製造業、建設業、運送業など現場を持つ事業では、デューデリジェンスの際に安全と環境に関する記録が確認されます。事故が起きたことがあるか、行政の指導を受けたことがあるか、法令で求められる届出や記録が揃っているか。これらは決算書には表れませんが、譲り受けた後の負担に直結するため、買い手が丁寧に見る領域です。本稿では、売却を考える段階で整理しておきたい安全・環境まわりの記録について整理します。

なぜ安全と環境の記録が確認されるのか

理由は大きく三つあります。第一に、過去の事案が将来の負担になる可能性です。労働災害に伴う補償、環境汚染の是正費用、行政処分による営業の制限など、譲り受けた後に顕在化する負担があり得ます。

第二に、事業継続の前提に関わることです。許認可を要する事業では、重大な違反が営業停止や許可の取消しにつながることがあります。買い手は、譲り受けた事業が明日も同じように営めるかを確認したいと考えます。

第三に、管理体制の水準を測る材料になるためです。記録が整っている会社は、他の領域も整っていることが多い。逆に、法令で作成が義務づけられた記録が見当たらない会社は、他にも未整備の領域があるのではないかと見られます。

労働災害に関して整理しておくこと

労働災害については、次の点を時系列で整理しておきます。件数の多寡そのものより、対応と再発防止が見られます。

  • 過去5年程度の災害の発生状況(発生日・部署・内容・休業日数の有無)
  • 労働者死傷病報告など、行政への報告を行ったか
  • 労災保険の給付を受けた事案、会社が別途補償した事案
  • 事故後に実施した再発防止策と、その後の発生状況
  • 未解決の補償交渉や係争があるか

あわせて、日常の安全管理の状況も整理します。安全衛生に関する体制がどうなっているか、定期の健康診断を実施しているか、危険を伴う作業に必要な資格や特別教育を受けた者を配置しているか、といった点です。

これらは業種や事業場の規模によって法令上の要求が異なります。自社に何が求められるのかが不明な場合は、社会保険労務士など専門家にご確認ください。

環境関連で見られる項目

環境面では、事業の内容に応じて次のような点が確認されます。すべての会社に当てはまるわけではありませんが、該当する場合は資料の所在を把握しておきます。

  • 産業廃棄物の処理委託契約と、管理票(マニフェスト)の保管状況
  • 排水・排煙・騒音・振動などに関する届出と、測定記録
  • 有害物質を扱う場合の保管・使用の状況
  • アスベストや土壌汚染に関する調査の有無と結果
  • 過去に受けた行政の指導・勧告と、その後の対応

とくに不動産を保有している場合、土壌やアスベストの論点は費用が大きくなり得るため、買い手の関心も高くなります。調査をしていない場合、「調査していない」ことを事実として伝えるのが正しい対応です。不動産を含む譲渡の論点は「不動産を持つ会社の売却」もご参照ください。

法令の適用関係は事業の内容と立地によって変わります。個別の判断は、弁護士や環境の専門家にご確認いただくことをおすすめします。

記録がない場合にどうするか

「保管期間を過ぎて処分した」「担当者が代わって所在が分からない」という状況はよくあります。この場合、無理に再現しようとせず、何が・どの期間・なぜ残っていないのかを整理して伝えるのが実務的です。

そのうえで、これからの運用を決めます。誰が、どの記録を、どこに、どれだけの期間保管するのかを文書にして運用を始めれば、管理体制を整えつつある会社として説明できます。過去の欠落より、現在の運用のほうが将来の負担に関係するためです。

逆に避けたいのは、後から作成した記録を過去の記録として示すことです。日付や筆跡、他の資料との整合から気づかれますし、発覚したときの影響は記録の欠落そのものよりはるかに大きくなります。

整理の進め方|所在の把握から始める

安全・環境の書類は、社内の複数の場所に分散していることが多いものです。まずは棚卸しから始めます。

  • どの法令に基づく記録が必要かを洗い出す(業種・規模・設備による)
  • それぞれについて、現物がどこにあるかを確認する
  • 期限のあるもの(測定の実施時期、届出の更新)を一覧にする
  • 欠落しているものを把握し、今後の運用を決める

この作業は、デューデリジェンスの準備としてだけでなく、日常の管理としても意味があります。期限の管理ができていないと、更新漏れが事業の停止につながることもあるためです。期限管理の考え方については、許認可に関する稿もあわせてご覧ください。

社内の資料が散在している場合の整理方法は「売却前の自社チェックリスト」でも扱っています。

安全は交渉材料ではなく前提|まとめ

安全と環境の記録は、整っていても価格が上がるという性質のものではありません。しかし、欠落していると検討が止まる、あるいは条件の見直しにつながるという意味で、前提に近い項目です。守りの準備と位置づけて、早めに手をつけておくことをおすすめします。

とくに現場を持つ事業では、買い手は必ず現地を確認します。整理・整頓の状態、掲示物、保護具の使用状況といった現場の様子も、記録と同じくらい印象を左右します。これも日常の積み重ねです。

当社では、業種に応じて確認されやすい項目をお伝えし、資料の棚卸しからお手伝いしています。相談料・着手金・月額報酬は0円ですので、まずは現状のままご相談ください。なお、法令適合の判断は弁護士・社会保険労務士など専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.災害があったこと自体で売却できなくなることは通常ありません。買い手が見るのは、報告や補償の対応が適切だったか、再発防止の措置をとったか、その後の発生状況がどうかです。経緯と対策を整理して示すことが重要です。
A.何が・どの期間・なぜ残っていないのかを整理して伝えるのが適切です。そのうえで、今後の保管ルールを決めて運用を始めれば、体制を整えつつあることを示せます。後から作成した記録を過去のものとして示すことは避けてください。
A.一律に必要というわけではなく、土地の利用履歴や法令上の契機によって変わります。調査していない場合は、その事実をそのまま伝えるのが正しい対応です。必要性の判断は、不動産や環境の専門家にご確認ください。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。業種に応じた確認項目をお伝えします。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら