駐車場は、都市に足りないものを補うために整備が進められてきた施設です。ところが供給が積み上がり、自動車の保有台数の伸びが鈍化した結果、いまは「足りない」ことよりも「どこに、どれだけ必要か」を考える段階に入っています。本稿では、公表資料から駐車場運営業界の現在地を整理します。
駐車場の現在地|1万台未満から540万台へ
国土交通省「まちづくりと連携した駐車場施策ガイドライン(第2版)」(令和5年4月)によれば、駐車場法が制定された当時(昭和32年)の駐車場供用台数は1万台に満たなかったものが、令和2年度末には約540万台となり、路上駐車台数も大幅に減少しました。約60年で、都市の駐車環境は大きく変わったということです。
同ガイドラインは、その一方で次のように指摘しています。近年、自動車保有台数の伸びは鈍化しつつあり、各市町村においても駐車場の需給状況は様々な状況を呈しているため、駐車場施策は転換期を迎えている、と。つまり、全国一律に「足りない」という前提はもはや成り立たないということです。
実際、地方都市の中心市街地では、商業施設の撤退や建物の除却によって暫定的な駐車場が増え、供給過剰になっている地域があります。一方で、都市部の一部や観光地では依然として需給が逼迫します。同じ業種でありながら、立地によって置かれた状況がまったく異なるのが、この業界の特徴です。
制度の枠組み|駐車場法と三つの類型
駐車場法(昭和32年5月制定)は、都市における自動車の駐車のための施設の整備に関して必要な事項を定め、道路交通の円滑化を図ることを目的としています。国土交通省の資料によれば、駐車場は法律上、大きく三つの類型に整理されます。
- 都市計画駐車場——都市計画に位置づけられた駐車場
- 届出駐車場——路外駐車場のうち、駐車場法に基づく届出の対象となるもの
- 附置義務駐車場——一定規模・用途の建築物に対し、条例により設置が義務づけられる駐車場
このうち、駐車場法の「構造及び設備の基準」が適用されるのは、一般公共の用に供する部分の面積が500平方メートル以上の路外駐車場とされています。附置義務については、駐車場整備地区内・商業地域内・近隣商業地域内で条例が定める地区において、延べ面積2,000平方メートル以上など、条例で定める規模の建築物が対象になります。
つまり、小規模な時間貸し駐車場や月極駐車場の多くは、駐車場法の構造基準の適用を受けない範囲で運営されているということです。この参入のしやすさが、事業者数の多さと競争の激しさにつながっています。
附置義務の内容や届出の要否は、地方公共団体の条例によって異なります。個別の判断にあたっては、所管の地方公共団体および専門家にご確認ください。
政策の転換|「整備」から「配置の適正化」へ
政策の方向も変わってきています。国土交通省の同ガイドラインおよび「駐車場政策の最近の動向」(令和5年12月)によれば、まちづくりと連携した駐車場施策として、まちなかの路外駐車場の適正配置、都市の周縁部への集約化、附置義務駐車施設の集約化といった考え方が示されています。歩行者中心の街路空間を構築し、街並みの連続性を確保することが狙いです。
実例としては、中心商店街の歩行者天国区間の外縁部に集約駐車施設を整備して附置義務を受け入れる取組(町田市)、地域ルールによる駐車場出入口の設置規制(新宿区)、景観形成地域による出入口設置規制(神戸市旧居留地)などが紹介されています。また、都心環状区域の附置義務駐車台数を緩和し、隔地駐車場を誘導する取組(宇都宮市)も挙げられています。
事業者にとって、これは「どこに駐車場をつくるか」の前提が変わることを意味します。従来は建物に近いほど価値が高かったものが、地区によっては出入口の設置そのものが制限され、集約された場所への誘導が図られる。立地の評価軸が変わりつつあるということです。
供給を生む要因|遊休地と土地活用のニーズ
駐車場の供給を生む最大の要因は、使い道の定まらない土地の存在です。総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)によれば、2023年10月1日現在の空き家は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高となりました。賃貸用・売却用および二次的住宅を除く空き家は385万6千戸です。
建物を除却した後の土地は、更地のまま保有すると固定資産税の負担が重くなるため、暫定利用として駐車場に転換されることがあります。国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年計)によれば2025年の新設住宅着工戸数は740,667戸で前年比6.5%減、3年連続の減少ですから、新築による土地需要は弱含みです。この状況が続くかぎり、駐車場への転用は一定量発生し続けると考えられます。
一方、需要の側では、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6(2024)年推計」により、世帯総数が2030年の5,773万世帯をピークに減少に転じ、2050年には5,261万世帯になると推計されています。単独世帯の割合が2020年の38.0%から2050年の44.3%へ上昇するとされる点も、自家用車の保有動向に影響しうる要素です。
運営の面では、無人化が進みました。精算機、ゲート、フラップ板、ナンバー認識、スマートフォン決済といった仕組みにより、常駐人員を置かずに運営できる形態が一般化しています。これは人件費を抑える一方で、機器の更新投資という別の負担を生みます。
事業承継の観点で何が論点になるか
駐車場運営会社の承継では、次の点が焦点になります。
第一に、土地の権利形態です。自社所有の土地で運営しているのか、地主から借りて運営しているのか、あるいは一括借上げ(サブリース)で運営しているのかによって、事業の性質がまったく変わります。自社所有であれば不動産の評価が中心になり、賃借であれば契約の残存期間と更新条件が価値を左右します。この点は「駐車場運営業のM&A|土地の権利形態と収益の見方」で詳しく整理しています。
第二に、契約の安定性です。地主との賃貸借契約に中途解約条項があるか、更新の見込みはあるか、地代の改定履歴はどうか。土地を借りて運営している場合、これらが事業継続の前提になります。
第三に、設備の更新時期です。精算機やゲートには耐用年数があり、まとめて更新時期が来ると資金負担が集中します。設置年と更新計画の把握が欠かせません。
そして後継者です。帝国データバンクの2025年調査では国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。駐車場運営は、地主との関係が経営者様個人の信頼に支えられていることが多く、その関係を引き継げるかどうかが実務上の課題になります。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
一般に、次のような情報が確認されます。
- 運営拠点の一覧(所在地、台数、権利形態、契約期間、地代、更新条件)
- 拠点ごとの売上・稼働率の推移(時間貸し/月極の別、季節変動)
- 料金設定の履歴と、周辺の競合状況
- 設備の設置年、更新計画、保守契約の内容
- 自社所有地の登記事項、担保設定、境界の確定状況
- 地主との賃貸借契約における支配株主の変更に関する条項の有無
- 管理業務(巡回、清掃、トラブル対応)の体制と外注先
- 提携先(コインパーキングの運営システム、決済事業者)との契約条件
駐車場事業は、拠点ごとの採算が明確に分かれる事業です。拠点別の損益を示せることが、そのまま交渉の材料になります。
当社は成功報酬型のもと、駐車場運営業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。守秘義務を徹底のうえ、初期の整理から対応いたします。
土地の活用という観点では「不動産業界の動向|取引の変化と宅建業の担い手」もあわせてご覧ください。費用の考え方は料金体系のページに公開しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。