事業承継の相談に来られる経営者の多くは60代から70代です。担当するアドバイザーが20代・30代であることは珍しくありません。親子ほど年が離れた相手に、会社の行く末を相談していただく。この非対称をどう扱うかは、実務者が最初にぶつかる壁のひとつです。本稿では、年齢差との向き合い方と、信頼が生まれる具体的な行動を整理します。当社の募集要項は採用情報をご覧ください。
年齢差は埋められない。埋めるものでもない
まず前提を置きます。経営の経験において、こちらが相手を上回ることはありません。40年会社を続けてきた人と、社会人歴が数年の担当者では、見てきたものの量が違います。ここは動かせません。
問題は、その差を埋めようとして起きます。知ったふうに経営を語る、聞きかじった業界の話で合わせにいく、年上に見せようと振る舞う。こうした背伸びは、相手にはすぐ分かります。経営者は人を見てきた人たちです。
では何を提供するのか。経営の経験ではなく、M&Aという一度きりの工程についての知識と段取りです。相手は会社経営のプロですが、会社を譲るのは人生で一度です。そこだけは、こちらのほうが数多く見ています。
役割をこう置けば、年齢差は問題ではなくなります。「経営のことは教えていただく。M&Aの進め方はこちらが責任を持つ」。この線を最初に言葉にしておくと、双方が楽になります。
信頼が生まれるのは、能力の誇示ではなく積み重ね
年が離れているほど、言葉より行動が見られます。信頼が生まれる具体は、地味なものばかりです。
| 場面 | 信頼につながる行動 | 見られていること |
|---|---|---|
| 面談の準備 | 公開情報を読み込み、事業の成り立ちを理解してから行く | この会社に関心があるか |
| 約束 | 期限を決めて、必ずその日までに返す。遅れるなら前日に伝える | 任せられる相手か |
| 数字 | 決算書の数字を、背景とセットで説明できる | 読めているか |
| 知らないこと | 知らないと言い、確認して返す | 正直か |
| 不利な情報 | 先に伝える。後回しにしない | 都合で選んでいないか |
とくに準備の量は、年齢差を最も早く埋めます。会社の沿革、業界の制度、直近の環境変化。調べられることを調べてから行くと、質問の質が変わります。経営者は、自分の会社に時間を使ってくれた相手かどうかを見ています。
業界を短期間で理解する方法は「担当業種の知識をどう身につけるか」に整理しています。
やりがちな失敗
若い担当者がつまずく型は、だいたい決まっています。
- 背伸び——経営論を語る。知らない業界の話に相づちで合わせる。結果として、本当に知っていることまで疑われる
- 過度な同調——何を言われても「おっしゃるとおりです」と返す。都合の悪いことを言えなくなり、助言者として機能しなくなる
- 萎縮——遠慮して必要な質問ができない。資本構成や借入、家族の状況といった要の論点が抜ける
- 言葉づかいの乱れ——専門用語をそのまま使う。略語を多用する。相手に調べさせる話し方になる
- 世代でくくる——「お年を考えると」「そろそろご勇退を」といった言い方。決めるのは本人であり、年齢は理由になりません
- 急がせる——検討の時間を「もったいない」と表現する。判断を相手の速度から切り離してしまう
このうち過度な同調が、いちばん静かに案件を壊します。価格の期待が実態と離れているとき、資料に不備があるとき、条件が相手に不利なとき。ここで言えないと、後で大きく揺り戻します。言いにくいことの伝え方は「悪い知らせの伝え方」に整理があります。
言葉と距離感をどう置くか
細かいことのようですが、効きます。
- 専門用語は言い換える——「デューデリジェンス」は「買い手が行う調査」、「表明保証」は「契約で何を保証するか」。用語で通じたかを確認しない
- 結論から言い、理由を後に置く——長い前置きは、忙しい経営者ほど負担になります
- 書面を残す——口頭で伝えたことを、その日のうちに簡潔な文面で送る。記録として残り、家族や顧問の先生にも共有していただけます
- 相手の時間の使い方に合わせる——現場に出ている経営者に、日中の長時間の面談を求めない
- 同席者に配慮する——配偶者・後継者候補・顧問税理士が同席する場面では、それぞれの関心が違います。全員に向けて話す
敬語は正しく、しかし他人行儀にしすぎない。過剰な丁寧さは距離を固定します。年齢差があるからこそ、率直に話せる関係のほうが最後まで持ちます。
なお、年上の経営者だけが難しいわけではありません。同世代・年下の経営者の場合は、経営者の側が「若い担当でよかった」と安心する一方で、遠慮がなくなり期待が膨らみやすい傾向があります。相手が誰であれ、できることとできないことの線は最初に引きます。
一人で抱えない設計にする
年齢差の問題を、担当者個人の努力だけで解こうとしないことも大切です。
- 重要な局面には上長・役員が同席する——判断の重い場面で、経営者が話しやすい相手がいる状態をつくる
- 役割を分けて伝える——「進行は私が、最終的な判断のご相談は役員も交えて」と最初に伝えておく
- 顧問の先生と連携する——長年の顧問税理士が同席する場面では、その関係を尊重して進める
- 同行で所作を学ぶ——経験者の面談に同席し、質問の順番や間の取り方を見る(「先輩の同行で何を見るか」参照)
当社は少人数で、役員が現場に立っています。年齢の離れた経営者との面談に役員が同席することも、担当者が一人で判断を抱えないことも、設計として組み込んでいます。依頼者から見れば、担当者の年齢よりも、組織として支えられているかどうかのほうが重要です。
まとめ|背伸びをやめると、役割がはっきりする
要点を整理します。
- 経営の経験では上回れない。埋めようとせず、役割を分ける
- こちらが提供するのは、一度きりの工程についての知識と段取り
- 信頼をつくるのは、準備・約束・数字・正直さ・不利な情報を先に出すこと
- 失敗の型は、背伸び・過度な同調・萎縮・用語の押しつけ・世代でくくる・急がせる
- 専門用語は言い換え、結論から言い、その日のうちに書面で残す
- 個人で解かず、同席と連携で支える設計にする
1年目の立ち上がりについては「M&Aアドバイザー1年目の過ごし方」を、選考については採用情報をご覧ください。