親族に継ぐ人がいない。社内にも候補がいない。外から経営者を招くという選択があります。可能ですが、社内の受け入れを設計しないと続きません。
どこから探すか
現実的な経路を挙げます。
取引先・同業からの招聘。業界を知っており、実務がすぐ分かります。ただし、前職との競業避止に注意が必要です。
金融機関からの紹介。取引金融機関が人材を紹介することがあります。
公的な支援機関。事業承継・引継ぎ支援センターなどで、人材に関する相談ができる場合があります。
人材紹介会社。経営人材に特化した会社があります。
個人での買収を希望する人(サーチファンド的な形)。経営者として入り、いずれ株式を取得する形です。
何を見極めるか
経歴だけで判断しないでください。中小企業の経営には、大企業とは別の能力が要ります。
現場に入れるか。数十人の会社では、経営者も現場に出ます。
数字を自分で見られるか。スタッフ部門がありません。
資金繰りを理解しているか。大企業出身者が最もつまずく点です。
人を直接評価できるか。顔と名前が一致する規模での人事です。
そして、腰を据える覚悟があるか。数年で次に移る人では、従業員がついてきません。
試す期間を設ける
いきなり代表に据えないでください。段階を設けます。
① 顧問または執行役員として入る。3〜6か月。会社を知り、社内に知られる期間。
② 取締役に就任。一部の権限を持つ。
③ 代表取締役に就任。先代は会長として残る。
④ 先代が退く。
全体で1〜2年を見てください。
この期間は、双方が見極める時間です。会社が本人を見るだけでなく、本人も会社を見ています。
既存の幹部にどう説明するか
最も難しい部分です。社内の幹部は「なぜ自分ではないのか」と考えます。
説明すべきは、なぜ外部から招くのかという理由です。
「社内に適任がいないから」という言い方は避けてください。「今の会社に足りない経験を持つ人を入れる」という説明のほうが、受け入れられます。
そして、幹部の処遇を明確にしてください。役職、報酬、権限。降格すると受け取られると、辞めます。
可能なら、候補の選定に幹部を関わらせてください。面談に同席させる、意見を聞く。決定に関与した人は、反対しにくくなります。
株式をどうするか
設計の核心です。経営だけ任せるのか、株式も渡すのか。
経営だけ任せる場合。オーナーは先代または家族が続けます。外部経営者は雇われた立場であり、長期の視点を持ちにくい面があります。
株式も渡す場合。取得の資金が問題になります。持株会社を作って借入で取得する(MBO的な形)、段階的に譲渡するといった方法があります。
どちらを目指すのかを、最初に伝えてください。「いずれ株も」と言いながら渡さないのが、最も信頼を損ないます。
後継者に資金がない場合も併せてご覧ください。
経営者保証の扱い
実務上、最大の障壁です。外部から来る人が、会社の借入を個人保証するか。
多くの候補者は、これを理由に断ります。数億円の保証を、入ったばかりの会社で引き受けるのは現実的ではありません。
経営者保証に関するガイドラインには事業承継時の特則があり、後継者に当然には保証を求めない方向の考え方が示されています。
金融庁の公表では、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期で52%です。
候補者に打診する前に、金融機関と保証の扱いを整理してください。ここが決まっていないと、候補者は判断できません。
先代の関わり方
外部から招く場合、先代の関わり方が成否を分けます。
会長として残る場合、権限の範囲を明文化してください。何を新社長が決め、何を会長が決めるのか。
そして、従業員が会長に相談しに来たとき、新社長に振ってください。これを徹底できるかどうかで、権限移譲が進むか止まるかが決まります。
また、退く時期を決めておいてください。「2年後に退任する」と決めておけば、双方が見通しを持てます。
「当面の間」は避けてください。外部から来た人にとって、終わりの見えない二重構造は最も働きにくい環境です。
うまくいかなかった場合に備える
現実的な備えです。合わないことがあります。
契約の段階で、試用の期間と、その間の解約の条件を決めておいてください。
役員であれば、任期を短めに設定する方法があります。1年任期にしておけば、更新の判断ができます。
また、退任時の扱いも決めておく。退職金、競業避止、株式を渡していた場合の買い戻し。
これらを最初に決めておくことは、相手への不信ではありません。双方が安心して始めるための設計です。
むしろ、決めずに始めるほうが、後で揉めます。
第三者への譲渡と比べる
最後に、選択肢の整理です。
外部から経営者を招くことと、会社を第三者に譲渡することは、似ているようで違います。
招聘。会社の所有は変わらず、経営だけ変わる。株式の問題と保証の問題が残ります。
譲渡。所有も経営も移る。保証は解除され、対価も受け取れます。
どちらが良いかは、何を残したいかによります。会社の独立を保ちたいなら招聘、確実に承継したいなら譲渡。
両方を並行して検討することも可能です。当社では、譲渡を前提としないご相談も承っています。