買収した会社の多くは、計画を立てて実績と比べる仕組みを持っていません。月次の試算表は作っていても、年度の計画が無い、計画はあるが誰も振り返らない、という状態です。
経営者が1人で判断していた会社では、それで回っていました。数字は経営者の頭の中にあり、感覚で修正していたからです。
しかし経営者が代わると、この感覚が失われます。買い手は会社の状態を数字で把握する必要があり、金融機関への説明にも計画が要ります。だから予実管理を入れることになります。
精度より頻度を先に取る
最初に決めるのは方針です。精度の高い計画を年に1回作るのではなく、粗い計画を毎月振り返る形から始めます。
理由は2つあります。
1. 精度の高い計画は作れない。買収した直後は、買い手も会社の実態を把握しきれていません。精緻な計画を作っても前提が外れます。
2. 振り返る習慣が先に要る。計画の数字が合っているかより、毎月数字を見て話す場があるかどうかが効きます。場が無い会社では、どんな計画も使われません。
したがって、始め方はこうなります。売上・粗利・営業利益の3つだけで月次の計画を作る。毎月、実績と並べる。差が出たら理由を聞く。
この3つなら、既存の試算表から作れます。項目を増やすのは、振り返りが定着してからです。
現場が嫌がる理由を先に潰す
予実管理を入れるとき、現場から反発が出ることがあります。理由は決まっています。
報告の手間が増える。これまで無かった資料を毎月作ることになります。既存の帳票から作れる形にしないと、続きません。
できなかったことを責められる場になる。差が出た理由を説明させるだけの会議は、嫌われます。差を埋める手を一緒に考える場にしないと、数字を操作する動機が生まれます。
何に使われるか分からない。本社に報告した数字が何に使われるのかが見えないと、警戒されます。
計画の数字が一方的に決められる。達成できない計画を押し付けられると、最初から諦めます。
対策は単純です。既存の帳票から作る。差の理由を聞いて一緒に考える。何に使うかを説明する。計画は現場と一緒に作る。
特に4つめが効きます。現場が作った計画なら、達成しようとします。本社が作った計画は、他人の数字になります。
何を見るか — 業種で変わる
見る項目は業種で変わります。会計の数字だけでは、動きが早すぎるか遅すぎるかのどちらかになります。
- 受注型(製造・建設)。受注残、見積りの件数と成約率、工事の進捗。売上より先に動く数字です。
- 店舗型。客数、客単価、曜日別・時間帯別の売上。
- 継続課金型。契約数、解約率、1件あたりの単価。
- 卸・小売。在庫の回転、品目別の粗利、取引先別の売上。
- 人が売る業種。稼働率、1人あたりの売上、残業時間。
会計の数字は結果で、これらは先行する数字です。結果だけを見ていると、分かるのが遅くなります。
選ぶときの基準は、現場がすでに見ている数字かどうかです。新しく測り始める数字は、取るのに手間がかかり、しかも精度が低くなります。
資金の計画を別に持つ
利益の計画と資金の計画は別です。利益が出ていても資金が足りなくなることがあります。
買収の直後は特に起きやすくなります。理由は、支払いの条件が変わる、買い手の支払いサイクルに合わせる、仕入先が与信を見直す、といったことです。
したがって、資金繰り表を月次ではなく週次で作る期間を設けることになります。買収から数か月は、入金と支払いの実際を確かめながら進めます。
あわせて、季節の変動を把握します。繁忙期の前に仕入が増える業種、賞与の月に資金が出る会社では、平均だけ見ていると足りなくなります。
この部分は、前の経営者が感覚で管理していたことが多い領域です。引き継ぎの期間に、いつどの支払いが来るのかを聞いておく必要があります。
会議の設計
仕組みより、場の設計のほうが効きます。
頻度。月1回。試算表が出てから2週間以内に行います。遅いと、話しても手が打てません。
参加者。経営者と、数字に責任を持つ人。全員を集めると発言が減ります。
時間。1時間以内。長いと準備も負担になります。
進め方。実績と計画を並べる。差が大きい項目だけを見る。理由を聞く。手を決める。次回に確かめる。
記録。決めたことを1枚に書く。次回の冒頭で、前回決めたことを確かめます。
この「前回決めたことを確かめる」が、いちばん効きます。これが無いと、毎月同じ話を繰り返します。
売り手の側から見ると
最後に、譲る側の視点を書きます。
予実管理ができている会社は、評価されます。買い手から見れば、買った後に数字が見える状態だということです。逆に、月次決算が遅く、計画が無い会社では、買い手は中が見えないまま判断することになり、割り引いて見ます。
したがって、譲渡を考えている会社が先にできることがあります。月次決算を翌月中に締める。売上・粗利・営業利益の月次推移を3年分出せるようにする。季節の変動を説明できるようにする。
これは評価のためだけではありません。自社の状態を自分で把握できるようになります。
そして、買い手に渡す資料としても使えます。月次の推移が出せる会社は、調査の質問が減り、期間が短くなります。
会計・税務の扱いは個別の事情で変わるため、具体的な処理は税理士に確認してください。