創業から年月が経った会社では、株式が創業者一族や役員、元従業員などに分散していることが少なくありません。全株式を譲渡する場合、対価は各株主が持株数に応じて受け取ります。では、仲介手数料は誰が払うのか。オーナーが全額を負担するのか、株主全員で分けるのか。本稿では、複数株主の会社における費用負担の考え方と、実務でつまずきやすい点を整理します。株式集約そのものは「株式が分散している会社の売却」をご覧ください。
契約当事者を誰にするかで、負担者が決まる
手数料を誰が払うかは、仲介契約を誰と結ぶかで決まります。契約の当事者が支払義務を負うためです。
選択肢は主に三つあります。第一に筆頭株主(オーナー)個人を当事者とする形。第二に譲渡する株主全員を当事者とする形。第三に対象会社(法人)を当事者とする形です。
| 当事者 | 支払義務を負う人 | 留意点 |
|---|---|---|
| オーナー個人 | オーナー | 他の株主も対価を得るのに、負担はオーナーのみとなる |
| 株主全員 | 各株主 | 全員の署名が必要。連帯か分割かを定める必要がある |
| 対象会社 | 会社 | 対価を得るのは株主であるため、税務上の論点が生じ得る |
実務では、オーナー個人を当事者とする形が最も多く見られます。手続がシンプルで、少数株主に費用の話をする必要がないためです。ただしオーナーの負担が重くなりますので、対価の配分をどう考えるかとあわせて整理する必要があります。
按分するなら、どう分けるか
株主全員で負担を分ける場合、按分の基準を決めなければなりません。実務で用いられる考え方を挙げます。
- 持株比率で按分——最も分かりやすく、争いが起きにくい
- 受取対価の比率で按分——種類株式などがなければ持株比率とほぼ同じ結果になる
- オーナーが全額負担——少数株主に負担を求めない
- 一定額まではオーナー、超過分を按分——少数株主の負担を限定する
持株比率での按分が基本形です。ただし、少数株主が親族や高齢の元役員である場合、「なぜ自分が数百万円を払うのか」という納得を得るのに時間がかかることがあります。譲渡そのものへの同意と、費用負担への同意は、別の話として扱う必要があります。
実務上お勧めしているのは、手取り額で説明することです。「対価としていくら受け取り、そこから手数料としていくら、税金としていくらを差し引くと、手元にいくら残る」という形で示せば、負担の理屈は理解されやすくなります。金額の話を持株数の話にすると、感情的な対立になりがちです。
また、少数株主の持分が小さい場合、按分額も小さくなります。事務の手間を考えると、オーナーが全額を負担して対価の配分で調整するほうが早いこともあります。
会社が立て替えることの問題
「とりあえず会社が払っておく」という処理を検討される方がいらっしゃいます。手続としては簡単ですが、税務上の問題が生じ得ます。
株式譲渡において対価を受け取るのは株主であり、会社ではありません。株主が負担すべき費用を会社が負担すれば、それは実質的に株主への経済的利益の供与と見られる余地があります。役員給与として扱われる、あるいは損金として認められない、といった取扱いになる可能性があります。
また、譲渡後は会社の所有者が買い手に変わります。買い手が引き継ぐ会社の帳簿に、売り手側の費用が計上されているという状態は、デューデリジェンスで必ず論点になります。価格調整の対象とされることもあります。
したがって、誰が負担すべき費用かを整理し、その主体が支払うという原則を守ってください。会計・税務上の取扱いは事情によって判断が分かれますので、必ず顧問税理士にご確認ください。関連する論点は「M&A関連費用の税務上の扱い」でも扱っています。
手数料の金額そのものは、株主数で変わらない
誤解されやすい点を補足します。株主が何人いても、仲介手数料の総額は変わりません。手数料は取引の規模に基づいて算定されるためです。
当社の場合、基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額で、株式価値は譲渡される株式全体の対価です。株主が1人でも10人でも、全株式が同じ金額で譲渡されるなら基準額は同じです。最低手数料は2,000万円(税別)、中間金は成功報酬額の10%で、成約時の成功報酬から全額を差し引きます(基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません)。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
ただし、株主が多いことで実務の負担は増えます。全員から譲渡の同意を得る、株主名簿を整える、名義株の有無を確認する、所在不明の株主を探す——これらの作業には時間がかかります。手数料の金額には反映されなくても、成約までの期間に影響するという形で表れます。
名義株や株主名簿の整備については「名義株とは」「株主名簿が整っていない会社」で扱っています。譲渡を検討し始めた段階で着手しておくべき作業です。
少数株主の側から見た費用
視点を変えて、少数株主の立場も整理しておきます。譲渡に同意を求められた側から見ると、次のような費用と負担があります。
- 仲介手数料の按分負担——按分の取り決めがある場合
- 株式譲渡益への課税——20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)
- 確定申告の手間と費用——譲渡した翌年の申告が必要になります
- 翌年の住民税・社会保険料——所得が増えた年の翌年に負担が変わることがあります
- 取得費が不明な場合の不利——取得価額が分からないと、概算取得費(収入金額の5%)で計算せざるを得ず、税負担が重くなる場合があります
最後の項目は、古くから株式を保有している少数株主で実際に問題になります。取得時の資料が残っていないケースは珍しくありません。譲渡の話を進める前に、各株主に取得の経緯と資料の有無を確認しておくと、後の混乱を避けられます。
また、少数株主が複数いる場合、それぞれの税務上の立場が異なります。法人株主が含まれていれば取扱いが変わりますし、相続で取得した株式であれば取得費加算の特例が関係することもあります。詳しくは「株主が複数いる場合の税金」をご覧ください。個別の税額は税理士にご確認ください。
早い段階で決めておくべきこと
費用負担で揉めるのは、たいてい決めるのが遅かったことが原因です。譲渡の話が具体化してから費用の話を持ち出すと、交渉の材料にされてしまいます。整理しておくべき順序を挙げます。
- 株主構成の確定——株主名簿と実態が一致しているか。名義株はないか
- 譲渡への同意見込み——全員が譲渡に応じる見込みがあるか
- 仲介契約の当事者——誰と契約を結ぶか
- 費用負担の取り決め——按分するか、オーナーが負担するか
- 手取りの試算——各株主の手取り見込みを、数字で示せるようにしておく
とくに手取りの試算は、同意を得るうえで有効です。抽象的な説明では、株主は判断できません。「あなたの持分では、対価がいくら、手数料と税金を引いて手元にいくら残る」という形で示すことが、納得の出発点になります。
当社では、株式が分散している会社のご相談も承っています。ご相談の初期段階で手数料の見込みと、株主構成を踏まえた進め方をお伝えします。ご相談の段階で費用が発生することはありません。
よくあるご質問
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株主構成を踏まえた進め方と、手数料の見込みをお伝えします。ご相談の段階で費用は発生しません。
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