会社の申告を長年お願いしてきた顧問税理士がいる。だから譲渡の申告も任せられる。そう考えて進めたところ、「個人の株式譲渡の申告は扱っていない」と言われて慌てる、ということが実際にあります。法人税と個人の譲渡所得は別の領域であり、税理士にも得意分野があるためです。本稿では、株式譲渡の申告を依頼する際の準備と、伝えておくべきことを整理します。
※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
顧問税理士に任せられるとは限らない
中小企業の顧問税理士は、会社の月次処理、決算、法人税の申告を主な業務としています。一方、オーナー個人の株式譲渡は、個人の所得税の領域であり、しかも一生に一度あるかないかの取引です。日常的に扱っている事務所ばかりではありません。
また、M&Aに伴う申告では、取得費の確定、譲渡費用の範囲、役員退職金との関係、個人資産の同時譲渡など、判断を要する論点が重なります。金額が大きいだけに、経験の有無が結果に影響し得る領域です。
だからといって、顧問税理士を外す必要はありません。会社の経緯を最もよく知っているのは顧問税理士であり、取得費の資料や過去の申告書を保管している可能性も高いからです。実務では、顧問税理士に資料の提供や会社側の対応を担ってもらい、個人の申告は譲渡所得に慣れた税理士に依頼する、という分担も取られます。
大切なのは、早い段階で「この申告を誰に依頼するのか」を決めておくことです。
いつ相談を始めるか
理想は、売却を検討し始めた段階です。申告の直前ではなく、条件を固める前に相談することで、手取りの試算や日程の判断に税務の視点を反映できます。
たとえば、いわゆるミニマムタックスの経過措置のように、契約の締結時期によって適用される制度が変わることがあります。株式の譲渡については、2026年12月31日までに譲渡契約を締結した場合には現行制度(特別控除額3.3億円・税率22.5%)が適用され、2027年分の所得からは特別控除額1.65億円・税率30%へと強化されることとされています。こうした論点は、契約の前でなければ選択の余地がありません。
また、取得費の資料探しには時間がかかります。早めに相談しておけば、何を探すべきかが明確になり、交渉と並行して準備を進められます。
当社では、初回のご相談から税務の論点を整理し、必要に応じて税理士等の専門家との連携をお手伝いしています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。
準備しておく資料
依頼にあたって、次の資料をそろえておくと話が早く進みます。
- 株式譲渡契約書(付属の合意書、覚書を含む)
- 譲渡代金の入金が確認できる通帳の記録
- 株式の取得費の根拠となる資料(設立時の出資の記録、過去の売買契約書、増資の議事録など)
- 相続や贈与で取得した株式がある場合、その際の申告書一式
- 仲介会社への報酬など、譲渡費用となり得る支出の請求書・領収書
- 役員退職金を受け取った場合、支給に関する議事録と源泉徴収票
- 個人資産を同時に譲渡した場合、その契約書と取得時の資料
- その年の給与所得の源泉徴収票、他の所得に関する資料
取得費の資料は、探すのに最も時間がかかる項目です。見つからない場合の取り扱いについては「株式の取得費が分からないとき」で解説しています。
資料が不完全なまま依頼すると、税理士側で保守的な判断をせざるを得ず、結果として納税額が大きくなることもあります。可能な限りそろえてから相談するのが得策です。
伝えておくべきこと
資料だけでは伝わらない事情があります。次の点は、口頭でも構いませんので必ず共有してください。
- 株主の構成と、名義と実質が一致しているかどうか
- 譲渡代金の受け取りが分割になっているか、価格調整条項があるか
- 海外に居住している株主がいるか、ご自身に移住の予定があるか
- 同じ年に受け取る予定の、他のまとまった所得
- 会社に対する貸付金・借入金が残っているか
- 売却後の生活設計や資金の使い道
とくに一つ目と二つ目は、申告の前提が変わる論点です。名義株がある場合の考え方は「名義株がある会社を売るとき」で整理しています。
都合の悪い事情ほど、先に伝えておくことが結果的にご自身を守ります。後から判明すると、申告のやり直しや修正が必要になり、余計な負担が生じます。
費用と進め方の確認
依頼にあたっては、費用の考え方も事前に確認しておきましょう。譲渡所得の申告は、通常の確定申告とは作業量が異なります。見積もりの前提、作業の範囲、税務署からの問い合わせがあった場合の対応が含まれるかどうかを、書面で確認しておくと安心です。
なお、税理士への報酬が株式の譲渡費用に該当するかどうかは、その内容によって判断が分かれます。この点も、依頼の段階で確認しておくとよいでしょう。
当社の報酬についても触れておきます。成功報酬は移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で、最低報酬額は2,000万円(税別)です。基本合意時にお支払いいただく中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。報酬に関する書面は、申告の資料として保管しておいてください。
まとめ|申告を任せる相手を、早めに決める
株式譲渡の申告は、法人税とは別の領域です。顧問税理士が対応できるかどうかを早めに確認し、必要であれば譲渡所得に慣れた税理士への依頼を検討してください。会社の経緯を知る顧問税理士には、資料の提供や会社側の対応を担ってもらうという分担も可能です。
相談のタイミングは、申告の直前ではなく、売却を検討し始めた段階です。契約の締結時期によって適用される制度が変わることもあり、事後では選択の余地がありません。
当社では、初回のご相談から税務の論点を整理し、専門家との連携をお手伝いしています。まずはお気軽にご相談ください。