支店や工場、営業所が複数ある会社を譲り受けた場合、統合は一斉に進めるべきか、拠点ごとに進めるべきか。この判断はPMIの初期に必ず問われます。一斉に進めれば足並みは揃いますが、どこかで躓いたときに全体が止まります。順に進めれば負荷は分散しますが、拠点間に「先に手を入れられた側」と「まだの側」という温度差が生まれます。本稿では、順序の決め方と、拠点をまたぐ統合で起きやすい問題への対処を整理します。統合全体の設計は「統合方針の決め方」もあわせてご参照ください。

一斉か、順次か|判断の分かれ目

まず、一斉に進めるか順次に進めるかを決めます。判断材料は、拠点の数、拠点ごとの独立性、そして統合に投入できる人手の三つです。

拠点の数が少なく(おおむね2〜3か所)、業務の内容がほぼ同じであれば、一斉に進めるほうが効率的です。同じ説明を繰り返す必要がなく、拠点間の差も生じません。一方、拠点ごとに扱う商材や顧客層が異なる場合、一斉の統合は無理が出ます。ある拠点に合わせた手順が、別の拠点では機能しないためです。

投入できる人手も現実的な制約です。統合の作業は、現地に足を運ばないと進まない部分が必ずあります。買い手側の担当者が実質一名であれば、同時に動かせる拠点は一つか二つが限界です。計画の段階で移動時間まで見込むと、無理のない順序が見えてきます。

なお、法令対応や資金管理など、会社単位で一本化すべき領域は拠点の順序とは無関係に、全社同時に進めます。順序の議論は、現場の運用に関わる領域に限られます。

最初の拠点をどう選ぶか

順次に進める場合、最初にどの拠点から着手するかで、その後の展開の難易度が変わります。選び方には二つの考え方があります。

  • 最も協力的な拠点から——成功事例を作り、他拠点に横展開する
  • 最も問題のある拠点から——リスクの大きいところを先に手当てする

どちらが正しいというものではなく、統合の目的によって選びます。労務や法令対応に懸念がある場合は、当然ながら問題のある拠点が先です。一方、業務の標準化のようにやり方を作ってから広げる性質の統合であれば、協力的な拠点から始めるほうが結果的に早く終わります。

実務でよく取る折衷案は、本社機能のある拠点で会計・労務など管理系を先に整え、現場運用の統合は取り組みやすい拠点から始める、という二本立てです。管理系は本社で決めないと他拠点も動けないため、順序を後ろにできません。

避けたいのは、単に「近いから」という理由で選ぶことです。移動の便は担当者の都合であり、統合の成否とは関係がありません。

拠点間の温度差にどう対処するか

順次に進めると、必ず温度差が生まれます。先に着手した拠点は「なぜうちだけ」と感じ、後回しの拠点は「うちは軽く見られている」と感じる。どちらの受け止め方も起こりえます。

対処の基本は、全体の順序と時期を最初に開示することです。「まず◯◯拠点で進め、そこで得た知見を踏まえて、◯月頃から他拠点へ広げます」と伝えておけば、先に着手する拠点は理由を理解でき、後の拠点は自分たちの番が来ることを知ります。順序を伏せたまま進めると、拠点ごとに憶測が生まれます。

また、先行拠点の負担を認識しておくことも大切です。最初の拠点は、手順が固まっていない段階で試行錯誤に付き合うことになります。この負担に対しては、後続拠点の統合で先行拠点の担当者に説明役を担ってもらうなど、役割として位置づけ直すと受け止めが変わります。

拠点を持つ会社では、もともと拠点間に競争関係や歴史的な経緯があることも珍しくありません。統合を機にその構図が表面化することがあるため、譲り受ける前の段階で拠点間の関係性を把握しておくことをお勧めします。

拠点をまたぐ統合で起きやすい問題

複数拠点の統合では、単一拠点では起きない問題が出ます。代表的なものを挙げます。

問題背景対処
同じ取引先に拠点ごとに別条件拠点が独立して交渉してきた取引先ごとに条件を棚卸しし、統一の可否を判断
労働条件が拠点で異なる地域手当・通勤手当・勤務時間の慣行一律化を急がず、根拠と経緯を確認
在庫や原価の把握基準が違う拠点ごとの管理方法が定着まず数字の作り方を共通化する
拠点長の権限がばらばら属人的に運用されてきた決裁基準を文書化し、全拠点に適用

このうち、労働条件の差は特に慎重な扱いが必要です。地域の事情や過去の経緯によって生じた差を、統合を理由に一律に引き下げることは労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。手順や適法性については専門家の確認が必須です。

取引先の条件差も、統一を急がないほうがよい領域です。拠点ごとの条件には、取引量や納入形態の違いといった合理的な理由があることが多く、一律化がかえって関係を損なう場合があります。

拠点ごとに異なる労働条件の統一、就業規則の適用範囲、賃金体系の変更などは、個別の事情によって適法な進め方が異なります。実施前に弁護士・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。

拠点の統廃合を検討する場合

買収の目的によっては、拠点そのものの統廃合が視野に入ることもあります。この判断は、統合の他の論点とは切り離して扱ってください。

理由は二つあります。第一に、拠点の統廃合は従業員の勤務地に直結し、統合の他の施策とは影響の重さが違います。第二に、買収直後の限られた情報では、その拠点の実際の価値を判断できません。数字上は不採算に見える拠点が、特定の取引先との関係を支えている、あるいは採用の面で機能している、といったことがあります。

統廃合を検討する場合でも、少なくとも一度は年間を通した業績と業務の流れを見てから判断することをお勧めします。季節性のある事業では、数か月の数字だけでは実態が分かりません。

また、統廃合の検討をしていること自体が漏れると、対象拠点では即座に離職が始まります。検討段階の情報管理と、判断が固まった際の伝え方は、あらかじめ設計しておく必要があります。

横展開の段階で確認すること

最初の拠点での統合が一段落したら、次の拠点へ広げます。この段階で確認しておきたいのが、先行拠点で作った手順のうち、何が一般化でき、何がその拠点固有だったかの切り分けです。

この切り分けを省くと、先行拠点の事情に最適化された手順をそのまま他拠点に持ち込むことになり、「うちには合わない」という反発を招きます。先行拠点の担当者に、手順の意図と前提を書き出してもらうと、一般化できる部分が見えてきます。

横展開の際は、説明の担い手も検討してください。買い手側の担当者が説明するより、先行拠点の従業員が自分の言葉で説明するほうが、納得を得やすいことが多くあります。同じ会社の同僚が経験したこととして伝わるためです。

すべての拠点で統合が完了したら、拠点をまたいだ運用の一貫性を確認します。規程は同じでも運用が拠点ごとに分かれていることは珍しくありません。検証の考え方は「PMIの振り返り|1年後に検証すること」を参考にしてください。

よくあるご質問

A.拠点の規模にもよりますが、各拠点に窓口となる方を一名置くことをお勧めします。買い手側の担当者が遠隔で全拠点を見る形にすると、現場の実情が届かず、計画が机上のものになります。窓口は新たに採用する必要はなく、その拠点で信頼のある管理職や事務責任者にお願いする形が一般的です。
A.問題ありません。むしろ、拠点の事情に合わせて速度を変えるほうが実務的です。ただし、全社で一本化すべき領域(資金管理、決裁権限、法令対応など)については拠点差を残さないでください。速度を変えてよい領域と、揃えるべき領域を最初に区別しておくことが重要です。
A.訪問の頻度が下がる分、記録と定例の連絡を厚くする必要があります。ただし、初期の説明と主要な面談だけは現地で行うことをお勧めします。遠隔のみで進めた統合は、形式上は進捗しても、現場の実態が把握できないまま進むことが少なくありません。訪問の回数と時期を、統合計画に明記しておいてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら