譲渡に際して借入をどう扱うかは、条件交渉の中でも早い段階で出てくる論点です。会社にそのまま残るのか、買い手が借り換えるのか、一括返済を求められるのか。どの形になるかで、出ていく費用と手続きの量が変わります。繰上返済の手数料、固定金利の清算金、保証料の扱い、抵当権の抹消。本稿では、契約書のどこを見れば分かるのかを含めて整理します。
譲渡のとき、借入はどうなるのか
株式譲渡であれば、借入は会社の債務としてそのまま残るのが原則です。株主が替わっても、借りている主体は会社だからです。ただし現実には、次の三つのいずれかになります。
| 形 | 内容 | 生じやすい費用 |
|---|---|---|
| そのまま継続 | 会社の債務として残り、返済も続く | 費用は生じにくい。保証人の差し替えの交渉は要る |
| 買い手が借り換える | 新しい取引金融機関で調達し直す | 既存分の繰上返済に伴う費用、新規借入の事務手数料 |
| 一括返済 | 譲渡を機に返済を求められる、または売り手側で清算する | 繰上返済手数料、清算金、抵当権抹消の登記費用 |
どれになるかは、金融機関の判断と買い手の方針で決まります。ここで見落とされやすいのが、金銭消費貸借契約に支配権の移動を理由とする条項が入っていないかという点です。入っていれば、譲渡を機に期限の利益を失い、一括返済を求められる可能性があります。契約書の条項を先に確認してください。
借入金が多い会社の評価そのものについては「借入金が多い会社の評価」で扱っています。
一括返済・借り換えで生じるもの
実際に出ていく可能性があるものを挙げます。すべてが必ず生じるわけではなく、契約条件によります。
| 項目 | 内容 | どこで確認するか |
|---|---|---|
| 繰上返済手数料 | 期限前に返済する場合の所定の手数料 | 金銭消費貸借契約書・金融機関の規定 |
| 期限前弁済の清算金 | 固定金利の借入で、残存期間に応じた精算が求められることがある | 契約書の特約条項 |
| 金利スワップの解約清算金 | デリバティブ契約がある場合、市場実勢によって精算額が決まる | スワップ契約書・金融機関 |
| 信用保証料 | 保証協会の保証付き融資を期限前に返済した場合、未経過分が返戻される取扱いがある | 保証委託契約書・保証協会 |
| 抵当権の抹消 | 担保を外す場合の登記。登録免許税と司法書士報酬 | 司法書士 |
| 新規借入の費用 | 買い手側で生じる事務手数料、保証料、担保設定の登記費用 | 買い手の取引金融機関 |
このうち注意が要るのは固定金利の清算金と金利スワップです。金額が大きくなることがあり、市場環境によっても変わります。該当する契約があるなら、早い段階で金融機関に概算を確認してください。
反対に、信用保証料は返ってくる可能性がある項目です。取扱いは保証の内容によりますので、保証協会または金融機関にご確認ください。登記に関する実費は「登記・印紙・証明書の実費」で整理しています。
経営者保証の解除は、費用ではなく交渉
多くの経営者にとって、譲渡で最も気になる点のひとつが個人保証をどう外すかです。ここは費用の問題ではなく、交渉と時間の問題です。
金融庁の公表によれば、経営者保証に依存しない新規融資の割合は2024年度上期で52%とされています。環境は変わってきていますが、既存の保証をどう扱うかは案件ごとの協議になります。実務上の流れは次のようになります。
- 借入がそのまま会社に残る場合——買い手側の代表者が保証を引き受けるか、保証なしに切り替えるかを金融機関と協議する
- 買い手が借り換える場合——既存の借入が消えるため、これに伴う保証も外れる
- いずれの場合も——保証が外れたことを書面で確認する。口頭の合意で終わらせない
大切なのは、クロージングの条件に保証の解除を入れておくことです。決済が済んだ後に交渉しても、こちらの立場は弱くなります。詳しくは「経営者保証は外せるか」をご覧ください。
役員借入金・役員貸付金の整理
金融機関からの借入とは別に、社長と会社の間の貸し借りが残っていることがあります。これも譲渡の前に方針を決めておく項目です。
| 状態 | 意味 | 譲渡時の扱い |
|---|---|---|
| 役員借入金 | 社長が会社に貸している | 返済を受けるか、債権を放棄するか、対価に織り込むかを決める |
| 役員貸付金 | 会社が社長に貸している | 買い手は嫌う。原則として譲渡前に解消しておく |
役員貸付金は、買い手から見れば回収の見込みが立たない資産ですので、評価から除かれるのが通常です。残したまま進めると、価格の議論で必ず論点になります。役員借入金も、そのまま残すのか返済するのかで手取りが変わります。
いずれも税務上の影響がありますので、解消の方法は顧問税理士にご確認ください。放棄・返済・相殺のどれを選ぶかで扱いが変わります。整理の進め方は「役員借入金の整理」で扱っています。
なお、当社の手数料の基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額です。役員借入金が負債の部に計上されていれば基準額に影響し得ますが、手数料を減らす目的で財務を動かすことはお勧めしません。買い手は直前の資金の動きを必ず確認しますので、説明の付かない整理は交渉で不利に働きます。
金融機関に、いつ、どう話すか
最後に順序の話です。取引金融機関への連絡は、早すぎても遅すぎても問題が起きます。判断のもとになる考え方を挙げます。
- 情報の広がりに注意する——譲渡の検討は秘密性の高い情報です。担当者に伝えた情報がどこまで共有されるかを見込んでおきます
- 確認だけなら先にできる——繰上返済の条件や保証料の扱いは、一般的な照会として確認できる範囲があります
- 相手が固まってから具体化する——買い手が決まり、条件の大枠が見えた段階で、返済・借り換え・保証の方針を具体的に相談します
- 書面で残す——保証の解除も担保の抹消も、口頭ではなく書面で確認します
また、金融機関の担当者は異動があります。長く付き合ってきた担当者との関係だけに頼らず、合意した内容は必ず記録に残してください。
当社は成功報酬型で、相談料・着手金・月額報酬はいただきません。借入の扱いは価格の交渉とも密接に関わりますので、ご相談の早い段階で、契約書の条項と保証の状態を一緒に確認します。中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。資金の動く時期も含めて、ご契約前に書面でご説明しています。
よくあるご質問
Free Consultation
借入と保証を、どう整理してから譲るか。
契約書の条項と保証の状態を拝見し、費用と手続きの見込みをご説明します。ご相談の段階で費用は発生しません。
フォームは24時間受け付けており、2営業日以内にご返信します。メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。