会社を譲渡した年は、住民税の所得割額が大きく増えます。ふるさと納税の上限額も、それに応じて大きくなります。ただし、普段どおりのやり方では失敗する点がいくつかあります。整理します。

なぜ上限が増えるのか

ふるさと納税の実質負担を2,000円に抑えられる上限は、住民税所得割額を基礎に計算されます。

株式の譲渡益は申告分離課税で、住民税は5%です。譲渡益が数億円になれば、住民税所得割額も数千万円規模になります。

したがって、ふるさと納税の上限も、通常の年とは桁の違う金額になります。年収1,500万円の給与所得者の上限が数十万円のところ、譲渡益が出た年は数百万円から数千万円に及ぶことがあります。

特例控除の上限は住民税所得割の20%

仕組みを正確に言うと、ふるさと納税の控除は三層で構成されます。所得税からの控除、住民税の基本分(10%)、そして住民税の特例分です。

この特例分に「住民税所得割額の20%」という上限があり、これを超えた部分は自己負担になります。上限額の計算は、実質的にこの20%枠を基準に逆算します。

譲渡益による住民税所得割が増えれば、20%枠も増える。これが「上限が大きくなる」ことの中身です。

ワンストップ特例は使えない

実務上、もっとも間違えやすい点です。

株式譲渡益が出た年は、確定申告が必要です(特定口座源泉ありのみで完結する場合を除き、非上場株式の譲渡は原則として申告が要ります)。

そして、確定申告をするとワンストップ特例は無効になります。ワンストップ特例の申請書を提出していても、確定申告をした時点で申請はなかったものとして扱われます。

寄附金受領証明書をすべて保管し、確定申告で寄附金控除として申告してください。ここを忘れると、寄附しただけで控除が受けられません。

申し込みは年内に完了させる

ふるさと納税はその年の1月1日から12月31日までの寄附が、その年分の対象です。

クレジットカード決済であれば決済完了日、銀行振込であれば入金日が基準になります(自治体により取り扱いが異なる場合があります)。

12月下旬は自治体側の処理が混み合います。譲渡の決済が年末になった場合、そこから慌てて寄附先を選ぶことになります。クロージングの日程が見えた時点で、寄附の計画も立てておいてください。

金額が大きい年ならではの注意

数百万円規模の寄附をする場合、実務的な問題が出ます。

返礼品の量。寄附額に応じた返礼品が届きます。数百万円分の食品が一時期に集中すると、保管できません。時期を分ける、日用品や体験型を選ぶといった調整が要ります。

一時所得の扱い。返礼品は一時所得に該当するとされています。返礼品の価額の合計が年間50万円の特別控除を超えると、課税対象が生じ得ます。他に一時所得がある場合は特に注意してください。

クレジットカードの限度額。単純ですが、実際に止まります。

上限額の計算は自分でやらない

ふるさと納税サイトのシミュレーターは、給与所得を前提に作られているものが大半です。譲渡所得を含む年の計算には対応していないことがあります。

また、譲渡益の金額が確定するのはクロージング後であり、取得費や譲渡費用の確定によって課税所得は動きます。

必ず税理士に計算してもらってください。上限を超えた分は純粋な持ち出しになります。数百万円単位の話になるため、概算で進めるべき場面ではありません。

自治体の選び方

金額が大きくなる年だからこそ、どこへ出すかを考える価値があります。

よく選ばれるのは、創業の地、工場や店舗のある自治体、ご自身やご家族の出身地です。事業で世話になった地域に返す、という考え方です。

また、使い道を指定できる自治体もあります。教育、災害復旧、地場産業の支援。返礼品ではなく使途で選ぶ方も少なくありません。

実務上の注意として、一つの自治体に集中させると、その自治体の事務処理能力を超えることがあります。数百万円規模の寄附を受け付けた経験のない自治体では、証明書の発行が遅れることもあります。証明書は確定申告に必要です。年内に出して、年明けに届かない、という事態は避けてください。

ミニマムタックスとの関係

譲渡益が大きい場合、いわゆるミニマムタックス(その年分の所得税額の特例)の適用も検討対象になります。2025年分から特別控除3.3億円・税率22.5%で適用され、2027年分からは1.65億円・30%へ強化されます(2026年9月時点)。

この計算は通常の所得税額とは別枠で行われるため、寄附金控除の効き方を含め、全体の税額に与える影響は個別に確認が必要です。

「上限まで寄附すれば必ず得」という単純な話にはなりません。ミニマムタックスも併せてご確認ください。

順番としては、まず税額の確定

まとめます。ふるさと納税は、譲渡益が出た年の数少ない「使える制度」です。大きな金額を、応援したい自治体に回せます。

ただし、順番を守ってください。①クロージングの日程を確定させる ②税理士に譲渡益と税額の見込みを出してもらう ③上限額を計算する ④年内に寄附を完了する ⑤証明書を保管して確定申告する。

この順で進めれば失敗しません。逆に、寄附を先にして後から計算すると、超過分がそのまま持ち出しになります。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.増えます。上限は住民税所得割額を基礎に計算され、株式譲渡益の住民税は5%(申告分離課税)です。譲渡益が大きければ住民税所得割額も大きくなり、上限も桁が変わります。
A.使えません。株式譲渡益が出た年は確定申告が必要で、確定申告をするとワンストップ特例の申請はなかったものとして扱われます。寄附金受領証明書をすべて保管し、確定申告で寄附金控除として申告してください。
A.ふるさと納税サイトのシミュレーターは給与所得を前提としたものが大半で、譲渡所得を含む年には対応していないことがあります。譲渡益は取得費や譲渡費用の確定で動くため、必ず税理士に計算してもらってください。
A.返礼品は一時所得に該当するとされています。返礼品の価額の合計が年間50万円の特別控除を超えると課税対象が生じ得ます。他に一時所得がある場合は特にご注意ください。
A.その年の1月1日から12月31日までの寄附がその年分の対象です。カード決済なら決済完了日、振込なら入金日が基準です(自治体により異なる場合があります)。12月下旬は混み合うため、クロージングの日程が見えた時点で計画してください。
A.創業の地、工場や店舗のある自治体、出身地が選ばれます。使い道を指定できる自治体もあります。実務上の注意として、一つの自治体に集中させると事務処理が追いつかず、確定申告に必要な受領証明書の発行が遅れることがあります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら