建設業は、統計のうえでは「事業者数は増えているのに、働き手は減り続けている」という、他の業種にはあまり見られない形をしています。制度の面でも、2024年から2025年にかけて、賃金・工期・価格転嫁に関わるルールが立て続けに変わりました。本稿では、公表されている統計と制度の動きだけを手がかりに、建設業界の現在地を整理し、そのうえで事業承継を考えるときに何が論点になるのかを見ていきます。

建設業界の現在地|業者数は増え、担い手は減っている

まず事業者数です。国土交通省「建設業許可業者数調査」によれば、令和7年度末(令和8年3月末)現在の建設業許可業者数は483,823業者で、前年度から123業者(0.03%)の増加、令和5年度末から3年連続の増加となっています。一般建設業の許可を取得している業者は457,617業者で、最も多かった平成12年3月末と比べると▲120,092業者(▲20.8%)ですから、長い目で見れば大きく減った水準にとどまりつつ、直近は下げ止まって微増に転じている、という姿です。

一方で、担い手の数はまったく違う動きをしています。総務省「労働力調査」に基づく日本建設業連合会の集計では、2025年の建設業就業者数は478万人で、ピークだった1997年の685万人に対して約7割の水準です。とくに現場を支える建設技能者は296万人で、1997年の464万人と比べると6割強にまで減っています。

年齢構成も偏っています。同じく総務省「労働力調査」に基づく集計では、2025年の建設業就業者のうち55歳以上が約37%、29歳以下が約12%となっており、全産業と比べて高齢化が進んでいます。つまり、いま現場を回している層が、今後10年前後で一斉に引退時期を迎える構造にあるということです。

許可業種の内訳を見ると、業界の重心の移動も読み取れます。同じ調査(令和8年3月末現在)では、前年同月比で取得業者数が増えた許可業種は23業種、減った業種は6業種でした。増加数が最も大きいのは解体工事業(+2,255業者、3.2%増)、次いで塗装工事業(+2,064業者)、内装仕上工事業(+2,063業者)です。逆に減少が大きいのは建築工事業(▲2,626業者、1.8%減)、土木工事業(▲1,056業者)、造園工事業(▲326業者)でした。新築の元請よりも、改修・解体・専門工事の側に業者数が寄っていることがうかがえます。

制度の動き|改正建設業法と「労務費に関する基準」

制度面では、2024年6月14日に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)が公布されました。国土交通省の説明によれば、改正の柱は次の三つです。

  • 処遇改善——建設業者に処遇確保の努力義務を課し、中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成・勧告できるようにしたうえで、著しく低い労務費での見積依頼・見積提出を禁止する
  • 資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止——資材価格が高騰した場合の「変更方法」を契約の法定記載事項とし、価格上昇のおそれがある情報の事前通知を義務づける
  • 働き方改革・生産性向上——著しく短い工期による契約の締結を禁止し、ICTの活用を条件に監理技術者等の専任規制を合理化する

施行は段階的で、令和6年9月1日、令和6年12月13日、そして公布から1年6か月以内の三段階に分けられました。このうち労務費に関する部分について、一般財団法人建設物価調査会の解説によれば、中央建設業審議会は令和7年12月2日に「労務費に関する基準」を勧告し、令和7年12月12日に施行されています。公共工事・民間工事の別を問わず、下請取引を含むすべての建設工事の請負契約が対象とされ、公共工事設計労務単価をベースとした算定式が示されました。

これは、価格の決まり方そのものを変えようとする制度変更です。従来は元請から下請へと「上から」価格が決まっていく構造でしたが、技能者に支払うべき賃金の原資を確保することを起点に積み上げる方向へ転換しようとしている、と説明されています。

働き方の制度変更|2024年4月からの時間外労働の上限規制

もう一つ大きいのが、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたことです。いわゆる「2024年問題」と呼ばれるもので、猶予期間が終了し、罰則付きの上限が適用対象となりました。

現場で起きたことは、単に残業が減ったということではありません。同じ工期で同じ工事量をこなすためには人が要る、しかし就業者数は減っている、という二つの制約が同時にかかります。結果として、受注量を絞る、工期の交渉を丁寧にする、外注比率を上げる、といった対応が必要になります。前述の改正建設業法が「著しく短い工期による契約の締結の禁止」を盛り込んだのは、この点を発注側にも求める趣旨です。

経営の視点で言えば、上限規制と労務費の基準は、いずれも「人件費が下がらない前提で事業を設計しなければならない」という方向を向いています。単価を改定できている会社と、できていない会社の差が、そのまま収益力の差として表れやすくなったということでもあります。

需要側の動き|インフラの老朽化と国土強靱化

需要の側には、比較的読みやすい構造的な要因があります。国土交通省のインフラメンテナンス情報によれば、全国に約73万橋ある道路橋のうち、建設後50年以上を経過するものの割合は2030年3月に約54%、2040年3月には約75%に達する見込みです。トンネル(約1万2千本)は約35%から約52%へ、河川管理施設(約2万8千施設)は約42%から約65%へ、港湾施設(約6万2千施設)は約44%から約68%へと、いずれも同じ方向に動きます。維持管理・更新の工事は、当面のあいだ量として存在し続けるということです。

予算面では、政府が令和7年6月6日に「第1次国土強靱化実施中期計画」を閣議決定しています。内閣官房の公表によれば、326の施策のうち114施策を「推進が特に必要」と位置づけ、2026年度から2030年度までの5年間で20兆円強程度の事業規模を見込むとされています。緊急輸送道路(約11,000km、約65,000橋)の耐震化を2038年度までに完了させる目標なども盛り込まれました。

ただし、量があることと、自社が受注できることは別です。人が確保できなければ受注はできませんし、労務費の基準が働けば安値受注もしにくくなります。需要の存在は、担い手を持っている会社にとっての追い風であって、担い手を失いつつある会社にとっては、むしろ「引き継げるうちに引き継ぐ」判断を促す材料になります。

事業承継の観点で何が論点になるか

建設業の事業承継では、次の三つが典型的な論点になります。

第一に、経営者ご自身が許可要件を支えているケースです。建設業許可は、経営業務の管理を担う体制と、営業所ごとの専任技術者の配置を前提に与えられます。経営者様が経営業務管理責任者であり、かつ専任技術者でもあるという中小建設会社は珍しくありません。この場合、経営者様が退かれると許可の維持そのものに影響しかねません。誰が要件を満たすのかを、早い段階で確認しておく必要があります。

第二に、経営事項審査(経審)と公共工事の受注資格です。公共工事を受注している会社では、経審の評点や入札参加資格が事業価値の中核をなしています。技術者の在籍状況や完成工事高は評点に直結するため、承継の前後で技術者が抜けると、受注できる工事の規模そのものが変わることがあります。

第三に、後継者の不在です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。建設業のように許可・資格・現場経験が一体になっている業種では、後継者が見つからないまま時間が経つほど、技術者の高齢化と重なって選択肢が狭まります。許認可の承継については「M&Aと許認可|株式譲渡と事業譲渡で異なる引き継ぎの考え方」でも整理しています。

M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと

実際にM&Aで会社を引き継ぐ場合、一般に次のような情報が確認されます。いずれも、早めに手元で整理しておくほど交渉がスムーズになります。

  • 建設業許可の業種・区分(一般/特定)・有効期限、経営業務管理責任者と専任技術者の氏名と年齢
  • 技術者・技能者の名簿(保有資格、年齢、勤続年数、主たる配置現場)
  • 経営事項審査の評点推移と、入札参加資格を持つ発注機関の一覧
  • 直近数期の完成工事高の内訳(元請/下請、官/民、工種別)と、継続的な取引先
  • 労働時間管理・割増賃金の実務、社会保険の加入状況
  • 契約書における支配株主の変更に関する条項(通知義務・解除事由)の有無
  • 資材価格の変動に関する契約上の取り扱い、直近の単価改定の実績

とくに労働時間と社会保険は、上限規制の適用後、買い手が慎重に見る領域になりました。未整理の部分があれば潜在的な負担として評価に反映されますので、事前に点検し、必要なら是正しておくことが、結果として条件を守ることにつながります。

なお、当社は成功報酬型のもと、建設業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。許可要件や経審の確認を含む初期の整理から、守秘義務を徹底のうえ対応いたします。料金の考え方は料金体系のページに公開しています。

本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。

よくあるご質問

A.すでに動いています。2024年6月14日に改正建設業法等(令和6年法律第49号)が公布され、中央建設業審議会が労務費の基準を作成・勧告できるようになりました。一般財団法人建設物価調査会の解説によれば、同審議会は令和7年12月2日に「労務費に関する基準」を勧告し、令和7年12月12日に施行されています。下請取引を含むすべての建設工事の請負契約が対象とされ、公共工事設計労務単価をベースとした算定式が示されました。著しく低い労務費での見積依頼・見積提出は禁止されます。単価を改定できている会社とできていない会社の差が、そのまま収益力の差として表れやすくなったということです。
A.誰がその要件を引き継ぐのかを特定するところからです。建設業許可は、経営業務の管理を担う体制と、営業所ごとの専任技術者の配置を前提に与えられます。ご本人が両方を担っている場合、退任がそのまま許可の維持に影響しかねません。まず、社内に要件を満たし得る人がいるか、いなければ譲渡後も一定期間ご本人が残る形を取るのかを整理してください。あわせて技術者・技能者の名簿(保有資格・年齢・勤続年数)と、建設業許可の業種・区分・有効期限を一覧にすると、買い手と同じ地図の上で話ができます。個別の要件は行政書士等の専門家にご確認ください。
A.仕事の量があることと、自社が受注できることは別の問題です。国土交通省のインフラメンテナンス情報によれば、全国に約73万橋ある道路橋のうち建設後50年以上を経過するものの割合は2030年3月に約54%、2040年3月には約75%に達する見込みです。政府も令和7年6月6日に「第1次国土強靱化実施中期計画」を閣議決定しています。一方、総務省「労働力調査」に基づく日本建設業連合会の集計では2025年の建設技能者は296万人で1997年の6割強、就業者のうち55歳以上が約37%です。需要の存在は担い手を持つ会社への追い風であり、担い手を失いつつある会社にとっては引き継ぎを急ぐ材料になります。
A.技術者の在籍状況や完成工事高は評点に直結するため、承継の前後で技術者が抜ければ、受注できる工事の規模そのものが変わることがあります。公共工事を受注している会社では、経営事項審査の評点と入札参加資格が事業価値の中核をなしているため、買い手も同じ懸念を持ちます。対策としては、評点の推移と入札参加資格を持つ発注機関の一覧を作り、評点を支えている技術者が誰かを明示することです。その人たちが残る前提を条件に織り込めば、双方が安心して話を進められます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら