仲介手数料や専門家費用に比べれば小さな金額ですが、M&Aのクロージング前後には細かい実費が発生します。登記、印紙、各種証明書——一つひとつは数千円から数万円でも、積み上がれば相応の金額になりますし、何より誰が負担するかが決まっていないと直前に揉めます。本稿では、費目ごとに内容と負担者の考え方を整理します。税務・登記の具体的な取扱いは、税理士・司法書士等の専門家にご確認ください。
株式譲渡では、実は登記が少ない
意外に思われるかもしれませんが、株式譲渡そのものには登記手続がありません。株式の移転は株主名簿の書換えによって行われ、法務局への登記は不要です。
登記が必要になるのは、株式譲渡に伴って会社の登記事項が変わる場合です。典型的には役員変更です。オーナー社長が退任し、買い手側から新たな役員が就任すれば、役員変更登記が必要になります。
このほか、本店の移転、商号の変更、目的の変更などを行う場合には、それぞれ登記が必要です。ただしこれらはクロージング後に買い手が判断して行うことが多く、売り手の費用にはなりにくい項目です。
したがって株式譲渡では、実費の中心は各種証明書の取得費と、司法書士への報酬になります。手続の流れは「株式譲渡の手続きと必要書類」で整理しています。
費目ごとに見る
実際に発生し得る費目を並べます。金額は手続の内容や依頼先によって異なりますので、目安ではなく実際の見積もりで確認してください。
| 費目 | 内容 | 一般的な負担者 |
|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 会社の登記内容の証明。複数通必要になることが多い | 取得する側 |
| 印鑑証明書 | 会社・個人の印鑑証明。契約や登記で使用 | 取得する側 |
| 住民票・戸籍 | 役員変更登記などで必要になる場合がある | 取得する側 |
| 役員変更登記の登録免許税 | 会社の規模により金額が異なる | 買い手(クロージング後) |
| 司法書士報酬 | 登記手続の代理 | 依頼した側 |
| 不動産の移転登記 | 事業譲渡等で不動産が移る場合 | 交渉により決定 |
| 振込手数料 | 譲渡代金、手数料の振込 | 契約の定めによる |
このうち金額が大きくなり得るのは、不動産が移転する場合の登録免許税と不動産取得税です。株式譲渡では会社が不動産を持ったまま存続するため発生しませんが、事業譲渡や会社分割で不動産が移れば、相応の金額になります。
手法によって費用構造が変わる点は「事業譲渡の場合の手数料」でも整理しています。不動産を持つ会社の扱いは「不動産を持つ会社の売却」をご覧ください。
印紙税|契約書によって扱いが違う
契約書には印紙税がかかるものとかからないものがあります。誤解が多い領域ですので、整理しておきます。
株式譲渡契約書は、原則として印紙税の課税文書には当たらないとされています。株式は有価証券であり、印紙税法上の課税物件に該当しないためです。一方、事業譲渡契約書は、譲渡される資産の内容によって課税文書となる場合があります。不動産や営業の譲渡に関する契約書は課税対象とされているためです。
また、金銭の受取書(領収書)も課税文書となる場合があります。ただし電子的に授受する場合の扱いなど、実務は細かく分かれます。
課税文書に該当するかどうかの判断は、契約書の記載内容によって決まります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。詳しくは「M&A契約書と印紙税」で整理しています。
負担者を決めておく
金額が小さいからこそ、誰が負担するかを決めずに進みがちです。そしてクロージング直前に「これはどちらが」という話になります。
基本の考え方はシンプルです。その手続を行う必要がある側、またはその手続によって利益を受ける側が負担する——これで多くは整理できます。
- 売り手が取得する証明書——売り手が負担
- 買い手が行う役員変更登記——買い手が負担
- 契約書の印紙——契約書に定めがなければ、作成者が共同で負担するのが原則的な考え方
- 司法書士報酬——依頼した側が負担
- 振込手数料——契約に定める
実務上は、最終契約書に費用負担の条項を置くのが確実です。「本契約の締結および履行に関して各当事者に生じた費用は、各自の負担とする」といった定めが一般的ですが、個別に定めることもあります。
この点は契約書のレビューを依頼する弁護士に確認してもらってください。契約書の構成は「株式譲渡契約書の構成」で整理しています。
クロージング後にも手続が続く
実費は、クロージングで終わりません。譲渡後にも手続が続きます。
- 役員変更登記——就任・退任の登記。期限があります
- 許認可の変更届——業種によっては届出が必要です
- 金融機関への届出——代表者の変更、印鑑の変更
- 社会保険・労働保険——代表者変更の届出
- 取引先への通知——代表者変更の案内
これらの多くは買い手側が行うものですが、売り手が協力を求められる場面もあります。とくに許認可の変更届は、業種によっては期限が定められており、遅れると事業に影響します。
クロージング後の手続の全体像は「クロージング後にやる手続き一覧」で整理しています。誰が、いつまでに、何を行うのかを、クロージング前に一覧にしておくことをお勧めします。
小さい費用こそ、先に洗い出す
実費は金額として大きくありませんが、洗い出しておく価値は十分にあります。理由は二つです。
第一に、クロージング直前の混乱を避けられるから。決済日は多くの当事者が同時に動く日で、「印鑑証明書が足りない」「この費用はどちらが」といった事態は避けたいところです。必要な書類と費用を一覧にしておけば、こうした混乱は起きません。
第二に、総額の把握につながるから。仲介手数料、専門家費用、実費、そして税金——これらを合算して初めて、手取りの見込みが立ちます。実費だけを切り出して考えても意味はなく、全体の中で位置づけることが大切です。
費用の全体像は「M&Aで仲介手数料以外にかかる費用」で整理しています。手取りの計算については「手取りはいくらになるか」をご覧ください。税額の試算は個別の事情によりますので、税理士にご確認ください。
当社では、ご契約の前に総額の目安を書面でご提示し、クロージングに向けて必要な書類と費用の一覧もお示ししています。ご相談の段階で費用が発生することはありません。
よくあるご質問
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細かい費用まで、一覧にしてお渡しします。
クロージングに向けて必要な書類と費用の一覧をお示しします。ご相談の段階で費用は発生しません。
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