ブレークアップフィーは、合意に向かって進んでいた交渉を一方の都合で打ち切った場合に、その側が相手に金銭を払う取り決めです。破談料と訳されることもあります。
上場企業の買収や大型の取引で見られる仕組みで、中小企業のM&Aで同じ名前の条項が入ることは多くありません。ただし、「途中でやめたときに何が起きるか」という問いは、規模にかかわらず出てきます。中小企業の実務では、中間金の扱いや違約金の条項が似た働きをします。ここでは、どういう場面に備えた条項なのかを整理します。
何に備える条項なのか
交渉が進むと、双方が費用と時間をかけます。買い手は調査の費用を出し、専門家に報酬を払い、資金の手当てを進めます。売り手は資料を整え、社内の体制を動かし、他の候補との話を止めます。
ここで一方が理由なく打ち切ると、かけた費用と、他の機会を失った分が残ります。ブレークアップフィーは、この損失の一部を相手に負担させる取り決めです。
同時に、打ち切りを抑える働きもあります。払う金額が決まっていれば、軽い気持ちでは離脱しにくくなります。大型の取引では、合意を公表した後に別の買い手が現れることがあり、売り手が乗り換える場合に備えてこの条項が置かれます。
逆に、金額が高すぎると別の問題が起きます。本来やめるべき取引でもやめられなくなり、不利な条件で進むことになります。抑える力と、縛りすぎることの境目が設計の論点です。
中小企業のM&Aではどう現れるか
同じ名前の条項でなくても、似た働きをする取り決めがあります。
- 中間金。基本合意の時点で一定額を払い、その後に不成立となっても返らない形。払った側にとっては、途中でやめた場合の負担になります。
- 違約金・損害賠償の条項。基本合意書や最終契約に、違反した場合の金銭の支払いを定めるもの。
- 独占交渉権と、その違反。基本合意で一定期間、他の相手と交渉しないことを約束し、違反した場合の扱いを定める形。
- 費用の負担の取り決め。不成立となった場合に、調査費用をどちらが負担するかを定める形。
当社の場合は、基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成約時の成功報酬から全額を差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、中間金の返金はいたしません。これは当社への報酬の話で、相手方に払うものではありませんが、「途中でやめたときに何が残るか」という点では同じ性質を持ちます。詳しくは料金・費用に書いています。
基本合意は「決定」ではない
ここで押さえておきたいのは、基本合意は取引の決定ではないことです。基本合意書は、その時点までに話し合った条件を書き留め、次の段階(調査と最終契約の交渉)に進むことを確認する文書です。価格も、調査の結果によって見直される前提で書かれるのが通常です。
したがって、基本合意の後に不成立となること自体は異常ではありません。調査で想定外のものが見つかれば、見直すのが正しい進め方です。「途中でやめること」を一律に悪いこととして設計すると、調査の意味がなくなります。
基本合意書の条項のうち、法的な拘束力を持たせるものと、持たせないものを分けて書くのが一般的です。独占交渉権や秘密保持には拘束力を持たせ、価格や条件には持たせない形です。どの条項に拘束力があるのかは、契約書を読んで確かめる必要があります。
売り手として見るところ
売り手の立場では、次の点を確かめます。
独占交渉の期間。他の候補との話を止める期間がどれだけか。長すぎると、不成立になったときに時間を失います。期間が切れた後、自動で延びる条項が入っていないかも見ます。
やめられる場合の定め。どういう理由であれば打ち切っても金銭の負担が生じないのか。調査で重大な事実が判明した場合、資金の手当てがつかなかった場合など、条件が書かれているかを確認します。
払うことになる金額の上限。違約金が定められている場合、その額が実際の損害と釣り合っているかを見ます。高すぎる違約金は、やめるべき取引をやめられなくします。
仲介やFAへの報酬との関係。相手方に払うものと、自分が依頼した事業者に払うものは別です。両方を合わせて、各段階で止まった場合にいくら出るのかを並べてください。
払う側と受け取る側で、見る向きが逆になる
この種の条項は、同じ文章を双方が逆の向きから読みます。自分が払う可能性を考えると金額は低くしたく、相手が払う可能性を考えると高くしたくなります。したがって、交渉では金額そのものより「どういう場合に発生するか」の場合分けが焦点になります。
実務で分けられるのは、おおむね次の3つです。1つめは、相手に落ち度があって打ち切る場合。重大な事実を隠していた、約束した資料を出さなかった、といった場面です。2つめは、どちらにも落ち度がなく進められなくなった場合。調査で想定外のものが見つかった、資金の手当てがつかなかった、許認可の承継ができないと判明した、といった場面です。3つめは、理由なく一方が離脱する場合です。
1つめと3つめには負担を定め、2つめには定めないのが一般的な形です。2つめにも負担を定めると、調査をする意味が薄れます。問題を見つけても、負担を避けるために進めてしまう動機が生まれるためです。
場合分けを書かずに「一方の都合で打ち切った場合」とだけ書くと、どの場面に当たるかで必ず争いになります。曖昧な条項は、揉めるまで曖昧なままです。
買い手として見るところ
買い手の立場では、調査の費用が最大の負担になります。調査まで進んで見送った場合、その費用は何も取得しないまま残ります。したがって、売り手が一方的に打ち切ることへの備えを求める動機があります。
一方で、調査で問題が見つかったときに自分が離脱できる余地は残しておく必要があります。両方を同じ条項で縛ると、自分の離脱も縛られます。「どちらの理由による打ち切りか」で場合を分けて書くのが実務です。
また、独占交渉の期間は、調査と資金の手当てに必要な期間を見て設定します。短すぎると間に合わず、長すぎると売り手が受け入れません。
条項の設計と拘束力の範囲は、個別の事情で結論が変わります。基本合意書・最終契約の条項については、弁護士に確認してください。