顧問先の経営者から「実はそろそろ考えていて」と言われることがあります。決算の説明の後、雑談のような形で出てくることが多い話です。
この最初の場面で何をするかが、その後を大きく左右します。特に秘密の扱いを間違えると、相談してくれたこと自体が問題になります。ここでは、相談を受けた側の初期対応を整理します。読者は税理士・会計事務所の方を想定しています。
最初にやるのは、情報を閉じること
相談を受けた瞬間に確認すべきは、「このことを、ほかに誰が知っているか」です。配偶者だけが知っている、誰にも話していない、幹部1人には伝えてある。状況によって、その後の進め方が変わります。
次に確認するのは、事務所の中で誰まで共有してよいかです。顧問先の担当者が複数いる事務所では、決算の作業で資料を見る人がいます。経営者が「所長だけに」と考えている場合、事務所内の共有も限定する必要があります。
この確認を飛ばして、事務所内の会議で普通に共有してしまうことがあります。悪意はなくても、経営者から見れば約束の違反です。そして、その会社の従業員が事務所の誰かと知り合いである可能性は、地域では十分にあります。
記録の置き方も決めます。顧問先のフォルダに普通に置くと、担当者が見ます。最初の相談の時点で、情報の置き場と見られる範囲を決めるのが実務です。
どこまで聞くか
次に、何を聞くかです。経営者はまだ決めていないことが多いので、決めさせる方向で聞かないほうがよい場面です。
聞いておくと整理が進むのは、次の点です。
- 何が引き金になったのか。体力、家族の事情、業績の見通し、取引先の変化。理由によって急ぐかどうかが変わります。
- 親族の状況。子どもがいるか、継ぐ意思を確かめたことがあるか。確かめていない場合、そこが出発点になります。
- 社内に候補がいるか。幹部に意思があるか、株を買う資金の問題があるか。
- いつまでに、という考えがあるか。
- 個人保証と借入の状況。これは事務所が把握している部分です。
逆に、この段階で価格の話に入るのは早いです。「いくらになりますか」と聞かれた場合も、概算の幅を示すに留め、評価は後の工程に置くほうが安全です。早い段階で数字を言うと、それが期待の基準になります。
自分でどこまで進められるか
税理士・会計事務所が自分で進められる部分と、そうでない部分があります。
進められる部分。親族内での承継を前提とした検討、自社株の評価と税負担の見通し、株式の移し方(贈与・売買・遺贈)の比較、事業承継税制が使えるかの検討、相続の全体の設計。これらは本来の業務の範囲です。
外部が必要になる部分。第三者に引き継ぐ場合の相手探し、条件の交渉、契約の作成、調査への対応です。相手探しは、買い手候補の情報を持っていないと進みません。
加えて、M&Aの仲介・助言を業として行う場合の論点があります。顧問先と第三者の間に立って報酬を得る形を取るなら、中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)が定める支援機関としての対応が関わります。利益相反の扱い、手数料の明示、専任条項の扱いです。
どの立場で関わるのかを、自分で決めてから動く必要があります。助言者として残るのか、仲介の立場に入るのか、紹介して引き継ぐのか。
外部に相談するときの順序
第三者への承継を検討する段階になると、外部の相手に相談することになります。ここでも秘密の扱いが先に来ます。
会社名を出す前に、秘密保持の取り決めを結びます。相談の段階では、業種・地域・規模・収益の概要だけで見通しを聞けます。会社名を出すかどうかは、顧問先の承諾を得てから決めます。
相談先の選択では、相手が仲介かFAか、両方から報酬を受け取る形かを確認します。顧問先に紹介する立場であれば、その構造を自分が理解していないと説明できません。
紹介に対する取り扱い(有無・金額)は事業者ごとに異なります。ここを曖昧にしたまま紹介すると、後から顧問先に説明できなくなります。紹介の形で関わる場合は、書面で取り決めるのが実務です。
また、顧問先の手数料が紹介の有無で変わるのかも確認する点です。変わる構造であれば、顧問先に伝える必要があります。
成約した後も、顧問の関係は続く
最後に、相談を受けた側として押さえておきたい点があります。第三者に承継しても、顧問の関係が自動で終わるわけではありません。
譲渡した経営者には、譲渡益の申告があります。資産管理の相談、相続の設計、新しい事業を始める場合の相談が続きます。会社を離れた後の個人としての顧問関係です。
会社側については、買い手の方針によります。買い手が自社の体制に合わせる場合もあり、そのまま継続する場合もあります。地域の会社を買った買い手が、地元の事情を知る事務所を続けて使う判断をすることもあります。
いずれにしても、「承継を手伝ったら顧問先を失う」とは限りません。むしろ、承継の局面で経営者の側に立って整理した事務所は、その後も相談を受ける立場になります。
当社は税務顧問業務を行っていないため、成約後も顧問契約は先生に残る前提で進めています。士業・金融機関からのご相談の受け方は士業・金融機関の皆さまへに整理しています。税務・法務の判断は個別の事情で変わるため、必要に応じて専門家と連携してください。
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