物流は「運ぶ」だけの事業ではなくなりました。保管、流通加工、在庫管理、配送、そして情報の管理までを一括で請け負う3PL(サードパーティ・ロジスティクス)という形態が広がり、荷主企業は自前で物流機能を持つのではなく、外部に委ねる方向に動いています。ここでは、その背景にある数字と制度を、公表資料に基づいて整理します。
数字で見る物流・3PL業界の現在地
荷主側の物流コストは、この数年上昇しています。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の「2025年度物流コスト調査」(速報値、有効回答196社)によると、全業種平均の売上高物流コスト比率は5.36%で、過去20年間で4番目に高い水準とされています。2024年度の調査では5.44%でした。物流事業者からの値上げ要請などを背景に、長期的な上昇傾向が続いていると同協会は説明しています。
荷主から見れば、物流コストは無視できない大きさになりつつあるということです。この状況は、物流事業者にとって二つの意味を持ちます。ひとつは、価格転嫁の余地が以前より生まれていること。もうひとつは、荷主が「コストを下げるために外部の専門事業者に任せる」という判断をしやすくなっていることです。3PLの需要は、この後者から生まれています。
輸送手段の構成を見ると、国内貨物輸送(トンベース、令和2年度)は営業用貨物自動車が61.7%、自家用貨物自動車が29.9%、内航海運が7.4%、鉄道が0.9%です(国土交通省)。陸上輸送に大きく依存する構造であり、後述する労働時間規制の影響を業界全体が受けることになります。
改正物流効率化法が3PLに与える影響
2024年5月15日に公布された「物資の流通の効率化に関する法律」(改正物流効率化法)は、物流のあり方そのものに手を入れる制度です(国土交通省)。令和7年4月1日から荷主・物流事業者等への努力義務が施行され、令和8年4月1日からは一定規模以上の事業者を「特定事業者」として指定し、中長期計画の作成・定期報告等を義務付けます。特定事業者のうち荷主には、物流統括管理者(CLO)の選任が義務付けられます。
この制度が3PL事業者にとって重要なのは、荷主企業が「物流を統括して考える人」を社内に置くことになるからです。これまで各部門に分散していた物流の意思決定が一本化されれば、外部委託の判断も、より戦略的に行われるようになります。荷待ち・荷役時間の削減や積載率の向上といった具体的な数値目標を掲げる荷主が増えれば、それを実現できる提案力を持つ事業者に仕事が集まる、という流れも考えられます。
逆にいえば、単に倉庫スペースと人手を提供するだけの受託形態は、評価されにくくなっていく可能性があります。制度が求めているのは効率化であり、効率化を数字で示せることが、これからの受託の条件になっていくと見るのが自然です。
自動化投資と、装置産業化していく倉庫
庫内作業の自動化・省人化への投資は、この数年の物流業界を語るうえで欠かせないテーマです。自動倉庫、搬送ロボット、仕分け機、そして倉庫管理システム(WMS)の導入は、人手不足への対応であると同時に、受託単価の維持につながる差別化要素でもあります。
一方で、投資には規模の壁があります。設備投資には相応の資金が必要で、投資回収には荷主との長期契約が前提になります。契約期間が1年更新で、いつ切り替えられるかわからない状態では、大きな投資は判断しにくい。ここに、中小の物流事業者が直面するジレンマがあります。
この構造は、業界の再編が語られる背景でもあります。設備投資の原資を持つ事業者が、荷主基盤や拠点を持つ事業者と組む——そうした動きが一般論として想定されますが、個々の案件の成否や条件は事情によって大きく異なりますので、断定的な見通しは避けるべきでしょう。
経営環境の変化|コストが転嫁できる局面かどうか
物流事業者の収益は、人件費・賃料・燃料費・システム費用の上昇をどこまで受託料に反映できるかで決まります。前述のとおり荷主側の物流コスト比率は上昇傾向にあり、制度の後押しもあることから、交渉の環境は以前より整っているといえます。
ただし、それは「自動的に上がる」という意味ではありません。転嫁できているかどうかは、次のような点に左右されます。
- 契約書に単価改定に関する条項があるか、改定の申し入れ手続きが定められているか
- 作業の内訳(保管・入出庫・流通加工・配送)ごとに原価を把握できているか
- 荷主別・拠点別の採算が月次で見えているか
- 附帯作業として無償で引き受けている業務が、契約書上どう扱われているか
この四点は、そのまま譲渡を検討する際の準備事項にもなります。買い手が最初に確認するのは「その売上は、来期も同じ条件で続くのか」だからです。
事業承継の観点|拠点・契約・人材をどう引き継ぐか
帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。物流業も例外ではなく、創業者が荷主との関係を一手に握っているケースは珍しくありません。その関係が属人的であるほど、承継の設計は慎重さを要します。
整理しておきたい論点は、大きく三つです。
拠点——倉庫が自社所有か賃借かで、話の組み立てが変わります。賃借の場合は賃貸借契約の残存期間と、支配株主の変更に関する条項の有無を確認してください。自社所有の場合は、不動産の評価と、事業とあわせて譲渡するのか分けるのかという設計が論点になります。
契約——荷主との契約に、経営権の異動を通知事項や解除事由とする条項(いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項)が置かれていることがあります。大手荷主との契約では特に注意が必要です。
人材——庫内の作業リーダー、フォークリフト等の有資格者、システムを運用できる人材が譲渡後も残るかどうかは、買い手が真剣に見る点です。派遣や請負を使っている場合は、その契約形態の適法性も確認対象になります。
倉庫業を営む場合の許認可の扱いや、庫内オペレーションの評価については「倉庫・物流会社のM&A」で整理しています。スキームによる許認可の違いは「M&Aで許認可はどうなるか」、価格の決まり方は「会社売却の相場はいくら?」もご参照ください。
まとめ|外部委託が進む局面での選択肢
荷主の物流コスト比率は上昇し、制度は効率化を求める方向に動いています。この二つが同時に起きている局面では、物流機能の外部委託はさらに進むと見るのが自然です。受け皿となる事業者にとっては需要が広がる一方、投資と人材の確保という重い課題が同時にのしかかります。
自社で投資を続けるのか、より大きな体制のなかで拠点と人材を活かす道を選ぶのか。どちらが正解ということはありませんが、判断の前提として自社の採算構造を把握しておくことは、いずれにせよ必要です。
当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、物流業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。拠点・契約・人材の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。