一度は最終契約の直前まで行った。そこで止まった。もう一度やる気力が出ない、というお気持ちはよくわかります。ただ、流れた理由によっては、次はずっと楽に進みます。整理の仕方をお伝えします。
まず、なぜ流れたかを分類する
再開の可否は、原因によって答えが変わります。大きく三つに分けます。
① 会社側に原因がある。簿外債務、未払残業代、許認可の不備、契約書の不備。直せば消える問題です。
② 買い手側の事情。方針転換、資金調達の失敗、社内の反対。こちらに落ち度はありません。
③ 条件が合わなかった。価格、従業員の処遇、社名、引き継ぎ期間。次の相手なら合う可能性があります。
まず、どれだったのかを冷静に振り返ってください。
①なら、直してから出直す
会社側の問題で止まった場合、これは実は良い知らせです。問題が可視化されたからです。
未払残業代があるとわかったなら、計算して精算する。許認可の更新漏れがあったなら、正しい状態にする。株主が分散していたなら、集約する。
次のデューデリジェンスでは、同じ指摘は出ません。むしろ「前回の指摘を受けて整備した」と説明できれば、管理体制への評価はむしろ上がります。
期間としては、半年から2年程度を見ておくと現実的です。売却前の磨き上げも参考にしてください。
②なら、すぐに動いてよい
買い手の社内事情で流れた場合、会社の価値は何も変わっていません。間を置く理由がありません。
むしろ、資料が揃っている今のうちに次を探すほうが効率的です。企業概要書、財務資料、デューデリジェンスで整理した情報。これらは半年経つと古くなります。
ただし、「一度流れた案件」という情報が市場に出ている可能性には注意してください。同じ仲介会社が同じ候補先リストに当たれば、事情を知っている先に再打診することになります。打診先の選び方を見直す必要があります。
③なら、条件の優先順位を決め直す
条件が合わなかった場合、次にすることは自分の優先順位の整理です。
価格、従業員の雇用、社名の存続、自分の引き継ぎ期間、取引先との関係。すべてを満たす相手はいません。前回まとまらなかったのは、譲れない条件が多すぎた可能性があります。
「これだけは譲れない」を一つか二つに絞ってください。残りは交渉の材料になります。この作業をしないまま次に進むと、同じところで止まります。
同じ買い手に戻れるか
意外に思われるかもしれませんが、一度撤退した買い手が、時間を置いて戻ってくることはあります。
資金調達の目処が立った、社内の体制が整った、経営が代わった。理由はさまざまです。
こちらから声をかけることも可能です。ただし、撤退の経緯を確認してからにしてください。デューデリジェンスで問題を見つけて降りた相手に、その問題を直さないまま再打診しても結果は同じです。
また、相手は前回の情報を持っています。価格交渉では不利になりやすい点も理解しておいてください。
仲介会社を変えるべきか
率直に申し上げます。流れた原因が仲介会社の進め方にある場合は、変えたほうがよいです。
具体的には、打診先の選定が甘かった(買う体力のない先に当てていた)、問題を事前に洗い出していなかった(デューデリジェンスで初めて出た)、条件のすり合わせが不十分だった(基本合意の内容が詰まっていなかった)といった場合です。
逆に、丁寧に進めたうえで買い手の事情で流れたのであれば、同じ会社で続けるほうが効率的です。会社の内情を理解している分、立ち上がりが早くなります。
専任契約の残りを確認する
実務的な注意点です。仲介契約には専任条項と有効期間があり、契約終了後も一定期間、紹介先との直接取引を制限するテール条項が置かれることがあります。
中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)は、テール期間を最長でも2年〜3年以内を目安とし、対象をその仲介会社が実際に紹介した相手先に限定することを求めています。
別の会社に切り替える前に、前の契約書を確認してください。解除の手続き、費用の精算、テール条項の範囲。ここを確認せずに動くと、後で請求を受ける場合があります。
気力が戻るまで待ってよい
最後に、実務ではないことを書きます。
一度流れると、消耗します。資料を揃え、質問に答え、面談を重ね、それがゼロになる。「もういい」と思われるのは当然です。
事業が回っている限り、急ぐ必要はありません。半年休んで、それから考えても遅くありません。
ただし、ご自身の年齢と体力だけは考慮してください。「もう少ししてから」を繰り返して、動けなくなってからご相談に来られる方がいます。休むと決めるなら、いつ再開するかも決めておいてください。