設備工事業は、建物の中で「見えなくなる部分」を担う業種です。給排水・空調・電気・通信といった機能は、建物が使われ続けるかぎり更新の必要が生じます。そのため景気変動の影響を受けにくい一方で、有資格者を欠くと施工体制そのものが成り立たなくなるという、特有の脆さも抱えています。本稿では、公表統計から設備工事業の現在地を確認し、承継の焦点がどこにあるのかを整理します。
設備工事業の現在地|許可業者数から見える広がり
国土交通省「建設業許可業者数調査」(令和8年3月末現在)によれば、設備系の主な許可業種の業者数は次のとおりです。
| 許可業種 | 業者数 | 前年比 | 平成12年3月末比 |
|---|---|---|---|
| 管工事業 | 91,168 | 0.8%増 | 3.0%増 |
| 電気工事業 | 66,534 | 1.6%増 | 23.8%増 |
| 機械器具設置工事業 | 25,123 | 1.5%増 | 39.2%増 |
| 電気通信工事業 | 16,764 | 1.5%増 | 54.5%増 |
| 消防施設工事業 | 16,075 | 0.5%増 | 0.4%増 |
同じ期間に建築工事業が37.8%減、土木工事業が22.1%減となっているのと対照的に、設備系の業種はいずれも増加しています。建物の高機能化と、既存建物の更新需要が、設備分野の裾野を広げてきたことがうかがえます。
あわせて、同調査によれば1業種のみの許可を受けている業者は221,833業者(全体の45.9%)、複数業種の許可を受けている業者は261,990業者(54.1%)で、平成12年3月末には複数業種が43.5%だったことと比べると10.6ポイント上昇しています。単一工種の下請から、複数工種を一括で受けられる体制へと、業界全体が動いてきたということです。
需要の中心は新築から改修へ
需要の重心も動いています。国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」(令和6年度計)によれば、リフォーム・リニューアル工事の受注高は合計13兆8,303億円で前年度比4.2%増、うち住宅は4兆1,318億円(3.3%減)、非住宅建築物は9兆6,984億円(7.7%増)でした。非住宅の改修が伸びています。
同調査の非住宅建築物の業種別受注高(令和6年度計)では、「建築工事業」3兆9,361億円(16.4%増)に次いで、「電気,機械器具設置工事業」が1兆6,606億円(3.2%増)と2番目に多くなっています。また令和6年度第4四半期の工事部位別受注件数では、非住宅で「電気設備」が150,632件と最多でした。住宅では「給水給湯排水衛生器具設備」が435,915件で最多です。改修工事のかなりの部分が、設備の更新によって構成されていることが読み取れます。
一方、新築側は縮小しています。同省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば、2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で前年比6.5%減、3年連続の減少となりました。新築の元請に依存している会社ほど、受注構造の見直しが必要になっているということです。
制度の動き|改正建設業法と省エネ規制
2024年6月14日に公布された「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)は、設備工事業にも直接影響します。国土交通省の説明によれば、著しく低い労務費での見積依頼・見積提出の禁止、資材価格高騰時の変更方法の法定記載事項化、著しく短い工期による契約の禁止などが柱です。中央建設業審議会による「労務費に関する基準」は令和7年12月2日に勧告され、令和7年12月12日に施行されています(一般財団法人建設物価調査会の解説による)。
もう一つは省エネ関連です。「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第69号)により、2025年4月から原則としてすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられました。断熱・気密の性能に加え、空調・給湯・照明といった設備の仕様が設計段階から評価対象になるため、設備工事業者に求められる説明力と設計協力の比重が高まっています。
制度の適用範囲や経過措置は、建物の用途・規模・着工時期によって異なります。個別の判断にあたっては、所管行政庁および専門家にご確認ください。
経営環境の変化|人手不足と技術者の高齢化
設備工事業の制約は、最終的には人に行き着きます。総務省「労働力調査」に基づく日本建設業連合会の集計によれば、2025年の建設業就業者数は478万人で、ピークの1997年(685万人)の約7割です。建設技能者は296万人で、同じく1997年(464万人)の6割強にとどまります。年齢構成でも、2025年の建設業就業者のうち55歳以上が約37%、29歳以下が約12%となっています。
設備工事の場合、この人手不足が「有資格者の不足」という形で表れやすい点に特徴があります。営業所ごとに専任技術者を置く必要があり、現場には主任技術者・監理技術者を配置しなければなりません。人数の問題であると同時に、資格保有者の配置の問題でもあるということです。改正建設業法でICTの活用を条件に監理技術者等の専任規制が合理化されたのも、この制約を緩める狙いによるものと説明されています。
事業承継の観点で何が論点になるか
設備工事会社の承継では、次の点が焦点になりやすいと考えられます。
ひとつは、経営者様ご自身が専任技術者を兼ねている場合です。中小の設備工事会社では、経営業務管理責任者と専任技術者を経営者様が一人で担っていることが少なくありません。この場合、退任のタイミングによっては許可の維持に影響が及びます。誰が代わりに要件を満たすのか、その方が承継後も在籍する見込みがあるのかは、交渉の初期段階で確認される事項です。
もうひとつは、保守・点検といったストック性のある売上の有無です。設備工事は工事の単発受注だけでなく、施工した建物の保守を継続して受託しているケースが多くあります。この部分は、引き継いだ翌期も同じ売上が立つと見込めるため、一般に評価されやすい領域です。反対に、契約書がなく口頭の慣行で続いている保守は、承継時に見えにくくなります。
そして後継者の問題です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。資格と現場経験の両方を備えた後継者は、社内に見つけるのも社外から招くのも容易ではありません。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が確認されます。
- 建設業許可の業種・区分と有効期限、経営業務管理責任者・専任技術者の氏名と年齢
- 施工管理技士・電気工事士など有資格者の一覧(資格種別、人数、年齢構成)
- 電気工事業を営む場合の登録等の状況、主任電気工事士の選任状況
- 売上の内訳(新築/改修、元請/下請、工事/保守)と、保守契約の件数・期間・更新実績
- 継続的な取引先(ゼネコン、設備メーカー、ビル管理会社など)との取引年数と依存度
- 資材価格の変動を契約でどう扱っているか、直近の単価改定の実績
- 労働時間管理・社会保険の加入状況、外注先の体制
設備は「使われ続けるかぎり更新が要る」分野です。有資格者が在籍し、保守の関係が続いているうちであれば、事業には引き継ぐ価値があります。反対に、技術者が抜けて受注できる工事の範囲が狭まってからでは、選択肢は限られます。会社の状態を客観的に把握したい段階では、企業価値算定シミュレーターもご利用いただけます。
当社は成功報酬型のもと、設備工事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。技術者体制や許可要件の確認を含む初期の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。
建設業界全体の動きは「建設業界の動向|担い手不足と2024年問題のなかでの事業承継」でも整理しています。進め方の全体像はM&Aの流れをご覧ください。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。