クロージングの当日、印鑑証明書の期限が切れていて手続きが止まる。実際に起こります。地味ですが、日程に直結する論点です。
期限は、制度ではなく相手が決める
まず前提を整理します。印鑑証明書そのものに法律上の有効期限はありません。
期限を定めているのは、それを受け取る側です。登記では法令や運用により期間が定められているものがあり、金融機関や取引の相手方が独自に「発行後3か月以内」と求めることもあります。
したがって、「何に使うか」で必要な新しさが変わります。
使う先ごとに、いつ時点のものが必要かを確認してください。一律に3か月と考えていると、要件の厳しいところで足りなくなります。
登記に使う書類
役員変更の登記で必要になるものです。司法書士に確認したうえで揃えてください。
新任役員の印鑑証明書。代表取締役に就任する場合などに必要です。
就任承諾書。
株主総会・取締役会の議事録。
株主リスト。
登記は就任から2週間以内の申請が求められます。書類の不備で申請が遅れると、過料の対象になり得ます。
クロージングの前に、司法書士に一覧を作ってもらってください。これが最も確実です。
契約の相手方に出すもの
最終契約や金融機関との手続きで求められるものです。
印鑑証明書。契約書に押した印鑑が実印であることの証明。
登記事項証明書。会社の存在と、代表者の権限の証明。
納税証明書。滞納がないことの証明。買い手が求めることがあります。
これらは「発行後3か月以内」を求められることが多いのですが、相手によって違います。金融機関では1か月以内とされることもあります。
必ず事前に確認してください。
取得に時間がかかるもの
当日に慌てないために、時間のかかるものを把握しておいてください。
納税証明書。税務署・都道府県・市区町村でそれぞれ発行され、窓口が別です。郵送だと1〜2週間かかります。
不動産の登記事項証明書。物件数が多いと、取得に手間がかかります。
固定資産評価証明書。市区町村の窓口。
戸籍・住民票。相続が絡む場合。本籍地が遠方だと、郵送で数週間かかることがあります。
クロージングの1か月前には着手してください。
原本と写しを使い分ける
実務的な工夫です。原本を求められる場面と、写しで足りる場面があります。
登記には原本が必要です。一方、デューデリジェンスの資料として提出するものは、写しで足りることが多い。
また、原本還付という手続きがあり、写しに「原本と相違ない」旨を記載して提出することで、原本を返してもらえる場合があります。
何通必要かを先に数えてください。印鑑証明書を1通しか取らずに、2か所で原本を求められる——という事態が起こります。
少し多めに取っておくのが実務です。費用はわずかです。
期限切れで起きること
実際に起きる事態を挙げます。
登記が受理されない。補正を求められ、取り直しに半日から数日。
クロージングが延期になる。代金の送金日がずれ、関係者の日程を組み直すことになります。
融資の実行が遅れる。買い手が借入で調達している場合、書類の不備が実行日に影響します。
いずれも、事前の確認で防げます。「たぶん大丈夫」で当日を迎えないでください。
チェックリストを作る
実務では、書類の一覧表を作って管理します。列は次のとおりです。
書類名 / 誰が取得するか / 通数 / 原本か写しか / 提出先 / 必要な発行時期 / 取得済みか。
これを仲介会社が作り、売り手・買い手・司法書士で共有するのが標準です。
「取得済み」の欄が全部埋まってから、クロージングの日を確定させる。この順序にすると、当日の事故がほぼなくなります。
当社でも、この一覧をお客様にお渡ししています。
電子化が進んでいる部分もある
近年の動きにも触れておきます。
商業登記の電子申請や、登記事項証明書のオンライン請求は利用が広がっています。
また、電子契約を使う場合、印鑑証明書が不要になる場面があります。
ただし、すべてが電子で完結するわけではありません。相手方が紙を求めることもあります。
どこまで電子で進められるかは、案件ごとに確認してください。司法書士や弁護士に、早い段階で相談するのが確実です。
最後に、保管する
手続きが終わった後の話です。使った書類と、受け取った書類を整理して保管してください。
最終契約書の原本、議事録、株主名簿、登記完了後の登記事項証明書、引き渡した物の一覧。
これらは、数年後に必要になります。税務調査、補償の請求、次の譲渡、相続。
保管場所を決め、誰が管理するかを明確にしてください。
「どこかにあるはず」という状態は、無いのと同じです。クロージングの直後、記憶が鮮明なうちに整理してください。