「M&A実務」は配点35〜40%、60問なら21〜24問程度で、4科目のうち最も重い科目です。
範囲は広く見えますが、構造は単純です。案件が進む順番に並んでいるだけです。 そして各工程には、中小M&Aガイドライン第2章II4の行動指針が1対1で対応しています。
10の工程と、それぞれの目的
資料3「試験科目詳細」のM&A実務は、おおむね次の順に並んでいます。
| 工程 | 目的 |
|---|---|
| 事前相談(アプローチ・相談受付・ヒアリング) | 潜在ニーズを掘り起こし、依頼者と案件の実像をつかむ |
| 提案 | M&Aプロセスの目的・支援内容を説明し、スキームを初期的に検討する |
| 秘密保持契約 | 情報を出せる状態をつくる |
| アドバイザリー(仲介・FA)契約 | 何をいくらで行うかを確定し、重要事項説明を行う |
| バリュエーション | 価格の当たりをつける(仲介者は結論を決定しない) |
| マッチング | 相手を探し、接触し、名前を開示する(ネームクリア) |
| 意向表明/基本合意 | 条件の大枠を文書で固める |
| DD(デュー・ディリジェンス) | 前提の検証。検出事項への対応方針を決める |
| 最終契約 | リスクを条項に落とす(表明保証・経営者保証・クロージング条項等) |
| クロージング/PMI | 実行と、その後の引継ぎ |
試験科目詳細では、この順に84項目が並び、うち13項目に「特に重要度が高く優先的に出題する項目」の印が付いています。
各工程に「提供する主な業務」が定義されている
ガイドラインは、仲介者・FAが各プロセスで提供する主な業務を表で例示しています。抜粋します。
- バリュエーション……財務状況の分析/時価純資産法・マルチプル法・DCF法等の複数のアプローチによる実施 (仲介者は確定的なバリュエーションの実施はできず、士業等専門家等の意見を求められる旨の明示が必要)
- マッチング……提案/候補者の選定・報告(進捗は遅滞なく報告)/企業概要書の作成・提供/意向表明書の作成支援
- 基本合意の交渉・締結……論点の洗い出し・整理/条件面の交渉・調整の支援/スキームの提案/トップ面談の調整/基本合意書の作成支援
- DD……開示資料の整理・作成支援/スケジュールの調整・管理/各種DDの実施又は実施支援 (法務DD・税務DDは外部の士業等専門家に委託。仲介者は調査内容の検討や評価・判断に影響しない範囲の支援に限る)
- 最終契約……論点整理と交渉支援/譲り渡し側の経営者保証の扱いについての調整/内容についての助言と条件の漏れの確認/リスク事項の説明
- クロージング……譲渡対価の入金確認、株式譲渡に係る手続、登記手続その他の実行支援(登記手続は司法書士等に委託)
この表は、契約締結前に書面で説明すべき「提供する業務の内容」の例でもあります。 やらないことがある場合は、その旨も整理して説明する必要があります。
工程ごとに「仲介者にはできないこと」がある
実務科目で最も問われやすいのが、仲介者の限界です。3か所に集中しています。
- バリュエーション……確定的な評価を行わない。結論を決定しない
- DD……調査内容の検討や、調査を踏まえた評価・判断に直接影響しない範囲の支援に限る (開示資料の整理・作成のサポート、スケジュールの調整・管理など)
- 法務DD・税務DD……外部の士業等専門家に委託する
いずれも、利益相反の節にある「一方当事者の意向を踏まえた内容となりやすい工程に係る結論を決定しない」の具体化です。
さらに、紛争解決の支援は非弁行為(弁護士法第72条)に該当しうるため、その旨を説明しなければならないとされています。 できないことを、できないと言う——これが実務科目と倫理科目の接点です。
「その他業務」に書かれていること
工程に紐づかない業務も定義されています。
- プロセス全体にわたるM&A検討の上での必要な情報提供や助言、依頼者からの質疑への対応
- プロセスのスケジューリング・進捗管理
- 譲り渡し側・譲り受け側間の事務的な連絡も含めた調整
- 会議・契約調印・決済への立会い
地味に見えますが、中小M&Aで案件が止まる原因の多くは、進捗管理と連絡の不足です。 ガイドラインが「マッチングの進捗等については遅滞なく報告」と明記しているのも同じ趣旨です。
また、担当者の保有資格・経験年数・成約実績を説明すべきこと、 経験を補うサポート担当がいる場合はその内容と資格等も説明することが望ましいことが定められています。
勉強の順序
実務科目だけを単独で勉強するより、倫理科目と一緒に進めるほうが効率的です。 ガイドライン第2章II4「各工程の具体的な行動指針」が、両方の出典になっているためです。
おすすめの順序は次のとおりです。
- プロセスの順番と各工程の目的を言えるようにする(この記事の表)
- 工程ごとに提供する業務と仲介者の限界を対にして覚える
- 資料3で●が付いた項目を拾う(実務は84項目中13項目)
- 契約に関する工程(秘密保持契約・アドバイザリー契約・基本合意・最終契約)は、法務科目と重なるのでまとめて
なお、オペレーションに関する内容は「M&A実務」で、そのオペレーションに必要な法律知識は「法務」で出題する、 と整理されています。同じ場面が2科目から問われるということです。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
Book
この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。