「うちはまだ紙とExcelなので、評価が低くなるのでしょうか」——譲渡のご相談で、しばしばいただく質問です。結論から申し上げると、システムが入っているかどうかだけで評価が決まることはありません。買い手が見ているのは、デジタル化の度合いそのものではなく、業務が安定して回っているか、数字がすぐ出てくるか、人手に無理がかかっていないかです。本稿では、DXや省人化がM&Aの評価にどう関わるのかを、買い手の視点から整理します。

買い手がシステムまわりで確認すること

デューデリジェンスでは、システムについても一定の確認が行われます。中小企業のM&Aで実際に論点になりやすいのは、次のような点です。

  • どの業務にどのシステムを使っているか(販売管理・会計・給与・生産管理など)
  • そのシステムは自社開発か、外部のサービスか。保守を誰が担っているか
  • ライセンスや契約の名義・期間、譲渡にあたって承継できるか
  • データがどこに保存されているか、バックアップの運用があるか
  • 特定の一人しか触れない仕組みになっていないか

このうち実務で問題になりやすいのが、属人化した自社開発システムです。長年勤めた社員が個人的に作り上げたツールで基幹業務が回っている、という会社は珍しくありません。本人が退職すると誰も直せなくなるため、買い手は入れ替えの費用を見込むことになります。

もうひとつ見られるのが、契約の承継です。クラウドサービスの契約が社長個人名義になっている、ライセンスが譲渡に制限を設けている、といった場合、事前の確認と手当てが必要になります。契約条項の解釈は弁護士など専門家にご確認ください。

省人化は「人が足りない前提」で評価される

近年、買い手が省人化に関心を持つ背景には、採用の難しさがあります。譲り受けた後に人員が確保できるかは、収益の前提に直結します。そのため、少ない人数で回る仕組みができている会社は、事業の継続性という点で見られ方が変わります。

ここでいう省人化は、必ずしも高度な自動化を指しません。作業の集約、工程の見直し、外注の活用、自動化ツールの導入など、手段は問われません。重要なのは、売上を維持しながら必要人員を減らせた実績があるか、あるいは人員が増えなくても増産できる余地があるかです。

逆に、現在の人員でぎりぎり回っている、残業が慢性化している、という状態は、実質的なコストが決算書に表れていない可能性として見られます。未払残業代の論点にもつながるため、労務の整理は評価とは別の意味でも重要です。

紙とExcelの会社が不利とは限らない

システムが入っていない会社でも、必要な数字がすぐ出てくるのであれば、大きな減点にはなりません。買い手が困るのは、システムがないことではなく、数字が出てくるまでに時間がかかる、あるいは出てこないことです。

たとえば、取引先別・月別の売上、品目別の粗利、工程別の稼働状況。これらがExcelであっても整理されており、依頼から数日で出せる会社は、デューデリジェンスがスムーズに進みます。逆に、高価なシステムが入っているのに、必要な切り口で集計できない会社もあります。

したがって、売却を意識してから慌ててシステムを導入する必要は基本的にありません。それよりも、今ある仕組みで買い手が求める数字を出せるようにしておくほうが実務的です。どんな資料が求められるかは「デューデリジェンス(DD)とは」でも整理しています。

売却前のシステム投資をどう考えるか

「評価のためにシステムを入れるべきか」というご相談には、設備投資と同じ考え方でお答えしています。判断の軸は、投資が回収できると自社で説明できるかどうかです。

売却の直前に導入した場合、費用は今期の損益に表れる一方、効果は数字として現れていません。買い手は効果を確認できないため、支出だけが見える形になります。加えて、買い手が同業で自社のシステムを持っている場合、導入したばかりの仕組みが統合後に使われないこともあります。

一方、業務上の必要性があって導入するのであれば、時期にかかわらず進める意味があります。その場合は、導入の目的と、導入後に何がどう変わったかを記録に残しておいてください。効果を説明できれば、投資は評価の材料になります。設備投資全般の考え方は「売却前に設備投資をすべきか」もご参照ください。

情報セキュリティと個人情報の扱い

デジタル化の話題では、セキュリティの状況も確認されます。過去に情報漏えいの事故があったか、個人情報をどう管理しているか、アクセス権限がどう設定されているか、といった点です。

中小企業では、全員が同じIDを使っている、退職者のアカウントが残っている、データが個人のパソコンにだけ保存されている、といった状態が見つかることがあります。いずれも大きな費用をかけずに改善できる項目ですので、売却を意識した段階で点検しておくとよいでしょう。

また、過去にトラブルがあった場合は、隠さずに経緯と対応を説明するほうが安全です。後から判明すると、表明保証の問題として扱われる可能性があります(表明保証とは)。個人情報保護に関する具体的な対応については、弁護士など専門家にご確認ください。

デジタル化は目的ではない|まとめ

M&Aの準備という観点でのDXは、最新のツールを導入することではなく、業務と数字が第三者にも見える状態にすることです。その意味では、システムの有無より、データの整理と権限の管理のほうが先に効きます。

手をつける順番としては、まずアカウントと権限の整理、次にデータの保存場所とバックアップ、そのうえで必要な集計が出せるかの確認、という流れが現実的です。いずれも費用をかけずに始められます。

当社では、買い手から求められる資料の観点から、いま整理しておくべき項目をお伝えしています。相談料・着手金・月額報酬は0円ですので、まだ検討の初期という段階でもお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.システムの有無だけで評価が決まることはありません。買い手が困るのは、必要な数字が出てこない状態です。Excelや紙であっても、取引先別・品目別の集計が短期間で出せるのであれば、実務上の支障は小さくなります。
A.論点にはなります。その方が退職すると保守できなくなるため、買い手は入れ替えの費用を見込みます。仕様を文書に残す、複数名が扱える状態にする、といった対応を進めておくと、リスクの見積りが小さくなります。
A.業務上の必要があれば進める意味はありますが、評価を上げる目的だけの直前導入は勧められません。効果が数字に表れる前だと費用だけが見え、買い手が同業の場合は統合後に使われない可能性もあるためです。

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相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。買い手から求められる資料の観点でお伝えします。
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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら