損益計算書を上から見ると、売上、原価、粗利、販管費、営業利益と並びます。これを「売上が動いたときに一緒に動く費用」と「動かない費用」に組み替えると、別のことが見えます。

売上から、売上に連動して動く費用(変動費)を引いた金額が限界利益です。売上に対する割合が限界利益率です。この率が高い事業は、売上が増えたときに利益が大きく伸び、減ったときに大きく落ちます。買い手は、ここを見て事業の強さと危うさを同時に読みます。

どう組み替えるのか

費用を2つに分けます。

変動費。売上に連動して動く費用です。商品の仕入、材料費、外注費、運送費、販売手数料、カードの決済手数料。売上が倍になればおおむね倍になる費用です。

固定費。売上が動いても大きくは変わらない費用です。家賃、正社員の人件費、リース料、減価償却費、保険料、水道光熱の基本料。

限界利益=売上 − 変動費。営業利益=限界利益 − 固定費、という形に組み替わります。

分け方は会社によって違います。人件費は、正社員なら固定費、繁忙期のアルバイトなら変動費に近くなります。運送費も、自社便なら固定、外部に出すなら変動です。決算書の勘定科目をそのまま割り振るだけでは、実態と合いません。だから、この指標は「自分の会社ではこう分けている」という説明が付いて初めて意味を持ちます。

同じ利益額でも評価が変わる

営業利益が同じ2,000万円の会社が2つあるとします。

A社は限界利益率が70%、固定費が大きい。売上が1割増えると利益は大きく伸びますが、1割減ると赤字に落ちます。B社は限界利益率が20%、固定費が小さい。売上が1割動いても、利益はあまり動きません。

買い手から見ると、この2社はまったく違う事業です。A社は売上を伸ばせる見込みがあるなら魅力的で、伸ばせないなら危ない。B社は安定しているが伸びにくい。

したがって、買い手が何を狙っているかで評価が変わります。自社の販路に乗せて売上を増やせる買い手にとってA社は価値が高く、安定した収益を求める買い手にはB社が向きます。

売り手としては、自社がどちらなのかを言えるほうが、合う相手に当たります。「うちは固定費が重いので、売上が乗ると利益が伸びます」と説明できれば、それを活かせる買い手が反応します。

損益分岐点と、どれだけ余裕があるか

限界利益率から、いくら売れば赤字にならないかが計算できます。固定費 ÷ 限界利益率です。これが損益分岐点の売上高です。

今の売上がそこからどれだけ上にあるかが、余裕の大きさになります。売上が2割落ちても黒字なのか、5%落ちたら赤字なのか。この余裕は、コロナ禍のような急な需要の変動で実際に試されました。過去数年の売上が大きく動いている会社では、そのときの実績がそのまま材料になります。

買い手は、調査でこの計算を自分でやります。そのうえで、自分が買った後の固定費で計算し直します。オーナー経営者の報酬を適正な水準に直す、本社機能を統合して減らす、逆に管理部門を足す。固定費が変われば分岐点も動きます。

売り手が先に計算しておくと、買い手の計算と突き合わせられます。差が出たら、どの前提が違うのかを話せます。

業種によって水準が違う

限界利益率の水準は、業種の構造で決まります。

  • 卸売・小売。仕入が大きいので率は低くなります。代わりに固定費も相対的に軽い業態があります。
  • 製造。材料費と外注の比率で変わります。加工度が高いほど率が上がります。
  • サービス・ソフトウェア。人の時間が原価なので、人件費の扱い方で見え方が変わります。
  • 設備型(倉庫・ジム・ホテル)。固定費が重く、率が高い。稼働率がそのまま利益に効きます。

だから、他社と率を比べることにはあまり意味がありません。同じ業種でも、外注の使い方が違えば率が変わります。

比べるなら、自社の過去数年の推移です。率が下がっているなら、原価が上がって転嫁できていない、値引きが増えている、外注の比率が上がっている、といった理由があります。率の推移は、価格交渉力の推移をそのまま映します。

価格転嫁の説明に使える

原材料やエネルギーの価格が上がった時期に、転嫁できたかどうかは買い手が必ず見るところです。ここで限界利益率の推移が効きます。

仕入が上がって売価を上げられなければ、変動費が増えて率が下がります。売価を上げられていれば、率は保たれます。率が保たれている会社は、取引先に対して価格を通せる関係があるという証拠になります。

これは「取引先と良い関係です」という言葉より強い材料です。数字で示せるからです。

逆に率が下がっている場合、理由を説明できる必要があります。戦略的に取った案件なのか、通せなかったのか、品目の構成が変わったのか。説明が無いと、買い手は「価格を通せない会社」と読みます。

売り手として整えること

この指標を使うには、費用の分け方を決めておく必要があります。

1. 変動費と固定費の線を引く。自社の実態に合わせて、勘定科目ごとにどちらかを決めます。一度決めたら、過去の年にも同じ線で当てます。

2. 過去3〜5年の推移を出す。限界利益率と損益分岐点の売上高を並べます。

3. 率が動いた年の理由を書く。原価の上昇、値引き、品目の構成、外注の比率。

4. 品目別・取引先別にも出せるか見る。全体の率より、どの品目が稼いでいるかのほうが、買い手の関心に近いことがあります。

この整理は、値決めや撤退の判断にも使える資料です。M&Aのためだけに作る必要はありません。会計の扱いと分析の方法は会社の状況で変わるため、具体的な計算は税理士など専門家に確認してください。

よくあるご質問

A.売上から、売上に連動して動く費用(変動費)を引いた金額が限界利益で、売上に対する割合が限界利益率です。変動費と固定費の分け方は会社の実態で変わるため、分け方の説明が付いて初めて意味を持ちます。
A.あまりありません。同じ業種でも外注の使い方や雇用の形で率が変わります。比べるなら自社の過去数年の推移で、率の推移は価格交渉力の推移を映します。
A.一概には言えません。率が高い事業は売上が増えると利益が大きく伸びますが、減ると大きく落ちます。買い手が売上を伸ばせる見込みを持っているかどうかで、評価の向きが変わります。
A.固定費を限界利益率で割って計算します。今の売上がそこからどれだけ上にあるかが余裕の大きさです。買い手は、自分が買った後の固定費で計算し直します。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら