本稿は、経営者の方ではなくM&A仲介の実務者、およびこれから仲介会社で働こうとしている方に向けた実務教材です。許認可の確認をして「承継できます」と分かったところで安心してしまい、その許可の有効期間がいつまでかを見ていなかった。これは実際に起こる見落としです。更新の時期と譲渡の時期が重なると、誰がどの順番で何を申請するかという問題が生まれ、順序を誤れば営業できない期間が生じます。ここでは、工程にどう織り込むかを整理します。承継の可否そのものは「許認可が論点になる案件」を先に読んでください。

なぜ更新が工程の制約になるのか

許認可の多くには有効期間があり、期間が満了する前に更新の申請をしなければ効力を失います。失効すれば、改めて新規の申請をすることになり、その間は事業を行えません。取引先との契約、進行中の工事、入札への参加資格。影響は許可そのものにとどまりません。

そこに譲渡が重なると、次の問題が生じます。

  • 申請時点の体制で審査される:役員や要件を満たす人が替わった直後に更新を申請すれば、新しい体制で要件を満たしているかが問われます
  • 変更の届出が先に必要なことがある:役員変更などの届出を済ませていないと、更新の申請が受け付けられない、あるいは差し戻される場合があります
  • 誰が申請するかで準備が変わる:売り手側の体制で取るのか、買い手側の体制で取るのかによって、必要な書類も担当者も変わります
  • 申請から結果が出るまで時間がかかる:その期間を工程に見込んでいないと、クロージングが後ろにずれます

だから、着手時の許認可の確認では、種類と有効期限を必ず同時に押さえてください。許可証の写しを受け取り、満了日を工程表に書き込む。この一手間で、後の混乱の多くは防げます。

更新の期間は制度ごとに違う

更新の周期も、申請の受付期間も、制度によって異なります。実務でよく出会うものを挙げますが、制度は改正されるため、必ず所管官庁が公表している最新の案内で確認してください。

許認可の例更新の周期(一般的な目安)主な所管
建設業許可五年ごと国土交通大臣または都道府県知事
宅地建物取引業免許五年ごと国土交通大臣または都道府県知事
産業廃棄物収集運搬業許可五年ごと(優良認定を受けた場合は異なる)都道府県・政令市
旅行業登録五年ごと観光庁または都道府県
警備業の認定五年ごと都道府県公安委員会
労働者派遣事業・有料職業紹介事業初回と二回目以降で周期が異なる厚生労働省(労働局)
介護保険事業所の指定六年ごと都道府県・市町村

周期だけでなく、申請の受付がいつから始まり、いつまでに出さなければならないかも所管庁ごとに定められています。満了の直前では受け付けてもらえないことも、逆に早すぎると受け付けられないこともあります。窓口の運用や必要書類も自治体ごとに違うため、その案件の所管庁が公表している手引きを、必ず自分で取りに行ってください。

また、更新の審査では欠格要件や財産的基礎が改めて確認される場合があります。譲渡に伴って役員が入れ替わるとき、新しい役員が欠格要件に触れないかどうかは、譲渡の設計段階で確認すべき事項です。この判断は行政書士・弁護士に確認してください。

更新前に譲るか、更新後に譲るか

実務上の選択は、おおむね次の二つです。どちらが適切かは、満了までの残り期間と案件の進み方によります。

更新を済ませてから譲渡する譲渡してから新体制で更新する
申請の主体現在の体制。売り手側が対応する新体制。買い手側が主導する
利点買い手は有効な許可を引き継げる。審査の不確実性がない更新を待たずにクロージングできる。日程が読める
負担クロージングが更新の完了まで後ろにずれる新体制で要件を満たせるかを事前に確認しておく必要がある
向いている場面満了が近く、更新の準備が既に進んでいる満了までまだ余裕があり、案件を先に進めたい

判断の分かれ目は、新しい体制で要件を満たせるかが確実に見通せるかどうかです。要件を満たす人が譲渡後も残る前提であれば、どちらでも進められます。要件者の去就が不確実なら、更新を先に済ませておくほうが安全です(「人的要件のある許可業種の案件」参照)。

誰が費用を負担するかも決めておきます。更新には申請の手数料と、多くの場合は行政書士等への報酬が伴います。金額そのものより、決めていなかったことが後から摩擦になります。最終契約の前に、費用の負担区分を合意して書面にしてください。

順序を間違えない — 変更届と更新申請

株式譲渡では、法人格が変わらないため許可は存続しますが、役員の変更などについては届出が求められ、期限が定められていることがあります。ここで順序を誤ると、更新の申請が進まなくなります。

実務では、次のように逆算した工程表を作ります。

  • 1. 許可の満了日を確認する:許可証の写しで確認する。口頭の記憶に頼らない
  • 2. 更新申請の受付期間と締切を確認する:所管庁の手引きで確認する
  • 3. 更新に必要な書類と準備期間を確認する:決算関係の書類や技術者の証明など、集めるのに時間がかかるものがある
  • 4. クロージング予定日を置く:上の日程と重ならないか、重なる場合はどちらを先にするかを決める
  • 5. 変更届の期限を確認する:役員変更等について期限が定められている場合、クロージング後に速やかに出せる準備をしておく
  • 6. 誰が実務を担うかを決める:売り手の顧問行政書士か、買い手側か。引き継ぎが必要なら早めに

この工程表を作る作業自体が、仲介者の提供価値です。売り手も買い手も、それぞれ自分の側の手続きは分かっていても、両者の日程が噛み合うかどうかを見ている人はいません。仲介者がその一枚を持つことで、抜けが減ります。工程管理の考え方は「案件のスケジュール管理」も参照してください。

なお、事業譲渡や会社分割の場合は、そもそも許可が引き継がれるかどうかから確認が必要です。承継の制度が設けられている業種もあれば、設けられていない業種もあります。スキームを決める前に確認するという順序を守ってください。

間に合わないときの手当てと、契約への書き方

日程が詰まっていることが分かったら、早いうちに手当てを決めます。取り得る対応は次のとおりです。

  • クロージングを更新の後にずらす:もっとも確実です。ずらす理由を双方に説明し、日程を引き直します
  • 更新の完了をクロージングの前提条件にする:更新が終わらなければ決済しない、という形にします
  • 更新申請を売り手の義務として契約に書く:いつまでに申請するか、必要な協力を買い手がどう行うかを定めます
  • 更新後に速やかに変更届を出す段取りを決めておく:担当者と必要書類を事前に用意しておきます

契約への書き方は弁護士に確認してください。仲介者が条項の文言を決める立場にはありません。仲介者の役割は、どの事項を契約で手当てすべきかを漏らさず洗い出し、弁護士に渡すことです。前提条件の管理は「クロージング前提条件の管理」の手順で行ってください。

最後に、依頼者への伝え方です。この論点は、伝え方を誤ると「手続きが面倒だから譲渡をやめよう」という気持ちにつながります。実際には、更新の時期が分かっていれば、それに合わせて日程を組むだけの話です。「更新の時期が近いので、そこに合わせて全体の日程を設計します。順序を決めておけば、営業に空白は生じません」という形で伝えてください。

そして、更新の手続きそのものは仲介者が代行できるものではありません。所管官庁への申請は、行政書士等の専門家か、会社自身が行います。誰が何を担うかを最初に明確にし、抜けた役割がないことを確認する。それが、この類型で仲介者が果たすべき仕事です。

本稿は仲介実務の一般的な型を解説するものであり、制度の適用や個別案件における法的・税務的な判断は、所管官庁の案内および弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.申請の主体は同じ法人ですが、審査は申請時点の体制で行われます。役員や要件を満たす人が替わっていれば、新しい体制で要件を満たしているかが問われます。また役員変更などの届出を先に済ませる必要がある場合もあります。順序と必要書類は所管官庁の手引きで確認し、具体的な手続きは行政書士等の専門家にご確認ください。
A.決まりはないため、合意して契約に書きます。金額そのものより、決めていなかったことが後から摩擦になります。申請の手数料と専門家への報酬を分けて見積もり、誰がいつ支払うかまで含めて明確にしてください。更新をクロージングの前提条件にする場合は、条件が満たされなかったときの扱いも合わせて定めます。
A.改めて新規の申請が必要になり、その間は事業を行えません。取引先との契約や入札資格にも影響します。だからこそ満了日を着手時に押さえ、工程表に書き込んでおくことが重要です。日程が詰まっている場合は、クロージングを更新の後にずらす、更新の完了を前提条件にするなどの手当てを早い段階で決めてください。
A.まず、その許可が事業譲渡で引き継がれるかどうかを確認する必要があります。承継の制度が設けられている業種もあれば、譲受側が自ら新規に取得しなければならない業種もあります。新規取得には期間を要するため、営業の空白が生じないよう工程を組みます。スキームを決める前に、所管官庁の公表資料で確認してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら