通信工事業は、光回線の引き込みから、構内配線、無線基地局、Wi-Fi、防犯カメラ、ネットワーク機器の設置・保守まで、幅の広い仕事を含みます。生活と事業の基盤を支える仕事でありながら、受注は重層的で、有資格者の確保が常に課題という共通の悩みを抱える業種でもあります。

M&Aの現場では、通信工事会社は買い手のニーズが厚い領域のひとつです。施工体制を確保したい元請、エリアを広げたい同業、システム系の会社が施工力を取り込むケースなど、動機は多様です。本稿では、通信工事業のM&Aで何が見られ、どう準備すればよいのかを整理します。

通信工事業に買い手が向く理由

帝国データバンクの2025年調査では後継者不在率は50.1%、レコフデータの集計では2025年のM&A件数が5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました。通信工事業に関心が集まる理由は次のとおりです。

資格者と施工体制は短期間で揃わない

工事担任者や電気通信主任技術者、施工管理技士といった資格は、取得までに時間がかかります。資格者と現場経験を併せ持つ人材を、体制ごと確保できることが買収の動機になります。

元請の階層に食い込んでいる価値

通信の工事は、発注元から一次・二次と階層的に流れることが多く、その階層のどこに位置しているかで受注の安定性が変わります。すでに口座を持ち、継続的に仕事が流れてくる状態は、新規参入では再現しにくいものです。

施工と保守を組み合わせたい

ネットワークの構築を手がける会社が、現場の施工力を取り込んで一気通貫の体制をつくる。逆に、施工会社が保守の受託を広げてストック収益を得る。こうした前後工程の統合が買収の背景になります。関連する論点は「システム保守・受託運用会社のM&A|継続契約とエンジニアの承継」もご参照ください。

許可と有資格者|承継の前提を整理する

工事の規模に応じて、建設業法上の許可(業種としては「電気通信工事業」)が必要になります。株式譲渡では法人格が変わらないため許可は原則として維持されますが、事業譲渡等では手続きが必要になることがあります。

建設業許可の要件や承継手続きの要否、電気通信事業に関する届出の要否は、事業の内容によって異なります。必ず所管の行政庁および行政書士・弁護士等の専門家にご確認ください。

資格の保有状況を一覧にする

  • 工事担任者——端末設備等の接続に関する資格。種別ごとの保有者数
  • 電気通信主任技術者——伝送交換・線路の別と保有者数
  • 電気通信工事施工管理技士——1級・2級の別と人数。監理技術者資格者証の有無
  • 関連資格——電気工事士、高所作業車、玉掛け、フルハーネス型墜落制止用器具の特別教育など
  • メーカー認定——ネットワーク機器や設備の認定技術者資格の保有状況

資格者が特定の社員に偏っている場合、その人の退職が事業継続を左右するという論点になります。年齢構成と、資格取得支援の仕組みがあるかどうかも整理しておきましょう。

設備投資|車両と測定器は事業の実体

通信工事業は、装備によって受けられる仕事の範囲が変わります。買い手は「何を持っていて、それであと何年戦えるか」を見ます。

整理する項目記載しておきたい内容
車両高所作業車、工事車両の台数・年式・更新の見込み、リースか自社所有か
測定器光ファイバの測定・接続に用いる機器、ネットワーク試験機などの保有状況と校正の運用
工具・仮設けん引・敷設に用いる機材、発電機、安全器具の保有量
保管拠点倉庫・資材置場の所有形態、賃借の場合は契約期間
在庫ケーブル・コネクタ・機器の在庫水準と滞留の有無

企業価値の算定では時価純資産に着目する考え方が用いられることが多く、償却の進んだ機材でも現役で稼いでいれば見直しの対象になり得ます。詳しくは「減価償却と設備投資|評価にどう影響するか」をご覧ください。測定器の校正記録が残っていることは、品質管理の水準を示す材料にもなります。

受注構造|階層と案件の性格を分解する

通信工事の受注は、発注元から複数の階層を経て流れてくることが一般的です。自社がどの位置で、誰から、どのような案件を受けているかを分解して示すことが、事業の実像を伝える近道です。

案件の性格ごとに分ける

  • 新設・引き込み工事——1件あたりは小口だが件数が多く、単価と生産性が採算を決める
  • 幹線・基地局などの設備工事——工期が長く、資格者と装備が必要。発注のロットが大きい
  • 構内・LAN・カメラ等の工事——エンドユーザーに近く、提案力が効く
  • 保守・障害対応——継続契約によるストック収益。夜間・休日の体制が必要

保守の比率が高い会社は、収益の安定性という点で評価されやすい傾向があります。契約件数、契約期間、更新率、解約の理由を整理しておきましょう。

依存度と単価の履歴

売上が特定の元請に集中している場合、その方針変更が事業を左右するため、集中度は必ず確認されます。考え方は「特定取引先への依存|評価が下がる理由と対策」をご参照ください。あわせて、労務費の上昇を単価にどこまで反映できたかの履歴も、交渉力を示す材料になります。

譲渡前に整えたいこと

準備の要点は、資格・装備・案件の三つを、数字で説明できる状態にすることです。

  • 有資格者一覧(種別・人数・年齢)と、資格取得支援の仕組みの整理
  • 車両・測定器の台帳(年式、更新予定、リース残)
  • 案件別の原価管理(工事ごとの粗利が追える状態にする)
  • 保守契約の一覧(契約先、期間、金額、更新率)
  • 進行中工事の一覧化(契約金額、出来高、入金予定、原価の見込み)
  • 役員報酬や社長個人に紐づく費用の把握(実質利益の整理)
  • 借入・個人保証・リース契約の一覧化

近接する業種として、電気工事業の許可や技術者の論点は「電気工事業のM&A|建設業許可と技術者の承継ポイント」でも扱っています。全体の進み方は「M&Aの流れを7ステップで解説|相談から成約までの期間」をご覧ください。

株式譲渡による売却益への課税(株式譲渡益課税は20.315%)や、事業譲渡を選んだ場合の税務上の取扱いは、個々の状況によって結論が変わります。具体的な税務判断は必ず顧問税理士など専門家にご確認ください。

まとめ|資格と装備と口座を、まとめて渡す

通信工事業のM&Aで引き継がれるのは、車両や測定器そのものではなく、資格者・装備・取引口座がそろって初めて成立する施工体制です。この三点を整理し、案件別の採算を示せる状態にしておけば、事業の実力は正しく伝わります。

準備は数か月から年単位を要することがあります。譲渡を決めていない段階でも、原価管理と保守契約の整理は経営そのものを強くします。

当社は、相談料・着手金・月額報酬をいただかない成功報酬型で、初回のご相談から成約まで一貫して伴走します。成功報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)により算定し、最低金額は2,000万円(税別)です。基本合意時に成功報酬額の10%を中間金としてお預かりし、成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に成立に至らなかった場合も中間金の返金は行いません)。詳細は「料金体系」をご覧ください。

秘密保持を徹底したうえで、御社の体制が外からどう見えるのかを、まずはお伝えします。

よくあるご質問

A.買い手にとっても最大の関心事のひとつであり、隠さずに共有すべき論点です。実務では、譲渡後も一定期間は前経営者や中核人材に関与いただく引き継ぎ期間を設ける、処遇改善を前提に継続勤務の意向を確認する、資格取得支援の仕組みを整えるといった手当てを設計します。有資格者が在籍していること自体が買収の動機になる場合も多く、実態を示したうえで対応策を提示するほうが交渉は安定します。
A.階層のどこに位置しているかは確認されますが、それだけで不利と決まるわけではありません。買い手が見るのは、その口座から継続して仕事が流れてきているか、単価がどのように決まっているか、労務費の上昇を反映できているかという点です。安定して仕事が回ってくる関係が続いているのであれば、それ自体が価値です。あわせて直接受注の開拓状況も示せると、将来の見通しが伝わります。
A.影響することが多い要素です。継続契約による収益は、工事の受注量に左右されにくく、事業の見通しを立てやすくするためです。契約先の件数、契約期間、年間金額、更新率、解約が出た場合の理由を一覧にしておくと、買い手はストック収益の質を評価できます。夜間・休日の対応体制や、対応品質を示す記録が残っていれば、それも説明材料になります。

Free Consultation

つないできた回線を、次の担い手へ。

相談料・着手金は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。売却を決めていない段階のご相談も歓迎します。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら