社葬や弔慰金の規程は、多くの会社で後回しにされています。話題にすること自体がはばかられ、必要になる時期も分からない。当然のことです。

一方で、実際にその時が来たときの負担を考えると、平時に決めておくことの価値は小さくありません。悲しみの中で、誰が費用を負担するのか、いくら支給するのか、取引先にどう知らせるのかを、数日のうちに判断しなければならない。しかもその判断は、後日、税務や親族との関係に影響します。本稿では、社葬・弔慰金の規程を、承継準備の一部として淡々と整理します。

規程がないと、何が起きるか

実際に整備されていない会社で生じやすい事態を挙げておきます。

  • 費用の負担者が曖昧になる——会社が負担するのか、遺族が負担するのか。後から「会社の経費として処理してよいのか」という問題になります。
  • 弔慰金の額が場当たりになる——過去に支給した例と比べて多い・少ないという不公平感が、社内に残ります。
  • 決定権者がはっきりしない——創業者本人が亡くなった場合、誰が社葬の実施を決めるのか。取締役会が機能していない会社では、これ自体が難題です。
  • 税務上の取り扱いで後日指摘を受ける——社葬費用や弔慰金には損金算入の考え方があり、規程の有無や支給の合理性が判断材料になり得ます。

いずれも、事前に紙一枚を用意しておくだけで大半が解消します。作成の負担は、想像されるほど大きくありません。

承継準備の一部として考える

この規程は、単独で作るというより、「経営者に万一があったときに会社をどう動かすか」という備えの一部と位置づけるのが自然です。株式の相続、代表者の職務代行、金融機関への連絡、取引先への説明——これらとあわせて一式にしておくと、実際の場面で役に立ちます。急な承継への備えは「経営者が病気になったら会社はどうなる」でも扱っています。

社葬規程に書く項目

社葬規程は、A4で1〜2枚に収まる分量で十分です。次の項目を順に定めます。

① 対象者の範囲

誰が亡くなった場合に社葬(または合同葬・お別れの会)を行うのか。創業者・代表取締役・取締役・在職中の従業員など、区分を設けるのが一般的です。在職中か退任後かによる違いも定めておくと判断が楽になります。

② 決定の手続き

誰が、どのように決めるのか。取締役会の決議によるのが原則ですが、時間的な余裕がないため、代表取締役が決定し後日承認を得るという定め方もあります。創業者本人が亡くなる場合を想定し、その際の決定権者を明記しておくことが要点です。

③ 会社が負担する費用の範囲

会場費、祭壇、案内状、会葬御礼、警備、運営に要する人件費など、会社が負担する項目を列挙します。あわせて、遺族が負担する項目(密葬の費用、戒名料、墓地・仏壇など個人に帰属するもの)も明記しておくと、後の整理が明確になります。

④ 香典の取り扱い

香典を会社が受け取るのか、遺族が受け取るのか。実務上は遺族が受け取る形が多く見られますが、定めておかないと当日に混乱します。

⑤ 運営体制

葬儀委員長を誰が務めるか、実行組織をどう編成するか。承継が済んでいれば新代表が務めるのが自然ですが、承継前であれば誰が担うかを考えておく必要があります。

弔慰金・見舞金の規程

弔慰金は、社葬とは別に整理します。役員と従業員で扱いが異なるのが通常です。

定める項目

  • 対象——役員、従業員、それぞれの家族(配偶者・子・父母など)の別。
  • 金額の基準——役位や勤続年数に応じた区分、業務上の事由による死亡かどうかの区分。
  • 支給の相手——配偶者、それがいない場合の順位。
  • 支給の時期と方法

役員死亡退職金との関係

役員が在職中に亡くなった場合、弔慰金とは別に死亡退職金の支給が問題になります。この二つは性質が異なり、税務上の取り扱いも別です。役員退職慰労金規程が整備されていない会社では、この機会にあわせて検討することをおすすめします。

また、相続税の計算において、弔慰金には一定の範囲で非課税として扱われる取り扱いがあります。金額の設定にあたっては、この点も踏まえて税理士と相談してください。

社葬費用の損金算入、弔慰金や死亡退職金の税務上の取り扱い、相続税における非課税枠の適用は、支給の事情と金額の相当性により判断が分かれます。規程の作成・支給の実行にあたっては、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

保険との組み合わせ

死亡退職金や弔慰金の原資として、会社を契約者とする生命保険を活用する会社もあります。規程で支給を定めておきながら、その資金がないという事態を避けるため、規程と原資は一体で設計してください。

取引先・金融機関への連絡を、事前に準備する

規程と並んで実務的に効くのが、連絡の段取りです。経営者に万一があった直後は、社内が最も混乱する時期です。

あらかじめ用意しておくもの

  • 主要取引先の一覧と、連絡すべき担当者——優先順位をつけておく。
  • 金融機関の担当者・支店の一覧——融資取引のある全行。
  • 関係機関——業界団体、許認可の所管、顧問税理士・弁護士・社会保険労務士。
  • 連絡文の雛形——訃報と、今後の体制についての説明。

伝える内容の要点

取引先にとっての関心は、「取引が今後も続くのか」です。訃報の連絡と同時に、誰が経営を担うのか、取引の窓口は誰かを示せるかどうかで、その後の信用が変わります。逆に、体制が示されないまま時間が経つと、取引先は代替の手当てを検討し始めます。

金融機関に対しても、早い段階での連絡が重要です。代表者の死亡は融資取引に影響しうる事象であり、会社から先に説明するのと、他の経路から伝わるのとでは受け止められ方が異なります。

代表者の職務をどう回すか

代表取締役が一人しかいない会社では、後任の選任まで会社の意思決定が滞ります。取締役が複数いるか、代表取締役を複数置くかは、平時に検討しておく価値のある論点です。

株式の相続と、会社の意思決定

社葬や弔慰金と同時並行で進む、より重い問題が株式の相続です。規程の整備とあわせて、この点も確認しておいてください。

株式は自動的には後継者に渡らない

遺言がなければ、株式は法定相続分に応じて相続人が承継します。遺産分割が済むまでの間、株式は相続人の共有状態となり、議決権の行使には権利行使者の指定が必要になります。この手続きが滞ると、株主総会が開けず、役員の選任もできません。

つまり、代表者が亡くなった直後に会社の意思決定が止まるリスクは、実際に存在します。これを避ける手段が、生前の株式移転であり、遺言です。詳しくは「遺言と自社株」で扱っています。

納税資金の問題

自社株を相続した相続人には、相続税の負担が生じます。非上場株式は換金が難しいため、納税資金をどう手当てするかは事前の検討課題です。死亡退職金や生命保険金を原資とする設計、自己株式の取得の活用などが検討されます。

相続に伴う株式の取り扱い、納税資金の確保、事業承継税制の適用可否は、株主構成と親族関係により結論が大きく変わります。個別の設計は弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

どう作り、どう運用するか

最後に、実際の進め方をまとめます。難しく考える必要はありません。

作成の手順

  1. 既存の規程を確認する——慶弔見舞金規程が就業規則に含まれている会社もあります。役員分の定めがあるかを確認。
  2. 対象・決定手続き・費用範囲を決める——前述の項目に沿って草案を作る。
  3. 顧問税理士・社会保険労務士に確認する——税務上の取り扱いと、就業規則との整合。
  4. 取締役会(または株主総会)で決議する——役員に関する事項は決議を経ておくことが重要です。
  5. 保管場所を共有する——規程があっても、その時に見つからなければ意味がありません。

誰が主導するか

創業者自身が自分の社葬規程を作ることに抵抗がある場合、「役員全般に関する規程」として整備するという進め方があります。特定の個人を想定した話ではなく、会社の制度を整える作業として扱えば、社内でも進めやすくなります。後継者が主導する場合も同様です。

見直しの機会

役員構成が変わったとき、会社の規模が大きく変わったとき、承継の節目を迎えたとき。年に一度の点検までは不要ですが、数年に一度は内容を確認してください。

まとめ|備えは、悲しみの最中に判断させないための配慮

社葬・弔慰金の規程を整えることは、縁起の問題ではなく、残された人に短時間で重い判断をさせないための配慮です。あわせて、株式の相続と代表者不在時の意思決定という、より本質的な備えにも目を向けてください。この二つが整っていれば、会社は動き続けられます。

よくあるご質問

A.社会通念上相当と認められる範囲の費用については、会社の損金として取り扱われる考え方があります。一方、密葬の費用、戒名料、墓地や仏壇に関する費用など、個人に帰属すると考えられるものは対象外とされるのが通常です。判断は個別の事情によりますので、規程で費用の範囲を明確にしたうえで、税理士にご確認ください。
A.弔慰金は弔意を表すために支給されるもの、死亡退職金は退職金としての性質を持つものとされ、税務上の取り扱いも異なります。相続税の計算において、弔慰金には一定の範囲で非課税とされる取り扱いがあり、その範囲を超える部分は退職金として扱われる場合があります。金額の設定は、この点を踏まえて税理士と相談しながら決めてください。
A.代表取締役が一人で他に取締役がいない場合、後任が選任されるまで会社の意思決定が滞る可能性があります。また、株式が相続人の共有状態にあると、議決権の行使に権利行使者の指定が必要となり、手続きに時間を要します。対策としては、取締役を複数置く、生前に株式の移転を進める、遺言を作成しておくといった方法があります。早めに専門家へご相談ください。

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万一への備えも、承継準備の一部です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら