基本合意を締結すると、買い手によるデューデリジェンス(DD、買収監査)が始まります。「どのくらいの期間がかかるのか」「本業を止めずに対応できるのか」というご質問を、経営者様から非常によくいただきます。結論から言えば期間は案件によりますが、負担の中身と時間のかかりどころが分かっていれば、対応の見通しは立てられます。本稿では、DDの段取りと売り手側の実務負担を、日程の観点から整理します。
DDの日程は何で決まるのか
DDに要する期間は、次のような要素で大きく変わります。
- 調査の範囲:財務・税務のみか、法務・労務・環境・ITまで広げるか
- 会社の規模と拠点数:拠点や子会社が多いほど確認事項が増える
- 資料の整備状況:契約書や議事録が揃っているか、探すところから始まるか
- 業種特有の論点:許認可、不動産、在庫、工事の進行基準など
- 買い手側の体制:専門家の人数、社内の意思決定のスピード
- 売り手側の回答速度:質問への回答が滞ると、その分だけ後ろにずれる
このうち売り手側でコントロールできるのは、資料の整備状況と回答速度です。逆にいえば、この二つが整っていない案件は、どれだけ日程を組んでも延びます。
M&A全体の期間の目安については「M&Aにかかる期間」で解説していますが、DDはその中の一工程にすぎません。全体日程の中で、DDにどれだけの枠を取るかを最初に握っておくことが大切です。
資料依頼から報告までの一般的な段取り
売り手から見たDDの流れは、おおむね次のように進みます。
| 工程 | 内容と売り手の関与 |
|---|---|
| 1. 資料依頼リストの受領 | 買い手側から数十〜百数十項目の依頼リストが届く。仲介会社が内容を整理し、対応の優先順位をつける |
| 2. 資料の収集・整理 | 売り手が社内で資料を集め、電子化してデータルーム(オンラインが主流)に格納する。最も負荷が集中する工程 |
| 3. 一次開示 | 揃った資料から順次開示。全部が揃うまで待たず、出せるものから出すのが実務上の定石 |
| 4. 質問(Q&A)対応 | 買い手側専門家からの質問に書面で回答する。複数回のやり取りになる |
| 5. インタビュー | 経営者・経理責任者への聞き取り。半日から1日程度で設定されることが多い |
| 6. 現地調査 | 必要に応じて工場・店舗等を確認。従業員に気づかれない配慮が必要 |
| 7. 報告書のとりまとめ | 買い手側で報告書を作成。売り手は待ちの期間となるが、追加質問が入ることもある |
| 8. 指摘事項の共有と条件協議 | 検出事項が共有され、価格や契約条件の協議に反映される |
時間がかかりやすい工程
実務でスケジュールが延びる原因は、ほぼ決まっています。
資料が見つからない
最も多いのがこれです。古い取引基本契約書が見当たらない、株主総会や取締役会の議事録が一部欠けている、株主名簿が最新の状態に更新されていない、といったことは中小企業では珍しくありません。探す時間、再作成の要否を判断する時間、法的な整理をする時間が積み重なります。
数字の再集計が必要になる
買い手は、月次の推移や部門別・商品別の内訳を求めることがあります。日頃そうした集計をしていない会社では、過去数期分をさかのぼって作り直す作業が発生します。
回答に社内の確認が要る質問が多い
「この取引はいつから続いているか」「この費用の内訳は何か」といった質問は、経営者様一人では答えられず、現場や経理担当者への確認が必要になります。その確認自体を、M&Aの検討を伏せたまま行う難しさもあります。
買い手側の社内手続
報告書が出た後、稟議・取締役会・資金調達といった手続が控えています。ここは売り手が急かしても短縮できない領域です。買い手側の意思決定のスケジュールを、基本合意の段階で確認しておくとよいでしょう。
売り手側にかかる実務負担の中身
DDの負担は「時間」よりも「同時進行のしんどさ」として現れます。通常業務を続けながら、経営者様と限られた社内メンバーで対応することになるためです。
- 経営者様:インタビュー対応、事業に関する質問への回答、方針判断。断続的に時間を取られる
- 経理責任者:財務資料の抽出、数字の説明、月次データの再集計。最も負荷が集中する
- 総務・人事の担当者:規程類、雇用契約、社会保険関係の資料収集
- 仲介会社:資料リストの整理、開示の管理、質問の交通整理、日程の調整
ここで問題になるのが、社内で誰にどこまで打ち明けるかです。経理責任者の協力なしにDDを乗り切るのは現実的ではありませんが、開示の範囲が広がれば情報が漏れるリスクも高まります。一般には、経営者様に近い最小限のメンバーに限って事情を説明し、秘密保持を確認したうえで協力を求めます。従業員への説明の考え方は「会社売却を従業員にいつ・どう伝えるか」もご参照ください。
日程を組むときの工夫
負担を平準化し、日程を守るための実務的な工夫をいくつか挙げます。
- 資料は検討開始時から集め始める。DDが始まってから動くのでは遅すぎます。相談の初期段階で、決算書・申告書・定款・株主名簿・主要契約書・就業規則といった基本資料を手元に集めておくと、後の工程が劇的に楽になります
- 出せるものから順に開示する。全部揃うのを待つと、買い手側の作業開始が遅れ、後半に質問が集中します
- 質問には「分からない」と答えてよい。推測で答えると後で訂正が必要になり、かえって時間を失います
- 決算期や繁忙期を避ける。経理が決算作業に入る時期とDDが重なると、双方が回りません
- インタビューと現地調査の日程を早めに押さえる。関係者が多く、後回しにすると日程が取れなくなります
- 窓口を一本化する。買い手側専門家からの連絡が各所に直接入る状態は避け、仲介会社を経由させます
準備しておくべき書類の一覧は「会社売却に必要な書類一覧」にまとめています。
まとめ|準備の前倒しが日程を守る
デューデリジェンスに要する期間は、調査範囲、会社の規模、資料の整備状況、双方の対応速度によって大きく変わり、一律にお示しできるものではありません。ただし、日程が延びる原因は「資料が見つからない」「数字を作り直す必要がある」「回答が滞る」というところにほぼ集約されます。いずれも、検討の初期段階から資料を整えておくことで大きく軽減できます。
当社プラチナパートナーズでは、ご相談の初期からDDで論点になりそうな箇所を見立て、資料の整理を前倒しでご支援しています。DD期間中は、資料リストの整理、質問の交通整理、日程調整を当社が引き受け、経営者様が本業に集中できる体制を整えます。詳しくはM&Aの流れ(サービスのご案内)をご覧のうえ、無料相談からお問い合わせください。