許認可は、切れたら事業が止まります。それでいて、更新は数年に一度しか来ないため、担当者が代わると引き継がれません。買収後に押さえるべき実務を整理します。

株式譲渡でも変更届は要る

株式譲渡では許認可そのものは承継されます(法人格が変わらないため)。ただし、変更届が必要になる場合があります。

代表者が変わる、役員が変わる、本店が移転する、商号が変わる。これらは多くの許認可で届出事項です。

建設業許可では役員等の変更、宅建業免許では代表者や政令使用人の変更、産業廃棄物の許可では役員の変更。期限が定められているものもあります。

登記だけ済ませて届出を忘れる、というのが典型的な抜けです。クロージング後のチェックリストに入れてください。

まず一覧を作る

買収後、最初にやることは棚卸しです。次を一枚の表にしてください。

許認可の名称・番号・所管する役所。

取得日と有効期限。更新の申請時期(期限の何か月前から受け付けるか)も。

人的要件。専任技術者、管理者、有資格者。誰がその要件を満たしているか、氏名で書く。

物的要件。事務所、設備、保管施設。

変更届が必要な事項。

この表が無いまま1年が過ぎると、必ずどこかが抜けます。

人的要件が最も危ない

実務で最も多い事故がこれです。要件を満たしている人が辞めると、許認可が維持できなくなります。

建設業の専任技術者、宅建業の宅地建物取引士、介護事業の管理者やサービス提供責任者、産業廃棄物の技術管理者。

その人が一人しかいない場合、退職の申し出がそのまま事業の危機になります。

対応は二つ。① 予備の有資格者を育てる。資格取得には時間がかかるため、早く始める。② 要件を満たす人材の採用ルートを確保しておく。

買収前のデューデリジェンスで、ここは必ず確認してください。

前経営者が要件だった場合

とくに注意すべき類型です。前経営者本人が、許認可の人的要件を満たしていた場合。

中小企業では珍しくありません。社長が有資格者で、管理者として登録されている。

この場合、前経営者が退任した時点で要件を欠きます。引き継ぎ期間中に後任を確保しなければなりません。

実務では、前経営者に一定期間、その立場で残ってもらうという設計を取ります。ただし、常勤性が要件になっている場合、名前だけ残すことは認められません。実態を伴わせる必要があります。

更新の管理を仕組みにする

人の記憶に頼らない仕組みを作ってください。

カレンダーに登録する。更新期限の6か月前、3か月前、1か月前にアラートを設定します。

担当者を二人決める。一人が休んでも止まらないように。

年間の手続きカレンダーを作る。許認可の更新だけでなく、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届、各種の届出を一枚にまとめます。

更新に必要な書類を、今のうちに揃えておく。納税証明書、登記事項証明書、有資格者の資格証明。期限が近づいてから集めると間に合わないことがあります。

行政に事前に相談する

実務的な助言です。資本構成が変わったら、所管の窓口に相談してください。

「株主が変わりました。必要な手続きを教えてください」と聞けば、その許認可で何が必要かを教えてもらえます。

役所ごとに運用が違うことがあり、一般論で調べるより確実です。

また、相談した記録を残しておくと、後から「届出が漏れていた」となった場合の説明材料になります。担当者名と日付を控えておいてください。

事業譲渡なら取り直し

念のため整理します。事業譲渡では、許認可は原則として承継されません。

買い手が新たに取得する必要があります。業種によっては数か月かかるため、取得の時期から逆算して日程を組む必要があります。

「譲渡は完了したが、許認可が下りるまで営業できない」という空白を作らないこと。

これが理由で、許認可が事業の中核にある業種では株式譲渡が選ばれることが多くなります。廃業予定の会社を引き受けるでも触れています。

行政処分と欠格要件を確認する

買収前に確認すべき点を、改めて書きます。

過去の行政処分の有無。営業停止、指示処分、改善命令。処分歴があると、更新や新規取得に影響する場合があります。

欠格要件。役員に一定の事由がある場合、許可が取り消されることがあります。買い手側の役員が就任することで、対象会社が欠格要件に触れないかを確認してください。

これは見落としやすい論点です。買い手のグループに処分歴のある会社があると、影響する場合もあります。所管の窓口に確認してください。

引き継ぎの最後に、担当者から聞く

最後に、実務のコツを。

許認可の手続きを実際にやってきた人から、直接聞いてください。経理担当者、総務担当者、あるいは前経営者本人。

「更新のとき、何が大変でしたか」「役所に何を聞かれますか」「よく指摘されることはありますか」。

書類には残らない実務が、必ずあります。この役所は書式にうるさい、この項目は毎回補正になる、この時期は窓口が混む。

これを聞いておくかどうかで、次の更新の負担が変わります。引き継ぎの機会は一度きりです。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.許認可そのものは承継されますが、変更届が必要になる場合があります。代表者・役員の変更、本店移転、商号変更は多くの許認可で届出事項で、期限が定められているものもあります。登記だけ済ませて届出を忘れるのが典型的な抜けです。
A.人的要件です。建設業の専任技術者、宅建業の宅地建物取引士、介護事業の管理者、産業廃棄物の技術管理者など、要件を満たす人が一人しかいない場合、その人の退職がそのまま事業の危機になります。買収前に必ず確認してください。
A.退任した時点で要件を欠きます。引き継ぎ期間中に後任を確保する必要があり、実務では前経営者に一定期間その立場で残ってもらう設計を取ります。ただし常勤性が要件の場合、名前だけ残すことは認められません。
A.更新期限の6か月前・3か月前・1か月前にアラートを設定し、担当者を二人決めてください。年間の手続きカレンダーを作り、必要書類(納税証明書、登記事項証明書、資格証明)を早めに揃えておくことも有効です。
A.相談してください。「株主が変わりました。必要な手続きを教えてください」と聞けば、その許認可で何が必要かを教えてもらえます。役所ごとに運用が違うため、一般論で調べるより確実です。担当者名と日付を控えておいてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら