最終契約まで到達しても、書類が揃わずにクロージングが延びることがあります。印鑑証明書には有効期限があり、登記には順序があります。当日までに何を揃えるのかを、早い段階で把握しておくと安全です。
クロージングで何が起きるのか
クロージングは、株式の譲渡と代金の支払いを同時に実行する日です。書類の引き渡し、代金の着金確認、株主名簿の書換え、役員の交代がこの日に集中します。
実務では、双方の関係者が一室に集まるか、オンラインで接続した状態で行います。着金を確認してから書類を引き渡す、という順序が一般的です。
この日に一つでも書類が欠けると、その場で完了できません。関係者の日程を取り直すことになり、資金の手当てにも影響します。前日までの確認が要ります。
印鑑証明書は、誰の分が何通要るか
もっとも見落とされやすいのが印鑑証明書です。
必要になるのは、譲渡する株主全員の個人の印鑑証明書と、会社の印鑑証明書です。株主が複数いれば全員分です。相続で株式を取得した方がいる場合、その方の分も要ります。
発行から3か月以内といった期限が付くのが通例です。早く取りすぎると失効し、取り直しになります。クロージング日が固まってから取得するのが正しい順序です。高齢の株主や遠方の株主がいる場合、取得を依頼する手間も見込んでください。
株式譲渡に必要な書類
株式譲渡では、次の書類が揃っている必要があります。
株式譲渡承認請求書と、それに対する承認の決定を記録した議事録(取締役会設置会社では取締役会議事録、置かない会社では株主総会議事録)。株主名簿と、名義書換請求書。そして株式譲渡契約書です。
株券を発行している会社では、株券の現物が必要です。「株券不発行」の定めがあるかを定款で確認してください。紛失している場合は手続きに時間がかかるため、早い段階の確認が欠かせません。
役員変更の登記
クロージングと同時に、旧経営陣が退任し、新しい役員が就任します。これには登記が必要です。
準備するのは、株主総会議事録、就任承諾書、新任役員の本人確認書類、代表取締役を選ぶ場合は取締役会議事録などです。登記の申請は変更から2週間以内とされています。
実務では、司法書士に依頼して当日に申請してもらう形が一般的です。誰が司法書士を手配するのかを、契約の段階で決めておいてください。費用負担の取り決めも含めてです。
定款と会社の実印
意外に問題になるのが、定款が見当たらないというケースです。
設立時の原始定款、その後の変更を反映した現行定款。どちらも必要になる場面があります。手元にない場合、公証役場に保管されている原始定款の謄本を取得できることがありますが、時間がかかります。
また、会社の実印(代表者印)の引き渡しもクロージングの一部です。銀行印、角印、ゴム印も含めて、何をいつ渡すのかをリストにしておきます。実印を渡した後は、旧経営者は会社名義の書類に押印できなくなります。
金融機関と許認可の手続き
登記が完了すると、履歴事項全部証明書に新しい役員が記載されます。これを使って、金融機関の届出、許認可の変更届、取引先への通知を行います。
金融機関では、代表者の変更届と印鑑の変更が必要です。個人保証の扱いもこのタイミングで整理します。保証の解除が最終契約の条件になっている場合は、実行されたかを確認してください。
許認可は業種によって届出の期限が違います。建設業、運送業、産業廃棄物処理業などは、期限を過ぎると行政処分の対象になり得ます。クロージング前に一覧を作っておいてください。
当日の段取り
実務の順序は、おおむね次のとおりです。
書類の現物を相互に確認 → 代金の振込を実行 → 着金を確認 → 株式譲渡に関する書類と株主名簿を引き渡し → 役員の退任・就任の書類を引き渡し → 実印・通帳・鍵などを引き渡し → 司法書士が登記を申請。
ポイントは着金の確認を先に置くことです。振込の指示だけで書類を渡してしまうと、着金しなかった場合に取り返しがつきません。銀行の営業時間も考慮して、午前中に開始するのが実務上は安全です。
いつから準備を始めるか
書類の準備は、基本合意の後、デューデリジェンスと並行して始めます。
とくに時間がかかるのは、株主名簿の整備、定款の確認、株券の有無の確認、許認可の一覧づくりです。これらはクロージング日が決まる前から着手できます。
逆に、印鑑証明書のように期限のあるものは、日程が固まってから取得します。「早くできるもの」と「日程が決まってからのもの」を分けた一覧を作ると、漏れがなくなります。当社では、この一覧づくりからご一緒します。