デューデリジェンス(DD)の資料依頼リストに「固定資産台帳」という項目を見つけて、久しぶりに中身を開いた——そんな経営者様は少なくないと思います。そして開いてみると、もう使っていない機械が載っている、名前の記憶がない資産がある、逆に現場にある設備が載っていないといったことに気づかれます。

資産の帳簿と現物のずれは、中小企業ではごく一般的な状態です。しかし、買い手から見れば「買ったつもりのものが存在しない」あるいは「存在するのに把握できていない」という話になります。本稿では、どこにずれが生じやすいのか、どう確認すればよいのか、そして売却前に何を整えておくべきかを整理します。

なぜ資産のずれが問題になるのか

買い手が資産を確認する理由は、二つあります。

第一に、価格の算定に直結するからです。財務DDでは、貸借対照表の資産を実態に引き直した「実態純資産」を算出します。帳簿に計上されている資産が実在しない、あるいは価値を失っているのであれば、その分は減額されます。逆に、帳簿価額より時価が高い資産があれば、増額の方向で調整されます。

第二に、事業の継続に必要なものが揃っているかを確かめるためです。製造業であれば主要な設備、運送業であれば車両、飲食業であれば厨房機器。これらが会社の所有なのか、リースなのか、代表者個人の持ち物なのか。所有形態によって、成約後に何が引き継がれるかが変わります。

そして、ずれが多いこと自体が管理体制への評価にもつながります。台帳と現物が何年も照合されていない会社では、他の管理も同様ではないかと見られます。これは、資産そのものの金額を超えた影響を持ちます。

もっとも、こうしたずれは是正できるものがほとんどです。問題は、ずれがあることではなく、ずれに気づいていないこと——DDで初めて指摘され、説明できない状態に陥ることです。

どこにずれが生じるか|三つの典型

実務でよく見られるずれを、三つの型に整理します。

状況DDでの扱い
① 台帳にあるが現物がない廃棄・売却した資産の除却処理をしていない。故障して使っていない設備が計上されたまま実在しない資産として、実態純資産から減額される
② 現物はあるが台帳にない少額の備品として費用処理したもの、寄贈や中古で取得したもの、現場で調達したもの把握されていない資産として扱われる。事業に必要なものであれば所有関係の確認が必要
③ 名義が実態と違う不動産の登記や車両の車検証が代表者個人名義のまま。会社が費用を負担し使用している会社の資産に含まれないため、成約後の扱いを決める必要がある

①の除却漏れは最も多いパターンです。設備を入れ替えたときに、旧設備の除却処理を忘れる。あるいは処分したが記録が残っていない。帳簿価額がほぼゼロまで償却されていれば影響は小さいものの、残存価額がある資産の場合は減額の対象になります。

③の名義のずれは、金額の大小にかかわらず論点になります。特に不動産は影響が大きく、事業に使っている土地建物が代表者個人の所有であれば、成約後の賃貸借をどうするかという交渉に発展します。詳しくは「賃貸借・リース契約の整理|事務所・店舗・車両の名義と引き継ぎ」をご覧ください。

このほか、在庫についても同様のずれが生じます。実地棚卸を行っていない、あるいは行っていても記録が残っていない会社では、在庫の実在性そのものが確認できません。長期間動いていない商品や、既に価値を失った部材が取得価額のまま計上されていれば、評価減の対象になります。

確認の手順|台帳・現物・登記を突き合わせる

確認の作業は、次の順で進めると効率的です。

① 固定資産台帳を出力する。顧問税理士に依頼すれば、直近の台帳を出してもらえます。資産名、取得日、取得価額、帳簿価額、所在場所が並んだ一覧です。

② 現物を確認する。台帳の資産が実際に存在し、使用されているかを見ます。現場を回る作業ですが、機械や車両であれば数はそれほど多くないはずです。「存在するが使っていない」「既に処分した」といった状況をメモしていきます。

③ 台帳にない資産を拾う。現場にあるのに台帳に載っていないものを確認します。いつ、どのように取得したのかを整理します。

④ 登記・車検証を確認する。不動産は登記事項証明書、車両は車検証で名義を確認します。登記上の所有者が誰か、抵当権が設定されていないか。抵当権の確認は重要です。借入の担保として設定されているものが、返済済みにもかかわらず抹消されていないことがあります。

⑤ 在庫の状況を整理する。長期滞留品の有無、実地棚卸の実施状況を確認します。

この作業を、売却の動きと結びつけずに行う方法もあります。「決算に向けた資産の確認」「保険の見直しのための現物確認」といった理由であれば、社内でも自然に進められます。

ずれをどう処理するか

確認の結果として見つかったずれは、内容に応じて次のように処理します。

除却処理。既に処分した資産、使用していない資産について、会計上の除却処理を行います。これは損益に影響するため、いつのタイミングで行うか、税務上の取扱いがどうなるかを顧問税理士にご確認ください。処分したことを示す記録(廃棄証明、売却時の領収書など)があれば添えます。

台帳への計上。台帳に載っていない資産のうち、金額的に重要なものは計上を検討します。取得の経緯によって処理が異なりますので、これも税理士の判断が必要です。

名義の整理。会社が使用している資産が個人名義になっている場合、会社名義に変更するのか、賃貸借として整理するのか、成約後も個人が保有するのかを決めます。名義の移転には課税関係が生じることがありますので、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

抵当権の抹消。返済が完了している借入の担保が残っている場合、抹消登記を行います。司法書士に依頼する手続です。

在庫の評価。長期滞留品や不良在庫について、評価減や処分を検討します。これも税務上の要件がありますので、専門家の確認が必要です。

※ 本稿は資産の整理に関する一般的な実務の考え方をご紹介するものであり、個別の税務・法務アドバイスではありません。除却処理や名義変更に伴う税務上の取扱いは、事実関係と適用される制度によって結論が異なります。実際の対応にあたっては、必ず税理士・司法書士等の専門家にご確認ください。

譲渡対象に含めるか、切り離すか

資産の棚卸しを進めると、必ず出てくるのが「これは譲渡対象に含めるべきか」という問いです。

株式譲渡では、会社が保有する資産はすべて買い手に引き継がれます。したがって、事業に関係のない資産が会社に残っていれば、それも譲渡対象に含まれることになります。典型的には次のようなものです。

事業に使っていない不動産。別荘、投資用物件、遊休地。買い手にとっては買収価格を押し上げる要因になるため、事前に切り離すことを検討する場合があります。

ゴルフ会員権・リゾート会員権。事業との関連が説明しにくい資産です。

美術品・骨董品。評価が難しく、買い手が引き継ぐ意味も乏しいことが多い資産です。

生命保険。代表者を被保険者とする保険は、成約後の扱いを整理する必要があります。

社用車。代表者や家族が主に使用している車両について、成約後どうするか。

これらを会社から切り離す場合、個人への譲渡や現物配当といった方法が考えられますが、いずれも課税関係が生じます。また、切り離すタイミングによっては、買い手との合意が必要になります(誓約事項として事前承諾の対象になっている場合があります)。方針は、交渉が本格化する前に、税理士とアドバイザーを交えて検討しておくことをおすすめします。

逆に、事業に必要なのに会社が持っていない資産——代表者個人名義の設備や車両——についても、成約後どう扱うかを決めておく必要があります。買い手は、事業に必要なものが揃った状態で引き継げることを望みます。

まとめ|一覧を作れば、説明できる会社になる

資産の整理は、一度腰を据えて棚卸しをすれば、多くが解決する作業です。台帳を出力し、現物を確認し、名義を調べ、ずれを一覧にする。この作業に特別な専門知識は要りません。

そして、一覧ができていれば、DDで資産について問われたときにその場で説明できる会社になります。「この機械は3年前に処分しましたが、除却処理が漏れていました」「この土地は私個人の名義で、会社に賃貸しています」と即答できることの価値は、実務を見ていると想像以上に大きいものです。

ずれの是正には、税務上の判断を伴うものが少なくありません。除却のタイミング、名義変更の方法、在庫の評価減。いずれも顧問税理士の関与が不可欠ですので、早い段階で相談されることをおすすめします。税理士との連携については「M&Aと顧問税理士|いつ相談する?役割分担と連携の進め方」もご参照ください。

当社プラチナパートナーズでは、資産の棚卸しの進め方、譲渡対象の切り分け、税理士との連携まで、譲渡企業様のお立場でお手伝いしています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。まだ売却を決めていない段階のご相談でも構いません。どうぞお気軽にお声がけください。

よくあるご質問

A.実態に合わせて除却処理を行うのが原則です。ただし、損益や税額に影響しますので、処理のタイミングと税務上の取扱いは顧問税理士にご確認ください。処分したことを示す記録(廃棄証明や売却時の領収書など)が残っていれば、あわせて整理しておくと、デューデリジェンスでの説明がしやすくなります。除却漏れは中小企業でよくある状況ですので、過度にご心配される必要はありません。
A.株式譲渡では会社の資産はすべて引き継がれるため、事業に関係のない資産は買収価格を押し上げる要因になります。そのため事前に切り離すことを検討する場合がありますが、個人への譲渡や現物配当にはいずれも課税関係が生じます。また、最終契約後は誓約事項により事前承諾が必要になることもあります。方針は交渉が本格化する前に、税理士とアドバイザーを交えて検討してください。
A.論点になりますが、対応は可能です。成約後も賃貸借として貸し続ける、不動産も併せて譲渡する、といった選択肢があり、買い手の資金計画とご自身の生活設計によって着地が変わります。賃料が市場水準と乖離していると財務デューデリジェンスで調整の対象になりますので、現状を把握したうえで方針を早めに固めておくことをおすすめします。課税関係は必ず税理士にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら