株式譲渡では会社がそのまま存続するため、取引先との契約も原則として継続します。ところが、契約書の中に「支配権に異動が生じた場合は事前に通知し、相手方の承諾を得る」「相手方は契約を解除できる」といった条項が置かれていると、話は変わります。いわゆるチェンジオブコントロール条項です。本稿では、この条項をどう洗い出し、どの順序で対応するかを整理します。条項の解釈と対応方針は必ず弁護士にご確認ください。

どんな契約に置かれているか

支配権の異動に関する条項は、相手方が「誰と取引しているか」を重視する契約に置かれやすい傾向があります。実務で遭遇しやすいのは次のような契約です。

  • 取引基本契約・継続的売買契約——特に大手企業が定型書式で締結しているもの
  • 販売代理店契約・フランチャイズ契約——ブランドや販売網を預ける性質の契約
  • 業務委託契約——機密情報や個人情報を扱う委託
  • ライセンス契約——技術・ソフトウェア・商標などの使用許諾
  • 不動産の賃貸借契約——賃貸人の承諾に関する定めが置かれていることがある
  • 金銭消費貸借契約・当座貸越契約——期限の利益喪失事由として定められている場合がある
  • リース契約——契約者の変更や支配権の異動に関する定め

条項の効果もさまざまです。通知だけでよいもの事前の承諾を要するもの相手方に解除権を与えるものがあり、後者ほど重大です。文言が抽象的で、どの場面が該当するのか読み取りにくいものも多くあります。

いずれにせよ、該当の有無と効果の判断には法的な読み込みが必要です。契約書を機械的にキーワード検索するだけでは足りず、弁護士による精査が前提になります。

洗い出しは成約前に行う

この論点の対応は、成約後に始めると手遅れになります。承諾を要する契約が見つかったのにクロージング後だった、という事態は、契約違反の状態を生みかねません。したがって、デューデリジェンスの法務調査で網羅的に洗い出すことが原則です。

実務では、取引金額の大きい順、契約期間の長い順に優先度をつけ、主要な契約から確認します。契約書が整理されていない会社では、そもそも契約書が見つからないという問題に直面します。取引先ごとにファイルを探し、電子データを確認し、担当者の記憶を頼りに集める作業が必要になることもあります。

契約書が見つからない取引については、契約書がないこと自体をリスクとして記録します。書面がなければ支配権の異動に関する制約もないと考えられますが、代わりに取引条件そのものが不明確であるという別の問題が残ります。

洗い出しの結果は、対応区分ごとに整理します。「事前承諾が必要」「事前通知が必要」「事後通知でよい」「対応不要」の4分類にしておくと、クロージングまでの段取りが立てやすくなります。契約管理の体制づくりは「契約書の棚卸しと更新期限の管理」もご覧ください。

承諾をどう求めるか|順序と伝え方

事前の承諾が必要な契約があると、成約前に相手方へ打診せざるを得ません。しかし、M&Aの情報を成約前に外部へ出すことは、秘密保持の観点から慎重に扱う必要があります。まとまらなかった場合、相手方の不安だけが残るためです。

そこで実務では、次のような順序が採られます。まず、本当に事前承諾が必要な契約に絞り込みます。条項の文言によっては、通知で足りる場合や、実務上は事後の対応で問題が生じない場合もあります。ここで絞り込みを行わず全件に打診すると、情報が広く出回ります。

次に、打診の時期を決めます。最終契約の締結後、クロージング前という時期が選ばれることが多く、成約の蓋然性が高い段階で、かつ実行前に承諾を得るという組み立てです。打診の際は、相手方にも秘密保持の約束を求めます。

打診の内容は、承諾を得るために必要な範囲にとどめます。買い手が誰であるか、事業は継続すること、担当や体制はどうなるか。譲渡価格や交渉の経緯は伝えません。相手方が関心を持つのは、取引が続くかどうかであり、それ以外の情報は不要です。

承諾が得られない場合にどうするか

相手方が承諾を留保したり、条件を付けてきたりすることがあります。この場合の対応は、その契約が事業にとってどれだけ重要かによって変わります。

事業の根幹にかかわる契約であれば、承諾の取得を譲渡実行の前提条件とすることが検討されます。譲渡契約の中で、一定の重要契約について承諾が得られることを実行の条件として定め、得られない場合の取り扱い(実行の延期、価格の調整、契約の解消)まで合意しておく形です。

影響が限定的な契約であれば、実行後に対応する整理もあり得ます。ただし、解除権が発生する条項の場合、相手方がいつ権利を行使するか読めないという不安定さが残ります。表明保証や補償の枠組みで手当てできないかを含め、契約交渉の中で検討します。

条件を付けられた場合——たとえば、取引条件の変更や保証の差し入れを求められた場合——は、それが事業計画に与える影響を数字で把握したうえで判断します。承諾を急ぐあまり不利な条件をのむと、買収後の採算に響きます

いずれの対応も法的な検討を要しますので、弁護士と相談しながら進めてください。

クロージング後の通知と契約の巻き直し

事後の通知で足りる契約については、クロージング後、速やかに通知を行います。通知の文面は統一し、誰が差し出すか、いつまでに送るかを決めて一斉に処理します。取引先ごとに担当者が個別に連絡すると、内容がばらつき、届かない先が出ます。

あわせて検討したいのが、契約書そのものの巻き直しです。代表者が交代していれば署名者が変わりますし、長年更新されていない契約であれば、この機会に内容を現在の実態に合わせる価値があります。ただし、すべてを一度に巻き直そうとすると、かえって取引先に不安を与えます

現実的な進め方は、更新時期の到来に合わせて順次差し替えることです。年間の更新カレンダーを作り、期限が来る契約から順に対応すれば、相手方にとっても自然な流れになります。

なお、巻き直しの際に取引条件の変更を同時に持ち出すと、契約更新の話が条件交渉に転じます。条件の見直しが目的であれば、そのことを明確にして別途協議するほうが、結果として誠実に受け止められます。取引先対応の全体の流れは「M&A後の取引先対応」を参照してください。

自社の契約書に何を書いておくか

買い手の立場でこの論点に向き合うと、自社が締結する契約にどう書いておくべきかという視点も生まれます。将来、自社やグループ会社が資本異動を伴う再編を行う際、同じ問題に直面するためです。

取引先との契約に支配権の異動に関する条項を置くかどうかは、取引の性質によります。機密情報を預ける、独占的な販売網を委ねるといった性質の取引では、相手方の資本構成の変化を把握できるようにしておく意味があります。一方で、汎用的な物品の売買に一律に置くと、双方にとって手続きの負担だけが増えます。

条項を置く場合も、効果の設計に幅があります。直ちに解除権を発生させるのではなく、通知義務にとどめる、あるいは協議義務を定めるという設計にすれば、実務上の柔軟性が保てます。相手方にとっても受け入れやすい条項のほうが、交渉が長引きません

買収した会社の契約書式を見直す際は、この観点も含めて整理してください。契約の標準化は、次の再編やグループ内の統合を見据えた備えにもなります。条項の設計は個別の事情によりますので、弁護士と相談のうえ決定してください。

よくあるご質問

A.条項の文言によって効果は異なります。通知だけで足りるもの、事前の承諾を要するもの、相手方に解除権を与えるものがあり、解除権が定められていても実際に行使されるとは限りません。重要なのは、どの契約にどんな効果の条項があるかを成約前に把握し、必要な通知や承諾の手続きを段取りに組み込むことです。判断は弁護士にご確認ください。
A.本当に事前承諾が必要な契約に絞り込んだうえで、最終契約の締結後・クロージング前という時期に打診するのが一般的です。打診の際は相手方にも秘密保持の約束を求め、伝える内容は買い手が誰か、事業は継続するか、体制はどうなるかに限定します。譲渡価格や交渉の経緯は伝えません。範囲と時期の判断は弁護士と相談して決めてください。
A.一度にすべてを巻き直すと、かえって取引先に不安を与えます。現実的なのは、更新時期の到来に合わせて順次差し替える方法です。年間の更新カレンダーを作り、期限が来た契約から対応すれば自然な流れになります。なお、巻き直しの機会に取引条件の変更を同時に持ち出すと交渉が複雑になりますので、条件見直しは別途協議するほうが円滑です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら