確定申告の電子化は年々進んでおり、株式の譲渡所得についても電子申告で手続きを済ませることができます。一方で、会社の申告は税理士に任せきりで、個人として電子申告をしたことがない、という経営者も多くいらっしゃいます。本稿では、株式譲渡の申告を電子申告で行う場合に押さえておきたい準備と、金額の大きい申告ならではの注意点を整理します。
※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
電子申告という選択肢
確定申告は、書面を税務署に提出する方法のほか、国税庁が提供する電子申告の仕組みを利用して行うこともできます。国税庁のウェブサイトには申告書等を作成する画面が用意されており、画面の案内に沿って入力を進めることで申告書を作成し、そのまま送信することができます。
株式の譲渡所得についても、分離課税の入力欄が用意されています。譲渡価格、取得費、譲渡費用といった項目を入力することで、税額が計算される仕組みです。
ただし、入力の仕組みが用意されていることと、正しい金額を入力できることは別です。取得費をいくらとするか、どの支出が譲渡費用に該当するかといった判断は、利用者自身が行う必要があります。金額が大きい取引ほど、この判断の重みが増します。
手続きの詳細や画面の構成は年度によって変わります。実際の利用にあたっては、国税庁が公表している最新の案内をご確認ください。
事前に準備しておくもの
電子申告を利用するには、本人確認と送信のための準備が必要です。一般的には、マイナンバーカードとそれを読み取る手段(対応するスマートフォンやカードリーダー)を用いる方法や、税務署で手続きを行って識別番号等の交付を受ける方法があります。
いずれの方法でも、事前の準備には時間がかかります。カードの取得や暗証番号の確認、機器の動作確認など、申告期間に入ってから始めると間に合わないおそれがあります。譲渡があった年の秋ごろには着手しておくと安心です。
加えて、申告に用いる数字の資料をそろえておく必要があります。株式譲渡契約書、入金の記録、取得費の根拠資料、譲渡費用の請求書や領収書などです。これは書面での申告でも同じですので、詳しくは「株式譲渡の申告を税理士に依頼するとき」もご参照ください。
申告の期間は、譲渡した年の翌年の2月16日から3月15日までが原則です。この期間は混み合いますので、逆算して準備を進めてください。
添付書類と保存の考え方
電子申告では、一定の書類について提出を省略できる仕組みがあります。ただし、省略できる場合でも、その書類を保存しておく必要があるのが通例です。「提出しなくてよい」ことと「捨ててよい」ことは違います。
株式譲渡の申告では、取得費や譲渡費用の根拠となる資料が後から確認されることがあります。税務署から問い合わせが届いた場合に、すぐに示せる状態にしておくことが大切です。問い合わせへの対応については「税務署から「お尋ね」が届いたら」で整理しています。
保存にあたっては、紙の原本とあわせて、電子データとしても控えを残しておくと安心です。申告書の控え、送信の記録、入力した数字の根拠となる資料を、一つのフォルダにまとめておくことをおすすめします。
書類の保存期間や取り扱いは制度で定められています。具体的な年数や範囲については、税理士または国税庁の案内でご確認ください。
金額が大きい申告ならではの注意
電子申告は便利ですが、株式譲渡のように金額が大きく、判断を伴う申告では、入力の前に内容を固めておくことが重要です。とくに次の点は、入力画面の案内だけでは判断できません。
- 取得費をいくらとするか(資料に基づく金額か、概算による取り扱いか)
- どの支出を譲渡費用として差し引くか
- 役員退職金や個人資産の譲渡がある場合、区分ごとにどう入力するか
- いわゆるミニマムタックスの対象になるかどうか(2025年分の所得から特別控除額3.3億円・税率22.5%で適用されています)
- 複数の株主で譲渡した場合、それぞれの持分と配分が正しく反映されているか
誤った金額で送信してしまうと、後から修正申告や更正の請求といった手続きが必要になります。手間も増え、加算される税の負担が生じることもあります。詳しくは「申告後に誤りが見つかったら」をご覧ください。
判断に迷う点が一つでもあれば、自分で送信する前に税理士に確認することをおすすめします。金額が大きい取引では、確認にかける費用よりも、誤りによる損失のほうが大きくなりがちです。
税理士に依頼する場合との使い分け
税理士に依頼する場合でも、電子申告が利用されるのが一般的です。つまり「電子申告か税理士か」という二択ではなく、「誰が内容を判断し、誰が送信するか」の問題だと整理できます。
取得費が明確で、譲渡費用の範囲にも迷いがなく、他に大きな所得もない。そうした比較的単純なケースであれば、ご自身で進めることも現実的でしょう。一方、取得費が不明、株主が複数、役員退職金や個人資産の譲渡が絡む、といった場合は、専門家に依頼するほうが確実です。
当社では、売却の段階から申告までを見据えて、資料の整理と専門家との連携をお手伝いしています。相談料・着手金・月額報酬は0円、成功報酬は移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で最低2,000万円(税別)です。基本合意時の中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
まとめ|仕組みより、中身の準備を
株式譲渡の確定申告は、電子申告で行うことができます。ただし、本人確認や送信のための準備には時間がかかりますので、申告期間に入る前、できれば譲渡があった年のうちに着手しておくことをおすすめします。
より重要なのは、入力する数字そのものです。取得費、譲渡費用、所得の区分といった判断は、画面の案内だけでは決まりません。判断に迷う点があれば、送信の前に税理士に確認してください。
提出を省略できる書類も、保存は必要です。後から問い合わせがあったときにすぐ示せるよう、申告書の控えと根拠資料をまとめて保管しておきましょう。当社では、その準備までご相談を承っています。