増資は、新しく株式を発行して資金を入れることです。設備投資や資金繰りのために行うものですが、事業承継の文脈でも出てきます。

後継者に新株を引き受けてもらえば、後継者の持分が増えます。既存の株を買い取る資金がなくても、持分を移せる形です。

ただし、既存の株主の持分は薄まります。そして、いくらで発行するかによって税務の論点が生じます。この2点が、承継で増資を使うときの核心です。

持分が動くという意味

仕組みは単純です。発行済みの株式が100株で、経営者が全部持っているとします。ここで後継者に100株を新しく発行すると、全体は200株になり、持分は50%ずつになります。

既存の株を売買しなくても、持分の比率が動きます。後継者は株を買う資金ではなく、会社に払い込む資金を用意します。しかも、そのお金は会社に残ります。株を買う場合は売り手個人に行きますが、増資では会社の資本になります。

この違いが使いどころを決めます。会社に資金が必要で、かつ持分を移したい場合に向きます。逆に、現経営者が譲渡の対価を受け取りたい場合は、増資ではなく株式の譲渡になります。

注意すべきは、薄まるのは現経営者だけではないことです。親族や従業員が少数株主として持っている場合、その人たちの持分も薄まります。事前に説明しないと、後で問題になります。

いくらで発行するかが、税務の分かれ目

ここが実務の核心です。新株の発行価額を時価より低く設定すると、引き受けた側が利益を得たことになります。

非上場株式にも税務上の時価があり、評価の方法が定められています。利益を積み上げてきた会社では、評価額が額面を大きく上回ることがあります。

時価より低い価額で後継者に発行した場合、その差額について課税の論点が生じます。個人間の関係なら贈与として扱われる場面があり、法人が引き受ける場合は別の扱いになります。

逆に、時価で発行すれば課税の論点は小さくなりますが、後継者が用意する資金が大きくなります。株価が高い会社では、ここが壁になります。

したがって、増資を使う前に株価の評価を出す必要があります。評価額を知らないまま額面で発行すると、後から税負担が生じます。実際の判断は必ず税理士に確認してください。

第三者割当という形

既存の株主以外に新株を割り当てる形を、第三者割当増資と呼びます。後継者に発行する場合も、外部から出資を受ける場合もこの形です。

手続きには会社法上の定めがあります。非公開会社では株主総会の特別決議が原則として必要で、有利な価額で発行する場合は理由の説明も求められます。

M&Aの場面では、全部を譲るのではなく一部の出資を受ける形で第三者割当が使われます。資本提携と呼ばれる形です。

  • 資金が入り、設備や人に投資できる
  • 相手の取引先や販路を使える可能性がある
  • 経営は自分が続ける

一方で、相手が一定の持分を持つと、重要な決定に関わってきます。どこまでの持分を渡すのか、何を事前に相談する取り決めにするのかを、契約で決めることになります。

種類株式と組み合わせる形

持分を動かすと議決権も動くのが、増資の難しいところです。資金は入れてほしいが経営権は渡したくない、という場面があります。

そこで、議決権のない株式(無議決権株式)を発行する形が使われます。配当は受けられるが、株主総会での議決権がない種類の株式です。

逆に、後継者に先に議決権を渡したい場合は、現経営者が持つ株を無議決権に変えるといった設計もあります。

種類株式を使うには定款の変更が必要で、登記もします。設計には会社法と税務の両方の検討が必要で、評価の扱いも通常の株式とは異なります。

手間はかかりますが、「資金」と「議決権」を分けて動かせるのが利点です。株価が高く、後継者に一度に渡せない会社では検討の対象になります。

M&Aで譲るときに、増資の履歴が見られる

将来会社を譲る場合、過去の増資の履歴が調査の対象になります。確かめられるのは次の点です。

手続きが適法に行われたか。株主総会の決議、議事録、登記。決議をしないまま発行した、議事録が無い、という会社があります。この場合、発行そのものの有効性が論点になります。

払い込みが実際にあったか。資本金を増やす登記はされているが、払い込みの記録が無い(見せ金)という形。

発行価額が適正だったか。著しく低い価額で発行した履歴があると、税務の論点が残っていることがあります。

種類株式の内容が登記と一致しているか。

これらに不備があると、株主が誰なのかが確定しません。買い手は100%を取得したいので、ここが固まらないと進みません。

したがって、増資を行うときは手続きと記録を残すことが、将来の承継の準備にもなります。会社法と税務の判断は個別の事情で変わるため、弁護士・税理士に確認してください。

最後に、増資とよく並べて検討される形を挙げておきます。株式の譲渡(既存の株を売買する)、贈与、自己株式の取得(会社が買い取る)、種類株式の発行です。どれも持分を動かす手段ですが、お金がどこに入るか、誰に課税されるか、議決権がどう動くかが違います。目的が「会社に資金を入れる」なら増資、「現経営者が対価を受け取る」なら譲渡、という分かれ方になります。

よくあるご質問

A.後継者が新株を引き受ければ持分が増えます。既存の株を買い取る資金がなくても持分を動かせる形です。ただし既存株主の持分は薄まり、発行価額によって税務の論点が生じます。
A.非上場株式にも税務上の時価があり、時価より低い価額で発行すると差額について課税の論点が生じます。利益を積み上げてきた会社では評価額が額面を大きく上回ります。先に株価の評価を出してください。
A.議決権のない種類株式を発行する形があります。定款の変更と登記が必要で、評価の扱いも通常の株式とは異なります。会社法と税務の両方の検討が必要です。
A.見られます。株主総会の決議と議事録、登記、払い込みの記録、発行価額の適正性が確認されます。不備があると株主が誰なのかが確定せず、取引が進みません。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら