いつ動き始めるのがよいか。決算期との関係で、資料の見え方と段取りが変わります。絶対的な正解はありませんが、考慮すべき点を整理します。

買い手が見るのは直近3期

まず前提です。買い手は、確定した決算書を3期分見ます。これに、直近期の試算表が加わります。

つまり、直近の決算が確定しているかどうかで、資料の説得力が変わります。

決算期の直後で、申告がまだ終わっていない時期に動き始めると、直近期の数字が「速報値」の扱いになります。

確定してから動くほうが、説明は楽になります。ただし、それだけで時期を決める必要はありません。

期中に動く場合

実務では、期の途中から動き始めることのほうが多くなります。

この場合、月次試算表の質が重要になります。

月次で決算整理(減価償却、棚卸、賞与引当)をしていない会社では、試算表の利益が実態より大きく見えます。買い手は引き直しますが、説明が必要になります。

対応としては、年間の償却費を按分した数字を併記する顧問税理士に月次の精度を上げてもらうといった準備が考えられます。

試算表と決算書の差で詳しく書いています。

決算をまたぐ場合

検討が長引けば、途中で決算期を迎えます。これは珍しいことではありません。

問題は、新しい決算の数字が、それまでの前提を変える場合です。

業績が落ちていれば、価格の再交渉になります。上がっていれば、売り手として強気に出たくなります。

実務では、基本合意の段階で「どの期の数字を前提とするか」を明記しておきます。そして、大きな変動があった場合の扱いも決めておく。

ここを決めずに決算をまたぐと、振り出しに戻ることがあります。

準備は決算の直後から

実務的な助言です。資料の整理は、決算が終わった直後に始めると効率的です。

理由は単純で、決算のために資料を集めた直後だからです。総勘定元帳、固定資産台帳、契約書、残高証明。手元に揃っています。

このタイミングで、譲渡に必要な資料の一覧を作り、足りないものを把握してください。

顧問税理士にも、決算の作業が一段落した時期のほうが相談しやすいという実務的な理由もあります。

クロージングの時期と税務

実行の時期には、税務上の論点があります。

譲渡所得は、譲渡した年の所得です。12月に譲渡すれば、その年の確定申告で納税します。1月なら、翌年です。

金額が大きい場合、いわゆるミニマムタックスの影響も確認が要ります。2025年分から特別控除3.3億円・税率22.5%で適用され、2027年分からは1.65億円・30%へ強化されます(2026年9月時点)。

つまり、2026年12月31日までの譲渡契約なら現行制度です。

金額が大きい案件では、必ず税理士に試算してもらってください。時期によって負担が変わり得ます。

役員退職金との関係

退職金を支給する場合、会社の事業年度との関係を見ます。

退職金は会社の損金になるため、支給した事業年度の利益が減ります。大きな金額なら、赤字になることもあります。

この決算をどう見せるかは、買い手との合意の内容によります。基本合意の段階で、退職金の支給を前提とした価格で合意していれば問題ありません。

逆に、合意した後に退職金の話を出すと、価格の再交渉になります。

支給の有無と金額は、早い段階で決めてください。

繁忙期を避ける

実務的な配慮です。会社の繁忙期に、デューデリジェンスを受けるのは負担が大きい。

資料の準備、質問への回答、現地調査の対応。いずれも社内の人手を使います。

また、経営者自身も面談や交渉に時間を取られます。繁忙期と重なれば、本業に影響します。

そして、顧問税理士の繁忙期も考慮してください。確定申告の時期(2〜3月)や決算期の集中する時期は、対応が遅れがちです。

日程を組むときに、双方の繁忙期を確認しておいてください。

補助金の年度も見る

補助金の活用を考えている場合、年度の区切りが関わります。

事業承継・M&A補助金には公募期間があり、交付決定の前に契約・支出したものは対象外とされるのが通常です。

つまり、申請のタイミングを、案件の進行と合わせて設計する必要があります。

ただし、要件や対象は年度ごとに変わります。必ずその年度の公募要領で確認してください。

補助金に日程を合わせすぎて、案件そのものを逃すのは本末転倒です。優先順位を決めてください。

結論:早く始めて、ゆっくり決める

まとめます。「いつ動くか」より「いつ始めるか」のほうが重要です。

準備には時間がかかります。株主の集約、資料の整備、現物資産の整理、議事録の作成。いずれも数か月から1年単位です。

準備が終わっていれば、動くべき時期が来たときに、すぐ動けます。買い手が現れた、体調に変化があった、業績が良いうちに。

逆に、準備ゼロから始めると、判断したい時期に動けません。

始めるのは早く、決めるのはゆっくりで構いません。準備は、決断ではありません。何年かかるのかも併せてご覧ください。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.「いつ動くか」より「いつ始めるか」のほうが重要です。準備(株主の集約、資料の整備、現物資産の整理、議事録の作成)には数か月から1年かかります。準備が終わっていれば、動くべき時期が来たときにすぐ動けます。
A.確定してから動くほうが説明は楽になります。買い手は確定した決算書を3期分見るためです。ただし期中に動く場合でも、月次試算表の精度を上げ、年間の償却費を按分した数字を併記するといった準備で対応できます。
A.新しい決算の数字が前提を変える場合、価格の再交渉になります。基本合意の段階で「どの期の数字を前提とするか」を明記し、大きな変動があった場合の扱いも決めておいてください。決めずにまたぐと振り出しに戻ることがあります。
A.譲渡所得は譲渡した年の所得です。金額が大きい場合、ミニマムタックス(2025年分から3.3億円控除・22.5%、2027年分から1.65億円・30%)の影響も確認が要ります。2026年12月31日までの譲渡契約なら現行制度です。必ず税理士に試算してもらってください。
A.決算が終わった直後です。決算のために総勘定元帳・固定資産台帳・契約書・残高証明を集めた直後で、手元に揃っているためです。顧問税理士も、決算作業が一段落した時期のほうが相談しやすくなります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら