デューデリジェンスが始まると、買い手側の会計士・税理士・弁護士から、想像以上に細かい質問が次々と届きます。「この費用の内訳を教えてほしい」「この契約はいつ更新されたのか」「この在庫はいつのものか」といった具合です。日々の業務では意識していない事柄を尋ねられ、戸惑う経営者様も少なくありません。本稿では、質問リスト(Q&Aシート)への答え方の基本と、分からないことをどう伝えればよいかを整理します。

DDの質問はなぜ細かいのか

買い手側の専門家は、疑っているから細かく聞くわけではありません。彼らは自らの専門家責任のもとで報告書を作成する立場にあり、「確認しました」と書くためには根拠が必要になります。根拠のない事項は「確認できなかった」と報告せざるを得ず、それが買い手側でリスクとして扱われ、価格や契約条件に跳ね返ります。

つまり、細かい質問に丁寧に答えることは、「不確かな部分」を減らし、余計なリスク評価を防ぐことにつながります。質問対応は、防御ではなく、自社を正しく評価してもらうための作業だと捉えるのが実務的です。DDの全体像は「デューデリジェンス(DD)とは」をご覧ください。

回答の基本姿勢|3つの原則

原則1:事実だけを書く

回答欄には、確認できた事実を書きます。見解や見通しを求められた場合は、事実と切り分けて「事実は◯◯、当社の認識は△△」という形で書くと誤解が生じません。「たぶん」「おそらく」で書いた内容が、後で一人歩きすることは避けたいところです。

原則2:早く返す

回答が滞ると、買い手側の作業が止まり、全体の日程が後ろにずれます。さらに、回答が遅いこと自体が「何か隠しているのでは」という印象を生むことがあります。すぐに答えられない質問は、「◯日までに回答します」と一次返信を入れておくだけで印象が変わります。

原則3:窓口を一本化し、記録を残す

複数の担当者がそれぞれ回答すると、内容が食い違い、後で訂正が必要になります。回答は仲介会社を経由して一本化し、誰がいつ何を回答したかを記録に残してください。この記録は、後の条件交渉や最終契約の場面で参照されます。

「わからない」「資料がない」をどう伝えるか

中小企業では、古い資料が残っていない、当時の経緯を知る人がすでに退職している、といったことは日常的にあります。これ自体は珍しいことではなく、正直に伝えれば大きな問題にはなりません。むしろ問題になるのは、曖昧な記憶で断定してしまうことです。

伝え方としては、次のように、状況と根拠の限界を明示するのが実務的です。

  • 「当時の契約書は保管されておらず、確認できていません。現在の取引条件は◯◯です」
  • 「記録が残っていないため断定できませんが、経理担当者の記憶では△△とのことです(未確認)」
  • 「該当する資料は保存年限を経過しており存在しません。代替として□□をご提示します」
  • 「社内で確認中です。◯月◯日までに回答します」

重要なのは、「分からない」と「無い」を区別することです。「探したが見つからない」のか、「もともと作成していない」のか、「作成したが保存期間を過ぎて廃棄した」のかでは、買い手の受け止め方がまったく異なります。前提を添えて伝えてください。

また、資料が見つからない場合でも、代替の証跡があれば添えると評価が変わります。契約書がなくても、注文書・請求書・入金記録の継続があれば、取引の実在と条件は相当程度確認できます。

答え方に注意したい質問の型

いくつかの質問は、答え方によって後の交渉に影響します。

質問の型注意点
「◯◯はありませんね?」という確認型「ありません」と断定する前に、社内で確認できる範囲を確かめる。未払残業代、係争、保証債務などは特に慎重に
将来の見通しを尋ねる質問事業計画に関する回答は、前提条件を明示する。断定的な表現は避ける
取引先との関係を尋ねる質問契約書に書かれていない口頭の了解事項がある場合は、その旨を伝える。後から出てくるほうが問題になる
経営者個人と会社の関係役員貸付金・借入金、個人資産の事業利用、個人名義の契約などは、実態を整理して伝える
数字の差異の理由期ごとの増減、月次の変動は、事実に基づく理由を説明する。分からない場合はその旨を伝える

特に、確認型の質問に安易に「ありません」と答えるのは危険です。この回答が、後述するとおり最終契約の表明保証に直結するためです。断定が難しい場合は、「現時点で当社が把握している限りではありません」といった形で、認識の範囲を明示するのが実務上の工夫です。文言の当否については、具体的な内容を弁護士にご確認ください。

回答は最終契約につながっている

DDでの回答は、その場限りのやり取りではありません。買い手は回答を前提に価格と条件を決め、最終契約書(株式譲渡契約書)の表明保証条項に落とし込みます。表明保証とは、「開示した情報が真実かつ正確であること」を売り手が買い手に対して表明し、保証する条項です。

したがって、事実と異なる回答をしていた場合、成約後にそれが判明すれば、表明保証違反として補償や損害賠償の請求を受けるおそれがあります。逆に、DDの段階できちんと開示していた事項は、買い手が承知のうえで買ったものとして扱われ、後から責任を問われにくくなります。開示は、売り手自身を守る行為でもあるのです。

実務では、開示済みの事項を「開示別紙(ディスクロージャー・スケジュール)」として最終契約書に添付し、表明保証の例外として整理することがあります。DDでの回答を記録に残しておくことが、この作業を支えます。表明保証の仕組みは「表明保証とは」で詳しく解説しています。

まとめ|正確に、早く、記録を残して

DDの質問リストへの回答は、①事実だけを書く、②早く返す、③窓口を一本化して記録を残す、という三原則に尽きます。分からないこと、資料がないことは正直に伝えて構いません。むしろ、推測で断定した回答が後で覆るほうが、信頼と交渉力を大きく損ないます。そして回答は、最終契約の表明保証を通じて、成約後の責任にまでつながっています。

当社プラチナパートナーズでは、DD期間中の質問を当社が受け取り、内容を整理したうえで経営者様にお渡しします。回答の書き方についても、後の契約交渉を見据えたうえで一緒に検討しますので、はじめての方も過度にご心配なさらないでください。まずは無料相談からお声がけください。

よくあるご質問

A.正直に伝えて構いません。ただし「分からない」と「無い」は区別してください。探したが見つからないのか、もともと作成していないのか、作成したが保存期間を過ぎて廃棄したのかでは、買い手の受け止め方がまったく異なります。契約書がなくても、注文書・請求書・入金記録の継続があれば取引の実在と条件は相当程度確認できますので、代替となる証跡を添えてください。
A.断定する前に、社内で確認できる範囲を確かめてください。確認型の質問への回答は、最終契約の表明保証に直結します。事実と異なる回答をしていた場合、成約後に判明すれば、表明保証違反として補償や損害賠償の請求を受けるおそれがあります。逆に、デューデリジェンスの段階できちんと開示していた事項は、買い手が承知のうえで買ったものとして扱われ、後から責任を問われにくくなります。
A.窓口を一本化してください。複数の担当者がそれぞれ回答すると、内容が食い違い、後で訂正が必要になります。回答は支援機関を経由して一本化し、誰がいつ何を回答したかを記録に残します。この記録は、開示済みの事項を「開示別紙」として最終契約書に添付し、表明保証の例外として整理する作業を支えます。回答の遅れは、日程の遅れと不信感の両方を招きます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら