特許を持っている、商標を登録している。それ自体が価格に乗るとは限りません。買い手が見ているのは、その権利が収益にどう結びついているかです。

持っていることと、効いていることは違う

まず前提です。買い手が評価するのは、その権利があることで、収益が守られているか、あるいは生まれているかです。

取得したが使っていない特許、登録したが誰も知らない商標。これらは維持費用がかかるだけの資産になります。

逆に、その商標があるから指名で注文が来るその特許があるから競合が同じ製品を作れないという状態なら、それは評価の対象です。

説明すべきは、権利の存在ではなく、権利と収益の関係です。

名義を確認する

デューデリジェンスで必ず見られる点です。権利者が誰になっているか。

中小企業では、社長個人の名義で登録されていることが珍しくありません。発明者が社長本人だから、という経緯です。

この場合、株式を譲渡しても、権利は会社に移りません。社長個人のものだからです。

買い手から見れば、事業の前提となる権利が、会社の外にある状態です。当然、問題になります。

譲渡の前に、会社名義へ移転するか、譲渡の対象に含める設計にしてください。移転には対価の設定と税務の論点があるため、税理士にご確認ください。

権利の有効性を確認する

登録されていても、今も有効とは限りません。

存続期間。特許は出願から20年、商標は登録から10年(更新可能)、意匠と実用新案にもそれぞれ期間があります。

年金(維持費用)の納付。特許は納付を怠ると権利が消滅します。

更新の手続き。商標は更新登録申請をしなければ消滅します。

登録原簿を取得して確認してください。特許情報プラットフォームでも状況を調べられます。

「昔取った」という記憶だけで、実際には消滅していたという例は実際にあります。

職務発明の扱い

従業員が発明した場合の論点です。

特許法は、職務発明について、あらかじめ使用者に権利を取得させることを定めた場合、その発明が生じた時から使用者に帰属する旨を定めています。あわせて、従業者に相当の利益を受ける権利が認められています。

確認すべきは、職務発明に関する規程があるか相当の利益についての取り決めがあるか実際に支払われているかです。

規程が無い場合、後から発明者が請求する可能性が残ります。これは簿外の債務にあたり得ます。

弁理士・弁護士に確認してもらってください。

使わせている・使っている関係を整理する

ライセンス関係も確認が必要です。

他社に使わせている場合。契約書があるか、対価を受け取っているか、支配権の異動で解除されないか。

他社のものを使っている場合。ライセンス契約の条件、更新の時期、支配権の異動に関する条項。ここが切れると、製品が作れなくなることがあります。

グループ会社間で無償で使っている場合。譲渡後、その関係が続くのか。前オーナーの別会社が権利を持っているというケースは、実際にあります。

事業の前提となる権利が、会社の中に揃っているか——これを確認してください。

商標は、事業の名前そのもの

実務上、中小企業で最も重要なのは商標です。

屋号、ブランド名、サービス名。これらが登録されていないと、買い手は不安になります。他者に先に登録されるリスクがあるためです。

また、登録されていても、実際に使っている区分と一致しているかを確認してください。飲食で使っているのに、指定商品が別の区分だけ、という例があります。

逆に、登録していないが長年使ってきた屋号にも、一定の保護が及ぶ場合があります。ただし、登録があるほうが明確です。

譲渡を考えるなら、主要な商標は登録しておくことをお勧めします。

ノウハウは権利ではない

整理しておくべき点です。技術やノウハウは、特許を取らない限り権利にはなりません。

営業秘密として保護される場合がありますが、秘密として管理されていることなどの要件を満たす必要があります。

したがって、ノウハウが会社の強みである場合、それをどう引き継ぐかが評価の論点になります。文書化されているか、複数人が持っているか、属人化していないか。

「うちには他社にないノウハウがある」という説明は、それだけでは価格になりません。再現できる形になっているかを示してください。技能の引き継ぎも併せてご覧ください。

維持費用も見られる

細かいのですが、確認されます。知的財産の維持にかかる年間費用です。

特許の年金、商標の更新料、弁理士への報酬。件数が多ければ、年間で相応の金額になります。

買い手は、使っていない権利にかかっている費用を見つけると、それを削減余地として見ます。

売り手としては、譲渡の前に棚卸しして、不要なものは放棄するという選択もあります。

ただし、放棄は不可逆です。本当に不要かを、弁理士と確認してから判断してください。

資料を揃えておく

最後に、準備するものをまとめます。

知的財産の一覧。種別、登録番号、名義、出願日、登録日、存続期間、年金・更新の状況。

登録原簿。

ライセンス契約書。使わせているもの、使っているもの。

職務発明の規程と、支払いの記録。

権利と収益の関係を説明するメモ。その権利がどの製品・サービスに使われ、いくらの売上に関わっているか。

最後の一枚が、最も効きます。登録原簿は誰でも取れますが、収益との関係を説明できるのは会社だけです。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.持っていること自体ではなく、その権利で収益が守られているか、生まれているかが見られます。取得したが使っていない特許や、登録したが知られていない商標は、維持費用がかかるだけの資産になります。
A.株式を譲渡しても権利は会社に移りません。事業の前提となる権利が会社の外にある状態となり、買い手にとって問題になります。譲渡の前に会社名義へ移転するか、譲渡の対象に含める設計にしてください。移転には対価の設定と税務の論点があります。
A.存続期間(特許は出願から20年、商標は登録から10年で更新可能)、年金の納付、更新の手続きを確認してください。特許は年金の納付を怠ると権利が消滅し、商標は更新登録申請をしなければ消滅します。登録原簿を取得して確認してください。
A.特許法は職務発明について、あらかじめ使用者に権利を取得させる定めがあればその発明が生じた時から使用者に帰属する旨を定め、従業者に相当の利益を受ける権利を認めています。規程と取り決めがあるか、実際に支払われているかを確認してください。規程が無いと簿外の債務となり得ます。
A.特許を取らない限り権利にはなりません。営業秘密としての保護には、秘密として管理されていることなどの要件があります。「他社にないノウハウがある」という説明だけでは価格になりません。文書化されているか、複数人が持っているか、再現できる形かを示してください。

Free Consultation

決算書の読まれ方から、ご説明します。

整理は、早く始めるほど効きます。
相談料・着手金・月額報酬はいただきません。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら