承継の準備をしている途中で、あるいは何も決めないうちに、経営者が亡くなる。実際に起こります。残された会社と遺族が、まず何から手をつければよいのかを整理します。急がなければならないものと、急がなくてよいものがあります。
最初の数日でやること
感情の整理がつかない時期ですが、会社は止められません。優先度の高い順に挙げます。
① 代表者の不在を解消する。取締役が他にいれば、取締役会または株主総会で代表取締役を選びます。取締役が一人だけだった場合は、株主総会で新たに選任する必要があります。
② 金融機関に連絡する。代表者の死亡を知ると、口座が凍結されることがあります。給与や仕入れの支払いが止まるため、早めに事情を伝えて対応を相談してください。
③ 主要な取引先に伝える。誰が窓口になるのかを明示します。
株式は「準共有」の状態になる
ここが実務上もっとも厄介な点です。相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の準共有となります。
準共有の状態では、権利を行使する者を一人定めて会社に通知しなければ、原則として議決権を行使できません(会社法106条)。この指定は持分の過半数で決めると解されています。
つまり、相続人の間で意見が割れると、株主総会が開けません。代表取締役の選任も、定款の変更も止まります。会社の意思決定が凍りつく、という事態が現実に起こります。
遺言があるかを確認する
公正証書遺言があれば、公証役場で検索できます。自筆証書遺言は、法務局の保管制度を使っていない限り、家庭裁判所の検認が必要です(封をしてある場合、勝手に開けてはいけません)。
遺言で株式の承継先が指定されていれば、準共有の問題は避けられます。遺言の有無を早い段階で確認してください。
なお、遺言があっても遺留分の問題は残ります。株式が特定の相続人に集中していれば、他の相続人から遺留分侵害額の請求を受ける可能性があります。
相続税の申告期限は10か月
相続税の申告と納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
非上場株式が相続財産の大半を占める場合、換金できない財産に対して現金で納税するという問題が生じます。会社に買い取らせる、延納・物納を検討する、といった手当てが必要です。
相続により取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに発行会社へ譲渡した場合、みなし配当課税を行わず全額を譲渡所得として扱う特例があります。取得費加算の特例と併せて、納税資金の確保に使われます。詳しくは自己株式の取得と消却をご覧ください。
経営者保証はどうなるか
個人保証は相続の対象です。相続人は、法定相続分に応じて保証債務を引き継ぎます。
会社の借入が大きい場合、これは重い負担です。相続放棄という選択肢もありますが、放棄すれば株式を含むすべての財産を放棄することになります。期限は原則3か月です。
経営者保証に関するガイドラインには、事業承継時の保証の取り扱いに関する特則があり、後継者に当然に保証を求めない方向の考え方が示されています。金融機関と早い段階で相談してください。
誰が会社を続けるのか
ここが本題です。選択肢は三つです。
相続人の誰かが継ぐ。意思と能力があれば、これが自然です。ただし準備なしに就任するため、周囲の支えが要ります。
社内の役員・従業員が継ぐ。株式をどう移すか(資金の手当て)が課題になります。
第三者に譲る。相続人に継ぐ意思がなく、社内にも候補がいない場合の現実的な道です。株式が分散する前、事業が動いているうちのほうが選択肢は多く残ります。
急がなくてよいこと、急ぐこと
混乱の中で判断を迫られますが、急がなくてよいこともあります。
急ぐのは、代表者の選任、金融機関への連絡、取引先への窓口の明示、相続税の申告準備(10か月)、相続放棄の判断(3か月)。
急がなくてよいのは、会社をどうするかの最終判断です。感情が動いている時期に決めると、後から悔やむことになります。事業が回っている限り、数か月は考える時間があります。まず会社を止めないこと。次に、落ち着いてから決めること。
起きる前にできる、たった一つのこと
ここまで読んで、大変そうだと思われたはずです。そのとおりです。
これを防ぐ方法は一つしかありません。元気なうちに、株式の行き先を決めておくこと。遺言を作る、生前に贈与する、種類株式を使う、承継の計画を立てる。どれでも構いません。
「まだ早い」とおっしゃる方が大半です。ただ、準備がない状態で相続が起きた会社を見ると、残された方の負担が違いすぎます。ご相談だけでも構いません。家族会議の進め方からお読みください。