M&Aの譲渡代金は、必ずしも一度にすべてが振り込まれるとは限りません。クロージング時に大部分を受け取り、残りを一定期間後に受け取る形や、複数年にわたって分割で支払う形が取られることがあります。このとき注意したいのが、税金の負担が「お金を受け取ったタイミング」ではなく「譲渡があったタイミング」で決まる可能性があるという点です。本稿では、分割受け取りの場合の課税の考え方と、資金繰りの備えを整理します。

※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。

どんなときに分割受け取りになるのか

中小企業のM&Aでは、クロージング時に譲渡代金の全額を受け取る一括決済が基本です。しかし、次のような事情から、支払いが複数回に分かれることがあります。

  • 買い手の資金調達の都合で、初回の支払いと残額の支払いに時間差を設ける
  • 売り手が一定期間、役員として引き継ぎに関与することを条件に、段階的に株式を譲渡する
  • 将来の業績に応じて追加の対価を支払う取り決め(アーンアウト)を設ける
  • 表明保証違反などに備えて、代金の一部を一定期間留保する

それぞれ目的が異なり、税務上の扱いも一様ではありません。とくに、株式そのものを一度に譲渡したうえで代金の支払いだけを分割するのか、株式を複数回に分けて譲渡するのかでは、考え方が変わります。

契約書の書きぶり一つで扱いが変わり得る領域ですので、条件が固まる前の段階で税理士に確認しておくことが重要です。

課税されるのは、いつか

株式の譲渡所得は、原則として譲渡があった日の属する年分の所得として課税されます。代金が何回に分けて支払われるかにかかわらず、株式の引き渡しが完了していれば、その年の譲渡として申告するのが基本的な考え方です。

つまり、譲渡代金の一部が翌年以降に入金される場合であっても、譲渡した年の所得として、譲渡代金の総額をもとに計算した税額を納めることになり得ます。個人株主の場合、申告は譲渡した年の翌年の確定申告期間(原則として2月16日から3月15日まで)です。

ここで生じるのが、納税のタイミングと入金のタイミングのずれです。手元にまだ入っていないお金に対応する税金を、先に納めなければならない状況が起こり得ます。譲渡代金が大きいほど、このずれの影響も大きくなります。

なお、将来の業績に応じて後から金額が決まるアーンアウトについては、また別の考え方が必要になります。詳しくは「アーンアウト対価の税務」をご覧ください。

資金繰りをどう備えるか

分割での受け取りを検討する場合は、契約条件を固める前に、次の三つを時系列で並べて確認しておくことをおすすめします。

  • 各回の入金がいつ、いくら入るのか
  • 納税がいつ、いくら必要になるのか(所得税・住民税で時期が異なります)
  • その間に他の支出(借入金の返済、個人保証の解除に伴う負担など)がないか

住民税は、譲渡した年の翌年度に課税され、納付の時期も所得税とは異なります。所得税の納付を済ませた後に住民税の通知が届き、想定していなかった負担として意識される、というのはよくある話です。翌年以降の負担については「譲渡した翌年の住民税・社会保険料」でも整理しています。

初回の入金額が納税額を下回るような条件設定は、原則として避けるべきです。どうしても分割が必要な場合は、初回に納税資金相当額を確保できる配分にする、といった交渉が現実的な対応になります。納税資金の考え方は「納税資金をどう準備するか」もあわせてご覧ください。

回収できないリスクをどう見るか

分割払いには、税金のタイミング以上に本質的な論点があります。残額を確実に回収できるのか、という信用リスクです。買い手の資金繰りが悪化した場合、最後の支払いが滞る可能性は完全には否定できません。

実務では、残額の支払いについて保証を付ける、支払いが完了するまで一部の株式を留保する、支払いが遅れた場合の取り決めを契約に明記する、といった手当てが検討されます。買い手の財務内容や資金調達の裏づけを確認することも、売り手側の重要な作業です。

また、いったん課税された後に代金が回収できなくなった場合の取り扱いは、簡単ではありません。状況によっては後から申告を見直す手続きを検討することになりますが、認められる範囲は限定的です。そもそも回収できない事態を招かない条件設計のほうが、はるかに確実です。

「価格は高いが分割」と「価格はやや下がるが一括」のどちらが有利かは、税金と回収リスクの両面から比較する必要があります。金額の大小だけで判断しないことが大切です。

交渉の場で、どう扱うか

支払条件は、価格と同じく交渉の対象です。買い手から分割の提案があった場合、その理由を確認することから始めます。資金調達の都合なのか、引き継ぎ期間中の売り手の関与を確保したいのか、対象会社のリスクを見込んでいるのかによって、交渉の余地は変わります。

売り手としては、納税時期を説明したうえで初回の配分を厚くしてもらう、残額の支払期日を明確にする、遅延時の取り決めを入れる、といった調整を求めることになります。こうした条件は基本合意の段階で方向性を決めておくと、最終契約の交渉がスムーズです。

当社の報酬体系についても触れておきます。相談料・着手金・月額報酬は0円、成功報酬は移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で最低2,000万円(税別)です。基本合意時の中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。支払条件の設計についても、税理士等と連携しながらご相談を承ります。

まとめ|入金と納税を、同じ時間軸で並べる

譲渡代金を分割で受け取る場合、課税は原則として譲渡があった年の所得として行われ、入金の時期とは必ずしも一致しません。手元に入っていないお金に対応する税金を先に納める状況が生じ得るという点を、条件交渉の前に理解しておく必要があります。

対応としては、初回の入金で納税資金を確保できる配分にすること、住民税を含めた納付の時期を時系列で整理しておくこと、そして残額の回収リスクに契約上の手当てをしておくことです。

当社では、支払条件の交渉から納税時期を意識した進め方まで、税理士等の専門家と連携してお手伝いしています。まずはお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.株式の譲渡所得は原則として譲渡があった日の属する年分の所得として課税されるため、代金の受け取りが分割でも、納税がその分だけ後ろ倒しになるとは限りません。具体的な取り扱いは契約内容によって異なりますので、条件が固まる前に税理士にご確認ください。
A.資金繰りの面で無理が生じます。分割が避けられない場合は、初回に納税資金相当額を確保できる配分にするよう交渉することが現実的な対応です。住民税は翌年度に課税されるため、所得税とあわせて時系列で確認しておいてください。
A.いったん課税された後に代金が回収できなくなった場合の救済は限定的です。買い手の財務内容の確認、支払期日の明確化、遅延時の取り決めなど、契約段階での手当てが重要になります。

Free Consultation

申告まで見据えた売却の進め方を、無料でご相談いただけます。

秘密厳守・成功報酬型。税理士等の専門家とも連携して検討をお手伝いします。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら