中小企業がM&Aを行うとき、買う側に用意されている税制上の措置があります。経営資源集約化税制と呼ばれてきた枠組みです。

これを使うには、原則として経営力向上計画の認定を受ける必要があります。計画を作り、所管の省庁に申請し、認定を受けてから実行する、という順序です。

重要なのは順序と期限です。買った後に「使えますか」と聞いても間に合わないことがあります。また、制度の内容と適用の期限は年度の改正で変わります。ここでは枠組みの考え方を整理しますが、使えるかどうかは必ずその時点の制度で確認してください。

前提になる計画の認定

経営力向上計画は、中小企業等経営強化法に基づく制度です。事業の内容、経営の課題、どう改善するか、必要な設備や投資を書いて申請します。

認定を受けると、税制上の措置、金融の支援、許認可の承継に関する特例などが使えるようになります。M&Aに関する部分は、この計画の中に事業承継等の内容を書く形です。

申請の窓口は、事業の分野によって所管の省庁が分かれます。手引きや様式は公表されていますが、記載すべき内容が決まっているので、慣れていないと手間がかかります。商工会議所、よろず支援拠点、認定経営革新等支援機関に相談できます。

注意すべきは認定のタイミングです。制度によって、実行の前に認定が必要なもの、実行の後に申請できるものがあります。ここを間違えると使えません。M&Aを検討し始めた段階で確かめる必要があります。

許認可の承継の特例という側面もある

税制だけでなく、許認可の承継に関する特例が設けられている点も実務で効きます。

事業譲渡や会社分割では、許認可を取り直す必要があるものが多くあります。業種によっては、取り直しに数か月かかり、その間に事業が止まります。

経営力向上計画の認定を受けた場合に、一定の許認可について承継の手続きを簡素化する特例が用意されています。対象となる許認可は法令で列挙されており、すべての許認可が対象になるわけではありません。

したがって、自社の業種の許認可が対象に含まれるかを先に確かめることになります。含まれていれば、スキームの選択肢が広がります。含まれていなければ、株式譲渡の形を選ぶ理由が強くなります。

これは税の話より先に効く論点です。取引の形そのものが変わるためです。

買う側の税務の論点

買う側の税務では、取引の形によって扱いが分かれます。

株式を取得する場合。支払った金額は子会社株式などの資産になります。その期の費用にはなりません。買った会社の資産の帳簿価額も変わりません。

事業を取得する場合(事業譲渡)。受け入れた資産と負債を個別に計上し、対価が時価の合計を上回る部分が、税務上は資産調整勘定として扱われる場合があります。一定の期間にわたって損金に算入される形です。

この違いは、買った後の税負担に直接響きます。同じ会社を同じ金額で買っても、形が違えば数年間の税額が変わります。

加えて、繰越欠損金の扱いがあります。買った会社が過去の赤字を持っている場合、支配関係が変わった後の使用には制限が設けられています。要件を満たさないと使えません。

これらの判断は制度の細部に依存します。価格を決める前に税理士に確認する必要があります。後から分かると、前提が崩れます。

補助金の枠組みも別にある

税制とは別に、事業承継・M&A補助金があります。M&Aに関連する費用の一部を対象とする補助金です。

対象となる経費、補助の率と上限、申請の時期は年度の公募要領で定められ、年度ごとに変わります。したがって「使えます」と断定はできません。その年度の公募要領で確認することになります。

注意する点を挙げます。

  • 交付の決定の前に契約した費用は対象外になるのが通常。先に動くと使えません。
  • 公募の期間が限られている。取引の日程と合わないことがあります。
  • 採択されるとは限らない。補助金を前提に資金計画を立てるのは危険です。
  • 報告の義務がある。交付後に実績の報告が必要です。

「補助金が使えるから買う」という順序は勧められません。使えたら費用が軽くなる、という位置づけで考えるほうが安全です。

売る側から見た意味

これらの制度は主に買う側のものですが、売る側にとっても意味があります。

買い手が使えると、提示できる条件が良くなる可能性があります。税負担が軽くなる分、出せる金額に余裕が生まれることがあります。

許認可の承継の特例が使えると、スキームの幅が広がります。事業譲渡でも進められるなら、株式譲渡にこだわらずに済みます。

したがって、売り手側が自社の許認可が特例の対象かどうかを把握しておくと、買い手との話が早くなります。買い手が知らないこともあります。

そのうえで、制度を売り込む材料にはしないことが大事です。要件を満たすかどうかは買い手の状況で決まり、売り手が保証できることではありません。「使えるはずです」と言って使えなかった場合、信用を失います。

制度の内容・要件・期限は年度の改正で変わります。実際の適用は、必ず税理士および所管の窓口に確認してください。

よくあるご質問

A.中小企業がM&Aを行う際に買う側が使える税制上の措置の枠組みです。原則として経営力向上計画の認定が前提になります。内容と適用の期限は年度の改正で変わるため、最新の制度で確認してください。
A.制度によって、実行の前に認定が必要なものと、実行の後に申請できるものがあります。ここを間違えると使えません。M&Aを検討し始めた段階で、順序と期限を確かめてください。
A.経営力向上計画の認定を受けた場合に、一定の許認可について承継の手続きを簡素化する特例が用意されています。対象となる許認可は法令で列挙されており、すべてが対象ではありません。
A.勧められません。採択されるとは限らず、交付の決定前に契約した費用は対象外になるのが通常です。公募の期間が取引の日程と合わないこともあります。使えたら費用が軽くなる、という位置づけで考えてください。

Free Consultation

譲渡をお考えの経営者さまへ

判断の材料が足りているかどうかから、一緒に整理します。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら