廃業による解雇は会社都合であり、解雇予告手当、未払い賃金、未消化の有給休暇の買い取り、退職金規程があればその支給が必要です。
離職票には会社都合と記載されるため、従業員は失業給付を早く受け取れます。この点は正確に説明してあげてください。再就職の斡旋まで行う経営者も少なくありません。同業者に声をかけ、設備と一緒に人も引き受けてもらうという形が取れれば、双方にとって望ましい結果になります。
そして、この「人ごと引き受けてもらう」話が成り立つのであれば、それは事業譲渡そのものです。廃業の準備として同業者に相談したところ、事業として引き継ぐ話に変わった、という展開は実際にあります。声をかける順番を工夫するだけで、結論が変わることがあります。
残余財産をオーナーが受け取るときの税金
債務を返済して残った財産は、株主に分配されます。このとき、資本金等の額を超える部分はみなし配当として扱われ、総合課税の対象になります。
株式譲渡による売却益が20.315%の分離課税であるのに対し、みなし配当は累進税率が適用されるため、同じ手取り額でも税負担が大きく変わることがあります。これが「廃業より譲渡のほうが手元に残りやすい」と言われる理由の一つです。
実際の税額は会社の資本構成によって異なります。みなし配当の解説を参考に、必ず税理士に試算を依頼してください。