デューデリジェンス(DD)は、買い手が対象会社を調べる工程です。財務・法務・税務・労務といった区分で語られることが多い一方、「ビジネスDD」は耳にする機会が少なく、何を調べるものか掴みにくい言葉です。
ビジネスDDは、決算書に表れている数字そのものではなく、その数字が今後も続くのかどうかを見る調査です。買い手が払う金額は、これまでに稼いだ利益に対してではなく、これから稼ぐ利益に対して払われます。だから「続くのか」が論点になります。
本稿では、他のDDとの違い、中小企業の案件で実際に行われる範囲、売り手に準備してもらう資料、仲介者が段取りする場面を順に整理します。
ビジネスDDが見ているもの
財務DDが「過去の数字が正しいか」を確かめる調査であるのに対し、ビジネスDDは「その数字がこの先も出るのか」を確かめる調査です。見ている対象は、売上を生んでいる仕組みそのものです。
- 誰が買っているか——顧客の数と偏り。特定の取引先に売上が集中していれば、その1社が離れたときに利益が消えます。集中そのものが悪いわけではなく、離れにくい理由があるかどうかが見られます
- なぜ選ばれているか——価格なのか、納期なのか、技術なのか、担当者との関係なのか。理由が価格だけであれば、買い手は「自分が引き継いだあとも同じ価格で出せるか」を考えます
- 誰が回しているか——社長個人が持っている関係や判断に依存していないか。社長が抜けた翌月から同じように回るのかどうかは、価格にも引き継ぎ期間にも影響します
- 続けられるか——設備の更新、人の採用、仕入先の確保が、これまでと同じ条件で続くのか。老朽化した設備の更新費用が近い将来に必要なら、それは買った後に出ていくお金です
この4つは、どれも決算書には載りません。だからビジネスDDは、資料ではなく人の話と現場から取ることになります。仲介者が同席して聞き取りの段取りを組む場面が多いのは、このためです。
財務DD・法務DDとの境目
実務では、同じ事実を複数のDDが別の角度から見ることがあります。たとえば「売上の3割を占める取引先がある」という一つの事実は、次のように扱われます。
- 財務DDでは、売掛金の回収可能性と、その取引の利益率が全体をどれだけ押し上げているか
- 法務DDでは、その取引先との契約にチェンジオブコントロール条項があるか、解約の予告期間はどれだけか
- ビジネスDDでは、その取引が続いている理由と、仮に失ったときに代わりが見つかるか
買い手の社内では別々の担当者が動くため、売り手には同じ話を3回聞かれることが起こります。売り手にとっては負担が重なる場面で、しかも3回目には「前にも話したはずだ」という気持ちが出ます。仲介者が質問の重複を整理し、まとめて1回で答える形に組み替える余地があります。
質問への答え方そのものについてはDDの質問リストへの答え方に、資料の受け渡しの段取りはDD対応の実務にまとめています。
中小企業の案件では、どこまで行われるか
ビジネスDDを外部の専門機関に正式に依頼する案件は、規模の大きい取引に限られます。中小企業の案件では、買い手自身が、面談と現場見学と追加資料で代替することが多くなります。
具体的には、次のような形で行われます。
- トップ面談で、社長に事業の成り立ちと主要な取引先との経緯を聞く
- 工場・店舗・事務所を見て、設備の状態と人の動き、整理の程度を見る
- 主要な取引先ごとの売上推移を、数期分出してもらう
- 受注の経路(紹介・入札・既存顧客からの追加)の内訳を聞く
- キーマンと呼べる従業員が誰かを聞き、可能なら面談する
外部に依頼しないからといって、調べていないわけではありません。名前の付いた工程になっていないだけで、買い手は同じことを確かめています。仲介者が「ビジネスDDは行われません」と説明してしまうと、売り手は面談での質問に備えないことになり、答えに詰まる場面が増えます。
準備の有無は、買い手の印象に直接影響します。同じ内容でも、即答できる社長と、調べてから折り返す社長では、受け取られ方が変わります。
売り手に準備してもらう資料
ビジネスDDに相当する確認で求められる資料は、会計資料とは別の種類のものです。多くの会社で、整った形では存在していません。
- 取引先別の売上推移(できれば3期分)
- 商品・サービス別の売上と粗利の内訳
- 主要な取引先との契約書、または取引条件を書いた覚書
- 仕入先の一覧と、代替先があるかどうか
- 従業員の一覧(年齢・勤続年数・担当)と、資格保有者の状況
- 許認可の種類と有効期限、更新の時期
これらが無い会社は珍しくありません。無いことを問題として報告するのではなく、聞き取って作るほうが案件は進みます。社長の頭の中にある情報を書き出す作業になるため、1日で終わらないことを見込んで日程を取ります。
なお、作る過程で売り手自身が気づくこともあります。取引先別に並べてはじめて偏りが見えた、という場面は実務でよく起こります。これは条件の交渉に入る前に知っておいたほうがよい情報です。
仲介者が段取りする場面
ビジネスDDに相当する確認は、工程として独立していないぶん、どの場面で何が確かめられているかが見えにくいという難しさがあります。仲介者が整理できるのは次の点です。
- 質問の重複を減らす——買い手の複数の担当者から同じ質問が来たら、まとめて1回で答える形に組み替える
- 答えられない質問を先に洗う——売り手が即答できない項目を事前に把握し、調べる時間を確保する
- 現場見学の設計——従業員に気づかれない時間帯と名目を、売り手と決めておく
- 聞かれた内容を記録する——買い手の関心がどこにあるかは、後の条件交渉の材料になる
買い手が何を気にしているかは、質問の量と細かさに表れます。特定の論点に質問が集中したら、そこが条件に影響すると見て、売り手と先に話しておくのが実務の順序です。結果が出てから伝えるより、見通しの段階で共有したほうが、売り手は受け止めやすくなります。
なお、個別の会社について何をどこまで調べるべきかは案件ごとに異なります。法務・税務にまたがる論点は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。