中小M&A資格試験(仮称)について、いちばん多く語られているのは「試験そのもの」です。科目、配点、合格基準。しかし公表資料を読むと、この制度の重心は試験より後ろにあります。
合格者はデータベースで氏名が公表され、定期的な講習を受け、違反すれば登録を取り消される。そして中小M&Aガイドラインの側では、重要事項説明を資格保持者が行うことを求める方向が検討されています。
これは、試験の話ではなく働き方の話です。何が変わるのかを、確認できる範囲だけで整理します。
この制度は二層でできている|組織の登録と、個人の資格
中小M&Aの支援体制は、二層で設計されています。
組織の層が、2021年8月に創設されたM&A支援機関登録制度です。中小M&Aガイドラインの遵守を宣言した仲介者・FAを登録して公表するしくみで、2026年3月時点で約3,400者が登録しています。
これに対して、今回の資格試験は個人の層です。しかも試験単体ではなく、合格者登録制度が併設される予定とされています(資料2)。
つまり、会社が登録されているかどうかと、目の前の担当者が資格を持っているかどうかが、別々に外から見えるようになります。これまで、依頼者が担当者個人を評価する手がかりは、名刺の肩書と面談の印象しかありませんでした。
当社も中小M&Aガイドラインの遵守宣言を全文公開していますが、これは組織の層の話です。個人の層は、これから立ち上がります。
氏名が公表される|所属が変わっても、記録は個人に残る
資料2によれば、合格者登録制度ではデータベースで氏名が公表されます。そして倫理規程に違反した場合には、氏名の公表・登録の取消等が想定されています。
この設計が働き方に与える影響は、たぶん想像より大きいものです。
これまで、仲介の現場での振る舞いは会社の評判として蓄積されてきました。担当者が会社を移れば、そこでいったん切れます。個人の登録制度は、その切断をなくす方向に働きます。「どこに所属しているか」ではなく「誰か」で見られるということです。
これは、丁寧に仕事をしてきた人にとっては有利に働きます。逆に、成約を優先して説明を省いてきた人にとっては、その記録が個人に貼り付く形になります。
定期講習が前提になる|取って終わりの資格ではない
合格者登録の要件として、倫理規程の遵守と、登録時および定期的な講習(1〜2年ごと等を想定)が挙げられています(資料2)。
制度・税制・判例は動きます。中小M&Aガイドライン自体、2020年の策定から2024年8月の第3版まで改訂されてきました。定期講習が入るということは、その改訂を追いかけることが業務の一部として扱われるということです。
学習時間を「自己研鑽」として個人の余暇に押し込めていた会社は、扱いを考え直す必要が出てきます。
重要事項説明の担い手になるかもしれない|工程に資格が入る
資料2には、登録機関に対して担当者への資格取得を推奨すること、そして重要事項説明を資格保持者が行うことを求める方向が検討されていると記されています。
これが実現すると、影響は採用と配置に直接出ます。
重要事項説明は、仲介契約を結ぶ前に、手数料の算定基準・報酬基準額・最低手数料・報酬の発生タイミング、そして仲介者の場合は相手方の手数料まで書面で説明する工程です。案件の入口にあり、避けて通れません。
ここに資格要件が入ると、資格保持者がいない体制では案件を進められないことになります。一人が何件を担当できるかという話になり、チームの組み方が変わります。
なお、これはあくまで検討されている方向であって、決まったものではありません。
倫理が25%で、禁忌肢がある|「成約に強い」だけでは通らない
試験の配点は、M&A実務35〜40%程度、財務・税務20〜23%程度、法務17〜18%程度、倫理・行動規範25%程度とされています(資料2)。法務より倫理のほうが重い配点です。
さらに、倫理・行動規範の科目についてのみ禁忌肢の設定が検討されています。総得点が合格ラインを超えていても、禁忌肢を一定数選べば不合格という設計です(募集要領)。
この2つが意味するのは、知識と実務経験だけでは埋め合わせられない条件が置かれているということです。評価の軸が、成約の量から、進め方そのものへ寄ります。
詳しくは試験科目と配点の記事と禁忌肢の記事で扱っています。
受験資格が無く、科目免除も無い|入口と土俵が変わる
公表資料には、実務経験年数や保有資格などの受験要件を設ける旨の記載はありません。受験対象には「今後中小M&Aの仲介・FA業務を行おうとする者」が明記されています(募集要領)。
業界に入る前に取れる資格として設計されている、ということです。未経験からこの仕事を目指す人にとっては、入口の形が変わります。これまでは入社してからでなければ何も示せませんでしたが、先に学習して示せる材料ができます。
一方で、立ち上げ期には科目免除を設けないことも示されています(資料2)。士業の資格を持っていても、同じ試験を受けます。全員が同じ土俵に立つ形です。
なお、合格しても弁護士・税理士・公認会計士等の独占業務が行えるようになるわけではありません(募集要領・資料2)。資格の性質は、独占ではなく水準の明示です。
この記事について(出典と免責)
本記事は、本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。受験にあたっては、必ず中小企業庁および試験運営事業者の公式の試験案内をご確認ください。
試験日・受験料はいずれも未公表です。合格者登録制度の要件、重要事項説明の担い手に関する記載は、いずれも検討されている方向として資料に示されたもので、確定した制度ではありません。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日) / 同 資料3「試験科目詳細」 / 「令和7年度補正中小企業活性化・事業承継総合緊急支援事業(中小M&A資格試験実施事業)に係る企画競争募集要領」(中小企業庁、2026年3月27日) / 「中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ」(中小企業庁、2025年4月) / 中小M&Aガイドライン第3版(中小企業庁、2024年8月。当社の遵守宣言に全文を掲載) をもとに当社が作成。
よくあるご質問
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。
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