電気工事業は、建設業のなかでも数少ない「業者数が長期的に増えている」業種です。建物の高機能化、再生可能エネルギーの導入、省エネ改修、電気自動車の充電設備といった要素が重なり、電気にかかわる工事の裾野が広がってきたためと考えられます。本稿では、公表統計と制度の枠組みから、電気工事業界の現在地を整理します。

電気工事業の現在地|数少ない「増えている」建設業種

国土交通省「建設業許可業者数調査」(令和8年3月末現在)によれば、電気工事業の許可を取得している業者は66,534業者で、前年比1.6%増、平成12年3月末比では23.8%増となっています。同時期に建築工事業が37.8%減、土木工事業が22.1%減、造園工事業が31.3%減となっているなかで、対照的な動きです。

関連する業種も伸びています。電気通信工事業は16,764業者(前年比1.5%増、平成12年比54.5%増)、機械器具設置工事業は25,123業者(同1.5%増、39.2%増)です。電気・通信・制御にまたがる領域が、建設業のなかで比重を高めてきたことが読み取れます。

ただし、この増加は担い手が潤沢であることを意味しません。総務省「労働力調査」に基づく日本建設業連合会の集計では、2025年の建設業就業者数は478万人でピークの1997年(685万人)の約7割、建設技能者は296万人で同6割強です。年齢構成では55歳以上が約37%、29歳以下が約12%とされています。業者数が増えるなかで一社あたりの人員が薄くなっている、という見方もできます。

需要の広がり|改修工事のなかの電気設備

需要の中身は、統計から具体的に読み取れます。国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」(令和6年度計)によれば、リフォーム・リニューアル工事の受注高は合計13兆8,303億円(前年度比4.2%増)で、うち非住宅建築物が9兆6,984億円(7.7%増)でした。非住宅の業種別受注高では、「建築工事業」3兆9,361億円(16.4%増)に次いで、「電気,機械器具設置工事業」が1兆6,606億円(3.2%増)と2番目に大きくなっています。

工事部位別で見るとさらに明確です。同調査の令和6年度第4四半期の工事部位別受注件数(複数回答)では、非住宅建築物で「電気設備」が150,632件と最も多く、次いで「内装」114,546件でした。既存建物の改修工事の相当部分が、電気設備の更新によって構成されているということです。

一方、新築側は縮小しています。同省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で前年比6.5%減、3年連続の減少でした。新築工事の下請に依存している会社ほど、改修・保守への軸足の移し方が課題になります。

政策の追い風|エネルギー政策と省エネ規制

電気工事業には、エネルギー政策の側からの需要も生まれています。政府が2025年2月18日に閣議決定した「第7次エネルギー基本計画」では、2040年度の電源構成において再生可能エネルギーを4割から5割程度とする見通しが示されました。太陽光・風力といった電源の導入や、それを受け入れる側の設備工事は、この方向性のもとで継続的に発生します。

建築の側でも、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)により、2025年4月から原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました。照明・空調・給湯といった設備の性能が設計段階から評価対象となるため、電気設備の仕様提案が求められる場面が増えています。

ただし、政策の方向が追い風であることと、個々の案件が採算に乗ることは別です。とくに再エネ関連の工事は、制度変更の影響を受けやすい分野です。制度の詳細は「太陽光・再生可能エネルギー事業のM&A|設備とFIT/FIP案件の承継」でも触れています。

制度の枠組み|登録と資格が事業の前提になる

電気工事業は、建設業許可とは別に、「電気工事業の業務の適正化に関する法律」に基づく登録等の手続が必要とされる業種です。経済産業省の説明によれば、登録電気工事業者は営業所ごとに、一般用電気工作物に係る電気工事の作業を管理させるため主任電気工事士を置く必要があるとされています。建設業許可を有する事業者は「みなし登録電気工事業者」として開始届出を行う扱いになります。

作業そのものについても、電気工事士法に基づく第一種・第二種電気工事士の資格が必要です。つまり、事業を営むための登録、営業所ごとの主任電気工事士、現場で作業する電気工事士という三層の要件が重なっています。人が抜けたときの影響が大きいのは、このためです。

加えて、建設業許可の側では営業所ごとの専任技術者、現場の主任技術者・監理技術者の配置が求められます。2024年6月公布の改正建設業法(令和6年法律第49号)では、ICTの活用を条件に監理技術者等の専任規制を合理化する措置も盛り込まれました。

登録・届出の要否や要件は、営む工事の範囲(一般用電気工作物・自家用電気工作物の別)や事業形態によって異なります。個別の判断にあたっては、所管の経済産業局・都道府県担当窓口および専門家にご確認ください。

事業承継の観点で何が論点になるか

電気工事会社の承継では、まず有資格者の所在が問われます。経営者様ご自身が主任電気工事士であり、かつ建設業許可の専任技術者でもある、というケースは珍しくありません。この場合、退任のタイミングによっては登録・許可の維持に影響が及びます。

次に、受注構造です。ゼネコンや設備会社からの下請が中心なのか、施主から直接受注しているのか、保守契約を持っているのかで、承継後の売上の読みやすさが変わります。とくに保守・点検といった継続的な契約は、一般に評価されやすい領域です。

そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。資格と現場経験の両方を備えた後継者を社内から育てるには時間がかかります。育成が間に合わない場合に、社外への承継という選択肢を早めに検討しておくことが、結果として従業員の雇用を守ることにつながります。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

一般に、次のような情報が確認されます。

  • 電気工事業の登録・届出の状況、営業所ごとの主任電気工事士の氏名と年齢
  • 建設業許可の業種・区分・有効期限と、経営業務管理責任者・専任技術者
  • 第一種・第二種電気工事士、電気工事施工管理技士、電気主任技術者の在籍状況
  • 売上の内訳(新築/改修/保守、元請/下請、住宅/非住宅/再エネ)と取引先の集中度
  • 保守契約・年間点検契約の件数、契約期間、更新実績
  • 資材(電線・盤・機器)の調達先と、価格変動の契約上の取り扱い
  • 労働時間管理・社会保険の加入状況、外注先の体制

電気工事は、資格に支えられた事業であるがゆえに、資格者の顔ぶれがそのまま事業の輪郭になります。承継を考え始めた段階で、この一覧を作っておくだけでも、その後の話が格段に早くなります。

当社は成功報酬型のもと、電気工事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。

設備工事全体の動きは「設備工事業界の動向|技術者資格と施工体制の維持」でも整理しています。進め方の全体像はM&Aの流れをご覧ください。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.増えているのは事実です。国土交通省「建設業許可業者数調査」(令和8年3月末現在)では、電気工事業の許可業者は66,534業者で前年比1.6%増、平成12年3月末比では23.8%増です。ただし同時期に建築工事業は37.8%減、土木工事業は22.1%減となっています。また日本建設業連合会の集計(総務省「労働力調査」に基づく)では、2025年の建設業就業者数は478万人でピークの1997年の約7割、55歳以上が約37%、29歳以下が約12%です。業者数が増える一方で一社あたりの人員は薄くなっており、人を確保できていること自体が差になります。
A.統計は改修側を指しています。国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」(令和6年度計)では、非住宅建築物のリフォーム・リニューアル受注高が9兆6,984億円(前年度比7.7%増)、業種別では「電気,機械器具設置工事業」が1兆6,606億円で2番目の大きさでした。同調査の令和6年度第4四半期の工事部位別受注件数では、非住宅の「電気設備」が150,632件と最多です。一方、同省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)では2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で前年比6.5%減、3年連続の減少でした。改修と保守へ比重を移す方向が、数字の上では整合します。
A.退任のタイミングによっては、登録や許可の維持に影響が及びます。電気工事業は、事業を営むための登録、営業所ごとの主任電気工事士、現場で作業する電気工事士という三層の要件が重なり、さらに建設業許可の側で営業所ごとの専任技術者、現場の主任技術者・監理技術者の配置が求められます。複数の役割を兼ねている場合は、退任の前に後任を配置できるかを確認してください。登録・届出の要否や要件は、営む工事の範囲や事業形態によって異なりますので、所管の経済産業局・都道府県担当窓口および専門家にご確認ください。
A.資格と現場経験の両方を備えた後継者を社内から育てるには時間がかかります。育成が間に合わない場合に、社外への承継という選択肢を早めに検討しておくことが、結果として従業員の雇用を守ることにつながります。まず、電気工事業の登録・届出の状況と営業所ごとの主任電気工事士の氏名・年齢、建設業許可の業種・区分・有効期限、経営業務管理責任者と専任技術者、第一種・第二種電気工事士や電気工事施工管理技士、電気主任技術者の在籍状況を一覧にしてください。この一覧を作っておくだけで、その後の話は格段に早くなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら