デザインや制作を手がける会社は、ほとんどが小規模です。数人から数十人の体制で、企業のブランドや商品の見え方をつくっている。その業界がいまどんな状況にあるのかを、確認できる資料に基づいて整理します。

数字で見るデザイン・制作業界の現在地

公益財団法人日本デザイン振興会「デザイン白書2024」は、経済センサス‐活動調査に基づいてデザイン事業所数の推移をまとめています。それによると、デザイン事業所数は長く減少傾向が続いていましたが、2016年の8,557から2021年には9,821へと1,264増加し、増加に転じました。従業者数についても、2016年の41,425名から同様の推移をたどっているとされています。

この増加をどう読むかは慎重であるべきです。デジタル領域の需要が拡大したことで新規参入が増えた面と、大手からの独立や小規模化が進んだ面の両方が考えられます。事業所数が増えていることは、必ずしも1社あたりの収益が改善していることを意味しません。

なお、業界動向を追う際の統計環境も変わっています。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」は2024年12月調査をもって終了し、2025年1月分からは総務省の「サービス産業動態統計調査」に統合されました。デザイン業も同動態統計の調査対象業種でしたので、月次の動きを追う場合は参照先が変わっている点にご注意ください。

需要の構造が変わった|紙からデジタルへ

制作需要の構造変化は、広告市場の数字に端的に表れています。総務省「令和7年版 情報通信白書」によると、2024年のインターネット広告費は3兆6,517億円、マスコミ四媒体広告費は2兆3,363億円で、両者は2021年に逆転し、その後も差が広がっています。

制作の現場から見れば、これは「つくるもの」が変わったということです。ポスターやカタログといった一点ものの完成度を追う仕事から、配信面ごとにサイズや訴求を変えた大量のバリエーションを、短いサイクルで供給する仕事へ。動画の比重も高まりました。求められるスキルセットも、制作の進め方も、料金の考え方も、すべてが変わります。

この転換にうまく対応できた会社は、案件数と継続性の両方を得ています。一方で、紙媒体の制作を主力としてきた会社は、需要の縮小に直面してきました。印刷業との関係が深い制作会社ほど、この影響を強く受けています。

内製化の進行と、外注が残る領域

もうひとつの構造変化が、発注側の内製化です。制作ツールが安価に使えるようになり、テンプレートやデザインシステムが整備されたことで、企業が自社内で日常的な制作物をつくれる範囲が広がりました。SNSの投稿画像や社内資料、簡易なバナーなどは、その典型です。

その結果、外部の制作会社に発注される仕事は、次のような領域に集約されていく傾向があります。

  • ブランドの根幹に関わる設計(ロゴ、VI、ブランドガイドライン)
  • 製品・パッケージなど、実物の設計知識を要する領域
  • 大量・短納期のバリエーション制作を、体制として引き受けられる領域
  • 専門的な撮影・動画・3DCGなど、設備や技能を要する領域
  • 内製チームの立ち上げ支援や、運用の伴走

言い換えれば、「誰でもできる仕事」は社内に取り込まれ、「誰にでもはできない仕事」が外に残る、という整理です。自社がどちら側に位置しているかは、収益性の差として表れます。

経営環境の変化|単価と稼働の管理

制作会社の経営で難しいのは、売上と原価の関係が案件ごとに大きく振れることです。見積の前提を超えて修正が続けば、同じ受注額でも利益は消えます。そして、この業界では修正回数の上限や追加料金の条件が曖昧なまま進行することが少なくありません。

安定して利益を残している会社に共通するのは、次の点です。

  • 案件ごとの投入工数を記録し、実績原価が見えている
  • 見積の前提(修正回数、素材の支給範囲、納品形式)を書面で合意している
  • 月額の保守・運用契約など、継続収入の柱を持っている
  • 外注先の単価と品質を把握し、繁閑を調整できる

これらは、そのまま譲渡の準備にもなります。買い手が確認するのは、売上の大きさではなく、その売上が再現できるかどうかだからです。

事業承継の観点|著作権・人材・取引先

帝国データバンクの2025年調査によると、国内企業の後継者不在率は50.1%です。デザイン・制作会社は創業者自身がクリエイターであることが多く、その方の作風や人脈が事業そのものである、というケースも珍しくありません。この属人性をどう扱うかが、承継設計の中心になります。

整理しておきたい論点は次のとおりです。

  • 著作権の帰属——制作物の著作権が、契約上どちらに帰属しているか。譲渡しているのか、利用許諾にとどまるのか。外注先(フリーランス含む)との間で権利の処理が済んでいるか。ここが整理されていない会社は少なくありません。
  • 素材とライセンス——フォント、写真、イラスト、音源のライセンスが、業務利用の範囲で適正に管理されているか。承継後の利用継続に支障がないかも確認対象です。
  • 人材——アートディレクター、デザイナー、エンジニアの在籍状況と、譲渡後の残留意向。少人数の会社ほど、1人の離職が事業に与える影響が大きくなります。
  • 取引先の構成——上位数社への依存度、取引年数、継続案件の割合。広告会社や印刷会社を経由した受注が中心の場合、その関係が経営権の異動でどうなるかも論点です。
  • 受注残と進行案件——決算期をまたぐ制作の進捗と、前受金の管理。
  • 屋号・作品実績の扱い——社名や屋号が創業者の個人名に由来する場合、承継後の使用について整理が必要になることがあります。

権利関係の確認については「知的財産デューデリジェンス」で詳しく整理しています。Web制作を主力とされている場合は「Web制作会社のM&A」、広告会社との取引が中心の場合は「広告代理業のM&A」もご参照ください。

まとめ|技術と人が集まっているうちに

デザイン・制作の需要は、なくなったわけではありません。むしろ、企業が発信する情報量が増えたことで、つくるべきものは増えています。変わったのは、その仕事が誰に、どんな条件で発注されるかです。

クリエイターが在籍し、取引先との関係が続いているうちであれば、事業には引き継ぐ価値があります。人が抜け、案件が細ってからでは、価値の説明が難しくなります。創業者ご自身が第一線で手を動かし続けている状態が長く続いているのであれば、その先の設計を考え始める時期かもしれません。

当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、デザイン・制作業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。権利関係や人材体制の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.公益財団法人日本デザイン振興会「デザイン白書2024」によれば、デザイン事業所数は2016年の8,557から2021年には9,821へと1,264増加しました。ただしこの増加は、デジタル領域の需要拡大による新規参入と、大手からの独立や小規模化の両方が考えられ、1社あたりの収益が改善していることを意味するとは限りません。あわせて発注側の内製化が進み、SNSの投稿画像や簡易なバナーなど日常的な制作物は社内に取り込まれています。自社が取り込まれる側にいるのか、外に残る側にいるのかが、収益性の差として表れます。
A.外部の制作会社に発注される仕事は、ブランドの根幹に関わる設計(ロゴ、VI、ブランドガイドライン)、製品・パッケージなど実物の設計知識を要する領域、大量・短納期のバリエーション制作を体制として引き受けられる領域、専門的な撮影・動画・3DCGなど設備や技能を要する領域、そして内製チームの立ち上げ支援や運用の伴走に集約されていく傾向があります。自社の売上をこの区分で分解し、どこに寄っているかを把握することが、今後の方向を決める出発点になります。
A.まず、制作物の著作権が契約上どちらに帰属しているか、譲渡しているのか利用許諾にとどまるのか、そして外注先(フリーランスを含む)との間で権利の処理が済んでいるかを確認してください。ここが整理されていない会社は少なくありません。あわせて、フォント・写真・イラスト・音源のライセンスが業務利用の範囲で適正に管理されているか、承継後も利用を続けられるかも確認対象になります。過去案件にさかのぼる作業になりますので、個別の契約の解釈については弁護士にご確認ください。
A.属人性は魅力でもありますが、承継設計の中心的な論点になります。買い手が確認するのは売上の大きさではなく、その売上が再現できるかどうかだからです。案件ごとの投入工数を記録して実績原価が見えていること、見積の前提(修正回数、素材の支給範囲、納品形式)を書面で合意していること、月額の保守・運用契約など継続収入の柱を持っていること、外注先の単価と品質を把握して繁閑を調整できること。この四つが整っているほど、創業者が前線から退いても事業が続くと説明しやすくなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら