合併、会社分割、株式交換、株式移転といった組織再編は、原則として株主総会の特別決議が必要です。招集の手続き、議案の通知、開催、議事録の作成と、日程に数週間が乗ります。
ところが会社法には、一定の要件を満たす場合に株主総会を省略できる定めがあります。規模が小さい場合の簡易手続きと、支配の割合が高い場合の略式手続きです。
この2つを使えるかどうかで、取引の日程が変わります。スキームを決める前に確かめる論点なので、考え方を整理します。
簡易 — 対価が小さい場合
簡易手続きは、渡す対価が会社の規模に比べて小さい場合に、受け取る側(存続会社・承継会社)の株主総会を省けるという考え方です。
趣旨は分かりやすいものです。会社の純資産に比べてわずかな対価で小さな事業を受け入れるのに、毎回株主総会を開くのは釣り合わない、ということです。
割合の基準と計算の方法は会社法に定められており、対価として交付する財産の額と、受け取る側の純資産額の比較で判断します。
注意すべき点が2つあります。
反対する株主が一定割合いると使えない定めがあります。したがって、株主が分散している会社では事前に意向を確かめる必要があります。
譲渡する側(消滅会社・分割会社)の総会は省けません。簡易は受け取る側の話です。両方を省くには別の要件が必要になります。
略式 — 支配の割合が高い場合
略式手続きは、一方の会社が他方の議決権の大部分を持っている場合に、支配されている側の株主総会を省けるという考え方です。
趣旨も分かりやすく、結果が決まっている総会を開く意味が小さいためです。支配している側(特別支配会社)が賛成すれば可決されるので、手続きとしての意味が薄くなります。
要件は議決権の保有割合で定められており、グループ内の再編で使われるのが典型です。100%子会社を合併する、子会社に事業を分割するといった場面です。
M&Aの文脈では、買収した後に行う再編で出てきます。買って100%子会社にした会社を、1年後に合併する。このとき略式手続きが使えると、日程が短くなります。
ただし、上場会社や、種類株式を発行している会社では別の制約が入ることがあります。要件は細かいので、使えるかどうかは個別に確認が必要です。
省けるのは総会だけ — 他の手続きは残る
ここを誤解すると日程を読み違えます。株主総会を省けても、他の手続きは残ります。
- 債権者保護の手続き。合併や会社分割では、債権者が異議を申し出る機会を設ける必要があります。官報への公告と、分かっている債権者への個別の通知。一定の期間を置く必要があり、これが日程の下限を決めます。
- 労働者との手続き。会社分割では、労働契約承継法に基づく通知と協議が必要です。
- 事前・事後の開示。本店に書類を備え置く義務。
- 登記。効力が生じた後に申請します。
- 反対株主の買取請求。総会を省いても、反対する株主が株式の買取りを請求できる制度は残ります。
したがって、総会を省けても「すぐできる」わけではありません。債権者保護の期間が効いてきます。
反対株主の買取請求が、実務の変数になる
株主総会を省略しても、反対する株主の保護は残ります。株式の買取りを請求できる制度です。
請求されると、価格を協議することになります。合意できなければ裁判所に価格の決定を求める道があり、そこまで行くと期間が読めなくなります。
したがって、株主が分散している会社では、再編の前に株主の状況を把握することが実務になります。
- 株主名簿が正確か
- 連絡が取れるか
- 過去に会社と対立した経緯がある株主がいるか
- 相続が済んでいない株があるか
この確認をせずにスキームを決めると、日程が崩れます。そして、崩れるのは手続きを始めた後なので、後戻りが難しくなります。
スキームの選択に効く
簡易・略式が使えるかどうかは、どの形で取引を組むかにも影響します。
例えば、事業を切り出して譲る場合、事業譲渡と会社分割のどちらでもできることがあります。事業譲渡は個別の契約を移す手間がかかり、会社分割は包括的に移る代わりに会社法の手続きが必要です。
ここで略式が使えるなら、会社分割の手続きの重さが下がります。グループ内で先に100%子会社にしてから分割する、という段取りが選ばれることがあるのはそのためです。
ただし、段取りを増やすと税務の論点が増えます。組織再編の税務は適格・非適格の区分で結論が変わり、要件は細かく定められています。手続きを軽くするために段取りを増やした結果、税負担が増えることがあります。
会社法の手続きと税務は、別々に判断してはいけない部分です。弁護士と税理士の両方に、同じスキームを見てもらう必要があります。
確かめる順序
実務の順序を整理します。
1. 株主を確かめる。名簿、連絡の可否、相続の状況。これが全部の前提になります。
2. 使える手続きを確かめる。簡易・略式の要件を満たすか。満たさないなら総会の日程を組みます。
3. 省けない手続きの期間を出す。債権者保護、労働者への通知、開示、登記。ここが日程の下限です。
4. 税務を当てる。適格・非適格、繰越欠損金の扱い、消費税。
5. 全体の日程を引く。
省略できる制度があることを知らないと、必要のない日程を組むことになります。逆に、省略できると思って進めて要件を満たしていなかった場合、手続きのやり直しになります。どちらも「先に確かめる」で避けられます。会社法と税務の判断は個別の事情で変わるため、弁護士・税理士に確認してください。